失敗談こそ宝! 青沼貴子が語る“共感”を呼ぶエッセイ漫画のコツ


ご自身の作風通り、明るく楽しい日常を送る青沼貴子先生。KADOKAWAコミックエッセイ編集課編集長の山﨑旬さんを交え、エッセイ漫画の描き方を教わった。
結婚、出産を機に、エッセイ漫画家に
青沼貴子さんは、もともとは少女漫画家で、1981年に集英社「週刊マーガレット」の増刊号にて『ブルーブルース』でデビューした。
「年1回の大きな賞があり、郵送では締切に間に合わなくて、集英社まで走ってもっていったんです。ですが、その場でけちょんけちょんにだめ出しされて。『これは箸にも棒にもかからない作品だから、大きな賞とは別の月例コンテストのほうに出しておくね』って言われたんですが、『いえ、大きな賞のほうにしてください』ってお願いして。それが上から2つ目の賞に入選したんです」
当初は漫画の描き方も知らず、1ページに平気で15コマも描いていたという青沼先生だが、ダイヤモンドの原石のような部分を見抜いてくれる人がいた。
「デビューするときは全部描き直しにはなりましたが、初めて入賞したとき、『この人には想像力がある』と言っていただけたのがうれしかったですね。最初は全く絵が描けず、初めて担当になった編集者の方には『本当に絵が下手だね、でも描いていれば、必ずうまくなるから』って言われました」
青沼さんは、その後、結婚、出産を機に、活躍の場を育児雑誌に移し、実際の家族を描いた『ママはぽよぽよザウルスがお好き』で一世を風靡。TBSテレビでアニメ化もされた。
1990年代初頭はまだエッセイ漫画という言い方はなかったが、リュウとアンという個性的なキャラクターと、「実話」という圧倒的な説得力によって大人気に。以降、自身の体験をもとにしたエッセイ漫画を手がけるようになった。
今回はそんな青沼先生に、エッセイ漫画の制作の過程を教えてもらうこととしよう。
基本のQ&A
——エッセイ漫画は事実でないとだめ?
エッセイ漫画はエッセイだから、自分で体験したことを描く。半分フィクションのようなエッセイ漫画もあるが、基本は事実、実話。ただし、より面白くなる誇張や省略はあっていい。
——道具はどんなものを使う?
手描きの場合はミリペンにケント紙が多い。手描きをスキャンしてパソコンで仕上げる人もいる。デジタルは家でも外でも描く人には持ち運びが便利で、ペンの買いおきも必要ない。
——完成したら応募すればいい?
描いたら応募して成果を試すのもいい。しかし、エッセイ漫画は公募の数があまりない。SNSなどに上げて読んだ人に感想をもらいつつ、公募や持ち込みの機会を待つのも手。
制作の流れ
テーマを決める
自分が描きたいことをテーマに
まず、何を描きたいか、何を描くべきかを考える。自分が大好きなこと、切実に悩んでいることを、やや誇張して描こう。
ネームを描く
大まかにラフを描こう
最初に全体の流れがわかるプロットを作り、それが終わったら、ネームを描く(コマ割りしながら、そこに絵やセリフを描く)。
下書きを描く
本番前の下絵を描こう
A4コピー用紙(裏紙でも可)などに描いたネームに従い、本番の用紙(デジタルの場合は画面)に下書きをしていく。
作画に入る
仕上げをしていこう
下書きの粗い線に実線を入れ、ペン入れしていく。ペン入れが終わったら、色や柄、影などをつけて完成!
STEP1 テーマを決める
エッセイ漫画は肩の力を抜いて、自分が描きたいと思った日常の失敗談や悩んでいることなどを明るく楽しく描くのがポイントだ。
自分のことを描けばいい!
エッセイ漫画を描こうとして、どういうテーマを選んだらいいのか悩んで、なかなか描き出せない人もいるのではないか。青沼先生の答えは明快だ。
「自分のことを描けばいいんです。そのときの自分の年齢にそったものでいい。私の場合も、20代で子どもを産んだときぐらいに『ママはぽよぽよザウルスがお好き』を描き始めて、その後、子どもが思春期になってバトル漫画風になりました(笑)。今は子どもも成長して夫婦で過ごす時間が増えてきたので、『アラフィフさんいらっしゃ〜い!』を描いたりしています。今後は『60歳までにしたいこと』をテーマに、老後的なエッセイ漫画を書く予定になっているんです」
ネタは鮮度が何より大事!
青沼先生は、エッセイ漫画を描く人は自分の中に「みんなに聞いてもらいたい」というテーマがきっとあるはずだと言う。
「テーマはしぼり出すのではなく、あふれだしてくるもの。絵にしたい、漫画にしたい、みんなに知らせたい、そんなふうに思えることをテーマにすることをオススメします。最近は自分の日常をブログに書いて絵をつけて発信し、編集者から声がかかって本になるという例が多いですよね。そういう人も描きたいことが内側からあふれているんだと思います」
自分が描きたいことであるだけでなく、鮮度も大事。
「先月メモしたことも、今月ネタとして描こうとしたら、内容が更新されていて旬を過ぎているということがあるんです。だから、そのときに起きていることで一番面白いと思うものを描く、というのもポイントです」
笑える失敗談で共感を得る!
エッセイ漫画を構想するとき、注意したいポイントが2つある。
1つは、共感だ。
「人生がめちゃくちゃうまくいっている人の話って、あんまり読みたくないですよね。それだと、ああよかったねで終わっちゃう(笑)。エッセイ漫画には、ついてない、運が悪い人のほうが向いています。簡単にいうと、失敗談が一番笑えて面白い。その後、こうやって欠点を克服しましたとは描いていいと思いますが、切り口は失敗談から入る。そのほうが共感されやすいんです」
子育てや健康、老後など、年代ごとの悩みは話がつきないもの。それを仲のいい友達に明るく話すような気持ちで描こう。
もう1つはキャラクターだ。
「あまり自分を卑下したキャラクターにしないこと。設定上の理由もなく、おブス、おデブにしないということです。漫画の主人公は、はつらつとして好感度が高いほうがいいですね!」
エッセイ漫画はエッセイだからノンフィクションに分類されるが、漫画だからありのままに描くわけではない。そこには省略と誇張が必要で、どの漫画の主人公も等身大でありながら、みんな愛らしいキャラクターになっている。
ちなみに青沼先生が描くご自身の絵は、30年以上経っても20代の頃と全く変わっていないそうだ。
※本記事は2019年7月号に掲載した記事を再掲載したものです。