エッセイ漫画は“自分フィルター”が命! 松本ひで吉が明かすヒット作の裏側とSNS活用術


Twitterのつぶやきがヒット作に!? 日常の「あるある」を気軽に共有できるSNSは、エッセイ漫画の新たな表現手段としても注目を集めている。今回は松本ひで吉さんにお話をうかがいました。
新雑誌の創刊をきっかけにプロデビュー
——最初はストーリー漫画を描かれていたのですね。いつ頃から漫画家志望でしたか。
中学生くらいから漫画を描いて応募していましたが、本格的に始めたのは大学卒業後です。漫画の学校にも通わず、アシスタントにもならず、ほぼ独学で。
——『月刊少年ライバル』(講談社)からデビューされたんですね。
別の青年誌に投稿していたんですが、そこの担当編集者が、新創刊される『月刊少年ライバル』に異動したので、その流れで。新雑誌は新人育成に力を入れると聞いていたので、チャンスが大きいかなという思いもありました。
——デビューまでのご苦労は?
あんまりないんです。当時は実家暮らしで、生活に苦労することもなくのんびり描ける環境だったのはありがたいです。いろんな雑誌に応募や投稿をして、担当者にアドバイスをもらいながらまた新しい漫画を描いて……というのを2年ほど続けました。
——デビュー後のご苦労は?
それもあんまりないんです。若かったですし、いくらでも描ける感じで。デビュー前は「このまま続けていけるのかな」という多少の不安はありましたが、デビュー後は描いてもいい場所が与えられたわけで、そこで苦労を感じたことは全くありません。
「これだ!」と思ったネタは速攻でスマホに
——エッセイ漫画を描いたきっかけは?
連載デビュー後、たまにエッセイ漫画を描く機会をいただいて、すごく楽しかったんです。でも、本腰を入れて描けるチャンスはなかなかなくて。そんなとき、飼っている犬のかわいさをツイッターでつぶやいたら、予想以上の反響があり、「じゃあ漫画にしてみよう」と思ったのがきっかけです。
——ネタ集めや原稿制作はどうやって?
ネタは、「これだ!」と思った瞬間に速攻でスマホにメモをとります。スマホには「湯上がり、かわいい」とか、他人が見たらなんだかわからないものがいっぱいたまってます(笑)。 時間のあるときに見直してテーマを決め、週末に描いて、日曜日にツイッターにアップするのが大まかな流れです。
——魅力的なエッセイ漫画を描くコツは?
まず、自分が面白かったり、楽しかったりしたことを誰かに伝えたい気持ちが強い人は、エッセイ漫画に向いていると思います。そして重要なのが、伝えたいことを自分なりの視点でとらえる「自分フィルター」を持つこと。うちの犬猫も、他人から見ればただの動物ですが、私にとってはオンリーワンの面白い存在。自分だけが気づいた彼らのかわいらしさや面白さを知ってもらえるのがうれしくて描いているんです。
——SNSの中でツイッターを選んだ理由は?
たとえば、インスタグラムを例にとると、画像サイズのしばりがあったりして、どちらかというと一枚もののイラスト向きだと思います。漫画のように読み込むことを前提にした作品はツイッターのほうが向いていると感じますね。もちろん、インスタグラムで発表されている作品も多いので、一概には言えませんが。
——ツイッターで漫画を発表する面白さ、大変さは?
紙媒体と違い、公開直後からリアクションがあるので、公開前はけっこう緊張します。でも、皆さん優しくて、共感コメントや「うちの子」自慢の写真を送ってくれるのが励みになっています。あと、犬猫の表情とか背景など、細かいところまで拡大して見てくれているのがわかるので、こちらも描きがいがありますね。
SNSは初心者の勉強の場としても有効
——最近はSNSで作品を発表する人も増えています。
今はSNSの発信をきっかけにデビューする人もいますし、プロへの扉を開けやすいですよね。本だと買ってページがめくられるまで内容を知ってもらうことすらできないので、こうした場があるのはすごくいいことだと思います。
——すでにSNSで描いている人がさらに飛躍するには?
一番大きいのは「運」かもしれません。
——確かに、たまたま出版社の編集者が閲覧してくれたなど、偶然の要素は強いですね。
ただ、運を引き寄せるには、多くの人の目に留まることが必要です。私は雑誌連載の経験から、定期更新の大切さを感じており、自信があってもなくても、とにかく毎日更新しよう、と思いました。それが、読者と日常を共有する雰囲気づくりにつながりましたし、描き続けていなければ誰の目に留まらなかったので、やはり更新頻度は大切ですね。
——最新刊『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい③』も好評です。笑えるのに、さりげなくほろりとさせるバランスが絶妙で。
そう言っていただけるとうれしいです。こむずかしくなったら楽しくないので。私自身、重たい漫画は読むのも描くのも得意じゃないので、犬猫を好きすぎて「そこまで言わんでも」となったときは容赦なくボツにします。
——そのさじ加減はどうやって?
公開直前にものすごく推敲します。自分が語りたいものと、他人が読みたいと思うものは別ものですから、ちゃんと伝わるかを一番に考えます。とはいえ、私もまだまだ修業中で、意図がうまく伝わらないことがしょっちゅうあります。すぐにリプライがくるSNSはそういう意味でも勉強になりますし、初心者にも向いていると言えます。
——『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』の今後の展開を教えてください。
この作品に関しては、これからも同じような日常を描いていけるのが理想です。犬猫も年を取って絵柄はだんだんじじむさくなるかもしれませんが、今のところ元気いっぱいなのでまだまだ続けていきます!
魅力的なエッセイ漫画を描くには?
「自分フィルター」を持つ
よくある日常の出来事をスルーせず、独自の視点、「自分フィルター」を通して新しい魅力や面白さの発見につなげよう。「これだ!」と思ったら、忘れないうちにメモを。
絵は下手でもOK
面白さがちゃんと伝われば、絵はうまく描けなくても大丈夫。今は著作権フリーの漫画素材や写真をトレースするアプリが充実しているので、活用するのも1つの方法だ。
SNSでは更新頻度も重要
毎回、最高傑作でなくても、定期的に発表することが重要。日常を共有する雰囲気が生まれて固定ファンがつき、影響力のある人の目に留まれば、一気にバズる可能性も。
松本ひで吉
2008年、『ほんとにあった! 霊媒先生』でデビュー。そのほか、『さばげぶっ!』『境界のミクリナ』等を刊行。X(旧Twitter)で人気を博した、笑って泣ける動物コメディー漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』は2020年にアニメ化。
※本記事は2019年7月号に掲載した記事を再掲載したものです。