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第42回「小説でもどうぞ」選外佳作 白紙 ペンギン

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小説・シナリオ
小説
小説でもどうぞ
第42回結果発表
課 題

手紙

※応募数385編
選外佳作 

白紙 
ペンギン

「臨時速報です。本日、我がX国とY国の間で正式に終戦協定が結ばれました。なお、終戦後の取り決めについては、今後両国間で協議のうえ……」
 X国首都の鉄道駅にて臨時放送が流れる中、私は駅に降り立った。およそ三年半、長きに渡って続いた戦争が終わった。駅には、帰還する兵士を待つ家族で溢れていた。帰還し、抱き合って再会を喜ぶ者。遺品と共に身内の戦死を知らされ、泣き崩れる者。構内は様々な人間模様で溢れていた。
 駅の出口を出て、大通りへ向かおうとする道すがら、一人の女性の姿が視界に入った。
 年齢は二十代の半ばに差し掛かる頃合いだろうか。手紙を広げ、人の目をはばからず嗚咽し、涙を流している。家族の戦死を告げられた直後なのだろうか。通りすがりの人たちも、気の毒そうにその女性を一瞥する。
 私はふと、その様子が気になり、女性に声をかけることにした。
「失礼、少しご様子が心配になり声をかけました」
 急に声をかけられたことにその女性は驚きつつ、目に溢れる涙を拭いながら私に顔を向けた。
「少しお話ししても?」
 私の問いかけに女性は戸惑いつつも、頷いた。
「え、ええ。もちろんです。大丈夫です。こんなに取り乱しちゃってごめんなさい」
「失礼ながら、その手に持っているものはご家族からの手紙ですか?」
「ええ、そうです。戦地の主人から届いた最後の手紙でして、それ以来、私は居ても立ってもいられず。毎日、こうして駅で主人の姿が見えないか、と待っているのです。今日で終戦を迎えましたが、まだ主人の安否は不明でして。考えたくもないですが、もしも、主人に万が一のことがあったらと思うと、怖くて」
 女性はそういうと、また目に涙を溜め、顔を背けて涙を拭く。その目は泣き腫れており、夫の安否が分からぬ日々に憔悴しているようだった。
 私は気がかりなことがあり、女性に尋ねた。
「なるほど、それは辛い、心境をお察しします。しかし、その手紙は私には白紙に映るのですが、何か特別な意味があるのでしょうか?」
「これは、私と主人との、その、取り決めのようなものでして。もし、主人に万一のことがあって、最後の手紙になりそうな時、白紙の手紙を送る、と言われたのです。そしてそれを遺品がわりにしてほしい、と」
「なるほど」
「変ですよね。最後の手紙なのに。でも、主人は、もしものことがあれば、自分のことは忘れて第二の人生を送ってほしい。だから最後の言葉は白紙にする、と。そう言って戦地に向かいました」
 そう言うと女性は自嘲気味に笑いつつも、また涙を流した。
「そうでしたか。ちなみにご主人のお名前と戦地を教えていただいてもいいでしょうか?」
 私の質問に女性は訝りつつ、夫の名前と戦地を告げた。私は戦地と名前を聞き、ある確信を得た。
「失礼ながら、その手紙を少しお借りしても?」
 私はそう言って、女性から手紙を受け取り、持っていたライターの火でその紙を炙った。
「何をするの!?」
 焦った女性が怒声と共に、その手紙を取り戻そうとした。私は女性の手を退け、そのまま炙り続けた。すると、白紙だった紙に文字が浮かんだ。
 女性は驚き、目を見開いた。
「これは一体?」
「実は私はあなたのご主人と同じ戦地に出向いてました。あなたもご存知かもしれないが、そこは激戦地でして。明日の命も分からない状況でした。皆が家族に向けた手紙を書く中、一人だけ白紙で手紙を出そうとする奴がいましてね。気になって尋ねたら、さっきあなたが言ったことと同じことを言ってました。それを聞いた私は思わずそいつをたしなめましてね。白紙の手紙を受け取る家族の気持ちにもなってみろ、と。だが、そいつも強情で。それが約束だから、余計な心配をかけたくない、と。それで私が折衷案のような形で、火で炙れば文字で浮かぶ方法を教えたんですよ。何、ちょっとした方法で簡単にできることです」
「ああ、なんと。ちなみに主人の安否をご存知でして?」
 女性の表情が明るくなり、その視線には大きな期待が含まれていた。
「ええ、彼は生きております」
「生きている、良かった。ああ、神様は本当にいるのですね。あなたとの偶然の巡り合わせに救われました。本当にありがとうございます。では主人ももうすぐ帰ってくるのですね?」
 女性の質問に私は答えを窮したが、ここまで説明した手前、覚悟を決めた。
「そのことなのですが。非常に言いづらいのですが、その男、戦地で別の女と恋に落ちたようで。それで、あなたとの縁を切ろうと奴はあなたに白紙の手紙を送ろうとしたようで。それを知って、私は少しでも誠意を見せろ、と奴を怒ったんです」
 私の話を聞いた女性の表情が、みるみる怒りの形相に変わった。
「今浮かび上がった文章にはその謝罪文が記載されてます。ご覧になりますか?」
 私がそういって手紙を差し出すと、その女性は手紙とライターを私からひったくり、手紙を眺めた後、手に持ったライターでそのまま手紙を燃やし、つぶやいた。
「私にははじめから主人などいなかった。はじめから手紙などなかった。白紙に戻すのです。何もかも」
(了)