福島の「食」が紡ぐ希望の物語 - 『ロッコク・キッチン』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞
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第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞の受賞作が発表された。栄えある受賞作に選ばれたのは、ノンフィクション作家・川内有緒氏の『ロッコク・キッチン 浜通りでメシを食う』だ。本作は、福島第一原発事故から13年が経過した福島県浜通りの「食」を通じて、人々の暮らしと人生を描き出す新しい生活史として高く評価された。
『ロッコク・キッチン』は、国道6号線(通称ロッコク)沿いに暮らす人々の食にまつわるエッセイを基に、川内氏が取材を重ね、映像制作も含めた総合的なプロジェクトとして展開された作品だ。選考委員を務めた最相葉月氏は、「食卓という暮らしのど真ん中に直球を投げ込むジャーナリスティックな視点」と「普遍的な物語に昇華させようという強い意志」を高く評価している。
作品には、故郷に戻った人々や新たに移住した人々の声が織り込まれている。四十年ぶりに双葉町に戻ったウメコさんの「いのはなごはん」、インド出身のスワスティカさんの「チャイ」、中国出身の大竹さんの「中華丼」など、多様な背景を持つ人々の食卓が描かれる。これらの物語を通じて、放射能とセットで語られてきた土地が、徐々に息を吹き返していく様子が浮かび上がる。
最相氏は選評で、「個の語りが文化や共同体の感性を守り、継承する機能をもち始めている」と指摘。さらに、「孤独だけど、孤立してはいない」という「アローン・トゥゲザー」の精神が作品全体を貫いていると評している。
川内氏の独特な取材手法も注目を集めている。通常、取材先での食事は遠慮するものだが、川内氏はあえてごちそうになることで、人々の心に秘められた言葉を引き出すことに成功した。この「あつかましい」アプローチが、作品に深みと真実味を与えている。
『ロッコク・キッチン』は、単なる食のルポルタージュを超えて、震災後の福島の現実と、そこに生きる人々の強さ、そして食を通じた人々のつながりを描き出す、新しい文学の形を提示している。この受賞を機に、多くの読者が川内氏の描く「新しいロッコク地図」を手に、自らの旅に出たくなるかもしれない。
なお、本作は2025年11月20日頃に単行本として講談社から刊行される予定だ。また、同名のドキュメンタリー映画も今秋にプレミア上映が予定されており、文字と映像の両面から、この独創的な作品を体験できる機会が用意されている。
出典: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000246.000031037.html