“共感”が武器になる! KADOKAWAが語るエッセイ漫画の魅力とデビュー戦略


大人気のエッセイ漫画。背景がなくてもよく、線も少ないので、劇画に比べればハードルは低い。エッセイ(文)の部分のウェイトが高いので、絵が好きな人ならチャンス大! この機会に挑戦しよう!
KADOKAWAAコミックエッセイ編集課に聞く
エッセイ漫画 人気の秘密とプロへの道
コミックエッセイというジャンルを作ったKADOKAWAに、人気の秘密とデビューまでについて聞いた。
書籍の棚に置かれる新ジャンルを作った
エッセイ漫画が人気となったのはいつぐらいからだろうか。
「今から15、16年前にメディアファクトリー(現KADOKAWA)にいて、小栗左多里『ダーリンは外国人』や、たかぎなおこ『150cmライフ。』を手がけた松田紀子という担当者が、漫画コーナーではなく、書籍のコーナーに置かれる新しいジャンルの本を作りました。それがコミックエッセイの始まりです」(KADOKAWAコミックエッセイ編集課編集長・山﨑旬さん)
このとき、エッセイ漫画ではなく、コミックエッセイと称し、漫画ではなく書籍の棚に置いた。
「日本人には漫画を読む人が多いですが、一方で、全く読まない人もいて、ふだんは漫画の棚に立ち寄らない人に、絵と文がセットになった本を提案したという形になるんですね。手にとった人からすれば、『文だけでなく、絵もついているんだ』『これなら読みやすそう』『ふだんあまり本を読まないけど、これなら読めるかもしれない』と思える。ハードルを下げたわけです」
その棚は女性向けエッセイの棚の隣に設けられることが多く、内容的にもこれらと親和性が高いが、女性向けの実用書とはどう違うのだろうか。
「エッセイなので共感しやすく、作家と読者の距離が近いと言われています。活字と写真を使った実用書のほうが情報量としては内容が濃いのですが、コミックエッセイは実話なので、圧倒的に説得力が違います。実用書はダイエットならいかに素敵な人がモデルになっているか、片づけならいかにきれいになるかが大事になりますが、コミックエッセイは真逆で、だめだった人がいかにできるようになったかが大事なんですね。情報量より共感や説得力に価値があり、そこが支持されている理由だと思います」
情報量より精神面で寄り添えるのが魅力
コミックエッセイの読者は30代以上が9割で、その大半は女性だ。だから、30代以上の女性の生活の悩みや趣味をテーマとした作品が多い。具体的には、「ダイエット」「片づけ」「子育て」が定番のテーマだ。
「本当の実用の部分では実用書を読むと思いますが、コミックエッセイでは精神面というか、『こんなに悩んでいるのは自分だけじゃないんだ』といった気持ちに寄り添えることが重要です。『こうすればいい』という答えを提示をするだけでなく、『悩んでいても大丈夫なんだよ』と励ましてくれる作品が人気になります。読者も『精神的に救われた』とか、『同じような立場の人の作品が読みたい』という気持ちが強いようです」
コミックエッセイは人気に火がついて15年以上経つが、最近の傾向はあるだろうか。
「ここ数年は、趣味に特化したものや、自分の好きなものについて描く人が増えました。弊社の作品
で言うと、『腐女子のつづ井さん』という作品がありますが、ボーイズラブ(BL)が好きな作者が、BLというものを全力で愛する日常を描いています。これは完全にSNSの影響ですね。読者の感想として一番多いのは『自分の話かと思った』『こんなに考えていることが同じ人がいるんだ』なのですが、今までならマイナーなテーマだったかもしれないものが、SNSの投稿によって、実は好きな人がこんなにもいたということがわかったわけです」
つづ井さんもまさにSNSから登場したわけだが、SNSは出版とは今や切っても切り離せない関係になっている。
出版までにいかにプロデュースするか
KADOKAWAでは、現在、第8回「新コミックエッセイプチ大賞」を実施している。募集は年2回(2月、8月)、受賞者は1回につき最大5名で、受賞すると賞金10万円がもらえ、担当編集者がつく。
「『プチ』とあるのは、著名な漫画賞に比べれば小さな賞という意味で、作画についても、ストーリー漫画に比べればハードルが低い。内容重視です」
単行本デビューできる人は受賞者の半数ほどで、ここにもSNSがかかわってくる。
「10年前は作品づくり以外に編集者がお手伝いできることは少なかったのですが、今はSNSがありますので、デビューするまでにいかにプロデュースするかが勝負になります。だから、ブログやツイッターの使い方からアドバイスする場合もあります。たとえば、ブログなら1つの記事が長すぎたり、いきなり本題に入って誰が何を書いているかわからなかったりを直してもらったり。また、更新の頻度や、何曜日の何時が読まれやすいなど、いろいろなアドバイスをします。ツイッターも同じですが、トレンドが毎月変わっていきますので、こうすると拡散されやすいという最新のトレンドを教えるようにしています」
現在、書籍は出版点数が増え、その分、書店に置かれる期間が短くなっている。その意味でも、出版してから宣伝するのではなく、出版までにいかに読者を増やしておけるかが鍵になる。
コミックエッセイの描き手として人気となる秘訣はあるだろうか。
「人気が出るか出ないかは、最後は人柄だと思います」
加えて言うと、SNSのフォロワーが10万人いても、本を買ってくれる人がゼロでは意味がない。
同じ内容、同じ絵を描いても、人柄が出て、読む人を癒やし、温かい気持ちにさせる人は人気が出
る。作品が好きというより、作者が好きになれば、書籍化したときに手元に置いておきたくなる。
エッセイ漫画のこれまでとこれから
エッセイ漫画は、もともとはプロの漫画家が、あとがきに自画像を描き、ゆるい感じで舞台裏や近況を書いたのが始まりと言われている。エッセイだから実体験を描いたもので、ノンフィクションに分類される。
古くは、長谷川町子『サザエさんうちあけ話』、藤子不二雄Ⓐ『まんが道』、水木しげる『コミック昭和史』などもノンフィクション作品であり、さくらももこの『ちびまる子ちゃん』もエッセイ漫画だ。
2002年ぐらいからは30代以上の女性向けエッセイ漫画が人気となり、人気につれてストーリー漫画家も参入するようになった。
今後はSNSも連動し、世代も内容もバラエティーに富むようになると言われている。
コミックエッセイの火付け役『ダーリンは外国人』
国際結婚をした著者が描くコミックエッセイ。映画化、ドラマ化もされた人気漫画で、シリーズ累計は300万部のベストセラー作品。
「コミックエッセイ劇場」に見るエッセイ漫画のジャンル
「日常」に分類されるものには、片づけ、料理、家族のことなど。「生き方」は発達障害、病気、健康法など。「趣味・実用」はさまざまな分野でのノウハウもの(複数のジャンルにまたがっているものもある)。単独のジャンルでは「子育て」が多い。
※本記事は2019年7月号に掲載した記事を再掲載したものです。