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斬新すぎても保守的すぎてもNG? 浜松市にみる公募で決めるネーミングの難しさ

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浜松市が市民を対象に公募していた新区名の候補が発表されたが、同名応募が多かった上位作が軒並み候補から外され、波紋を呼んだ。市は上位2点の候補作を追加し、予定どおり市民投票を実施。事なきを得たが、この公募を例に名称公募のあり方を探ってみた。

応募上位18位までが切り捨てられ、市議が異論

現在、浜松市には中区、東区、南区、西区、北区、浜北区、天竜区の7区があるが、これが行政区再編で、「中区、東区、南区、西区、北区の一部」(A区)、「北区の大部分と浜北区」(B区)、および「天竜区」の3区になる。

新区名の候補が公募されたのは、このA区とB区の名称。浜松市民を対象に8/25まで公募され、9/5に候補が発表されたが、応募数の多かった案が外されたことから、市の選考方法に市議から異論がでた。9/5時点での候補作は以下のとおり。

  • A区

    応募数TOP5

    1位 中央区 1,206点
    2位 遠州区 1,105点
    3位 家康区 494点
    4位 浜松区 486点
    5位 浜名区 374点

    ⬇︎

    候補作

    19位 奏区 84点
    20位 灘区 80点
    21位 曳馬野区 72点
    25位 渚区 63点
    27位 青区 59点

  • B区

    応募数TOP5

    1位 浜名区 1,258点
    2位 緑区 911点
    3位 北浜区 661点
    4位 直虎区 490点
    5位 みどり区 468点

    ⬇︎

    候補作

    2位 緑区 911点
    5位 みどり区 468点
    14位 万葉区 122点
    18位 橘区 100点
    20位 青葉区 80点

  • A区

    応募数TOP5

    1位 中央区 1,206点
    2位 遠州区 1,105点
    3位 家康区 494点
    4位 浜松区 486点
    5位 浜名区 374点

    ⬇︎

    候補作

    19位 奏区 84点
    20位 灘区 80点
    21位 曳馬野区 72点
    25位 渚区 63点
    27位 青区 59点

  • B区

    応募数TOP5

    1位 浜名区 1,258点
    2位 緑区 911点
    3位 北浜区 661点
    4位 直虎区 490点
    5位 みどり区 468点

    ⬇︎

    候補作

    2位 緑区 911点
    5位 みどり区 468点
    14位 万葉区 122点
    18位 橘区 100点
    20位 青葉区 80点

報道によると、市では上位100案の中から、類似する名前の地域の有無や、「優劣や上下関係を想起させる」名称などを除き、5案に絞ったという。

しかし、A区では、全体の47%にあたる上位18案が外され、市議から応募の半数弱を切り捨てることになると異論がでたという。

これを受けて浜松市では、上記の候補作5案に、候補になっていない応募数上位2案(A区は「中央区」と「遠州区」、B区は「浜名区」と「北浜区」)を加え、浜松市民を対象に10/12まで投票を募集した。新市名は投票結果を踏まえて選定され、11月上旬、市の諮問機関が市に答申する。

斬新すぎる名称が選ばれるとアレルギー反応が!

名称の公募の難しいところは、作品の秀逸さを競うコンテスト形式でありながら、得票の結果も無視できないこと。殊に選ばれたものがユニークすぎる場合、「もっと大勢が推した名称があるじゃないか」という意見がでる。

最近の事例だと、2018年に公募された「品川新駅(仮称)の駅名募集」がある。ご存じのとおり、これは「高輪ゲートウェイ駅」に決まったが、この名称は順位でいうと130位(応募は36点)。そのせいか、「長い」「違和感しかない」という声が噴出した。ちなみに、応募数上位は以下のとおり。

1位:高輪駅(8,398点)

2位:芝浦駅(4,265点)

3位:芝浜駅(3,497点)

もうひとつ、古い公募を挙げると、1987年に公募された「国電に代わる名称募集」がある。採用作は「E電」で、これは応募数20位(390点)だった。

応募数上位はと言うと……。

1位:民電(5,311点)

2位:首都電(2,863点)

3位:東鉄(2,538点)

今、考えると、「East」「Electric」「Enjoy」「Energy」の「E」だなんてなかなかシャレているが、昭和62年の段階では新しすぎたのかもしれない。

選ばれたものがよければ得票が下位でも問題なし

一方、名称を公募しながら、あまりにも無難なものを選んでしまうと、なんのための公募だったのかという異論もでる。福岡ダイエーホークス時代の「福岡ドーム」や、「埼玉スタジアム2002」も仮称とほとんど同じで、採用作としては面白みに欠ける。

逆パターンもあり、よくぞ下位に埋もれていたこの作品を選んだという事例もある。

たとえば、1958年に公募で名称が決定した「東京タワー」は、得票は13位(223点)。上位応募作も悪くはないが、今見ると古くさい。

1位:昭和塔(1,832点)

2位:日本塔(1,328点)

3位:平和塔(1,054点)

当時、高層建築の名称は凌雲閣や通天閣のような「閣」と、五重塔のような「塔」が主流だったが、審査員の徳川夢声がこれからの時代を勘案し、「ピタリと表しているのは『東京タワー』を置いて他にありませんな」と推挙し、これが鶴の一声となった。

2008年に公募で決まった「東京スカイツリー」も応募段階での応募数は20位以下だった。

というより、候補作のうち、表記違いの「未来タワー」(11位)、「EDOタワー」(20位)はランクインしているが、ほかは20位にも入っていない。

「新東京タワー」名称募集 候補作

・東京EDOタワー

・東京スカイツリー

・みらいタワー

・ゆめみやぐら

・ライジングイーストタワー

・ライジングタワー

これには理由があり、上位にランクインした、

・大江戸タワー(492点)

・新東京タワー(345点)

・さくらタワー(207点)

・日本タワー(206点)

などは商標権上、問題があり、候補作には入れられなかった。

こういう理由は公表できる。しかし、「平凡すぎる」「イメージが違う」など感覚的な理由の場合は公表しにくいかもしれない。

同名応募多数を外すなら理由を明確にしたい

ネーミングの要諦に「これまでにない」と「なじみやすい」があるが、これはなかなか両立させにくい。「これまでにないが、なじみにくい」名称は使うたびに不愉快になり、「なじみやすいが、普通すぎる」名称は「そのまんまだ、なんのための公募?」という声がでる。

これを解消するのが、公募のあとに投票を行う形式。公募ではユニークな案をどんどんだしてもらい、その中から問題のあるものを除外したうえで候補作を決める。この時点では同名応募は少なくても作品としてよければOKとするが、投票になったら得票を最優先する。

公募の結果を得票で決めると、安直で無難なものが選ばれてしまうが、絞ったうえで投票にかけた場合は、気に入らない作品が選ばれたとしても多数決だから納得してもらえる。

浜松市の新区名募集では、当初、候補作を絞りすぎてしまったことに問題があったが、商標権などの問題がなければ、上位は候補作に入れておいたほうがいい。それで落ちるなら納得できるし、採用となるのならそれが民意ということ。

上位を外す場合は、選考の理由を明確にしないと異議がでる。理由を公表せずに納得してもらうには? そのときは糸井重里のような誰も文句を言えない大御所を審査委員長に据えるしかない。

黒田清

編集部等在籍35年。公募歴と創作研究歴だけは長い編集スタッフ。長年の研究と経験に即して創作のヒントをお伝えします。