第42回「小説でもどうぞ」選外佳作 届かなかった手紙 いちはじめ


第42回結果発表
課 題
手紙
※応募数385編
選外佳作
届かなかった手紙 いちはじめ
届かなかった手紙 いちはじめ
一週間の出張から帰ってみると、郵便受けからチラシや
風呂から上がり、缶ビールで喉を潤しながらそれらをテーブルの上に広げた。見覚えのある薄いブルーの封書が大量に混じっている。
おいおい待てよ、これは出張前に送ったクラス会の案内状ではないか。慌てて数えると全てが宛て先不明で戻ってきていた。
そんな馬鹿な。案内状は二年前のクラス会名簿に従って出した。それ以後住所を変わった者がいたとしてもそれが全員ということはあり得ない。
何かの間違いに違いない。俺はすぐに郵便局に苦情の電話を入れた。
だが相手は、選別も配送も機械がしますのでそんなことは起こるはずがない、と取りつく島がない。お手元の住所録をお調べになってください、と早々に切られてしまった。
あまりのすげない対応に怒りが湧いてきたが、言われてみればその通りでもある。
年賀状をやり取りしていた数名の住所を確かめてみたが、間違いはなかった。
住所録に問題はない。だとしたら何だ。
誰かに直接電話して確かめるしかない。俺は一緒に今回の幹事を引き受けた女性のクラスメートに電話を掛けてみた。だが出たのは
俺は手あたり次第電話をかけたが全て無駄だった。
クラスメートが全員消えたとでもいうのか。
そうだ、母校に行けば何か分かるかもしれない。なにしろクラス会への補助金を申請している。出張に伴う代替え休日を利用して、俺は母校を訪ねることにした。
ナビに行き先を入力し、車を走らせて約一時間、母校が見えてきた。名簿に関する情報の中でやっと実在しているものに出くわし、俺はほっとした。
だが近づくと記憶の中の母校とは何か様子が違う。早なる胸の鼓動を自覚しながら母校をゆっくり周回し、間違い探しのパズルのように記憶と現実を注意深く比較した。
やけに校舎が新しい。築数年といった外観だ。卒業は十四年前で二十二回生だから築四十年は経っているはずだ。しかも四階建てのはずが三階しかない。更にグラウンドには野球競技の区画がない。
再び膨れ上がった不安を抱えたまま俺は車を降り、校舎に入っていった。
対応してくれた教師に、ここの卒業生だと切り出したところ大笑いされた。この学校は四年前に新設されたばかりで、まだ第一回目の卒業式を済ませたばかりだというのだ。
「それにここは女子高ですよ」
そんな馬鹿な。母校は共学だ。そしてここには同級生との掛け替えのない日々が間違いなくあった。
俺は居たたまれなくなり、挨拶もそこそこに逃げるようにそこを離れた。
気が付けば知らない道を走っていた。
気を落ち着けようとコンビニの駐車場に車を止めた。煎れ立てのコーヒーを手にこれまでの経緯をたどったが、何度考えても納得できるような答えは浮かばなかった。
コーヒーがすっかり冷めてしまったころ、突然サイドウィンドウを叩く音がした。我に返ると車の周りを数名の警察官が取り囲んでいる。ウィンドウを下げると警官は言った。
「御同行願います」
警官たちは有無を言わせず俺をパトカーに乗せ、そして見知らぬビルの一室に連行した。
その部屋にはいかにも官僚といった体のスーツ姿の男たちがいた。
「これはどういうことですか、説明してください」
「この都市のシステムに干渉しているんですよ、あなたは」
「えっ?」
「あなたはでたらめな宛て先の手紙を四十通ほど出しましたね」
「あれはクラス会の案内状だ。でたらめなものではない」
「それからあちこちに間違い電話を掛け、そして女子高にも母校だと言って押しかけた」
「違う、共学だったんだ。調べてくれ」
男たちは困ったものだとお互いに顔を見合わせた。
「あなたのその行動がシステムに対する外乱となっているのです」
「あなたはシステムプログラムに生じたバグなんです」
彼らの説明が全く理解できず、何も言えなかった。
「この仮想現実空間は先月、プログラムを全面的に更新しました」
「プレイヤーには、手紙でその更新中はログイン禁止ということを事前に通知していたのですが、あなたはそれを知らずにプレイを続け、バグとなってしまったのです」
『仮想現実』、『ログイン』、『プレイ』という言葉が、俺の中の何か重要な記憶を呼び起こした。
俺は事の次第をようやく理解した。やれやれだ。
「で、ログアウトはどうやれば……」
男たちは再び顔を見合わせ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「調べましたところ、あなたはその手紙が届く前に亡くなられていました。その……、ログインされたまま」
俺の周りのものがぐにゃりと歪み、そして消えた。
(了)