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あなたとよむ短歌 vol.17 連作のすすめ

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川柳・俳句・短歌・詩
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あなたとよむ短歌
vol.17
連作のすすめ

こんにちは、柴田葵です。夏真っ盛りになってきましたね。
この連載が更新されるのは、俵万智さんのベストセラー歌集『サラダ記念日』に収録されている

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

から1ヶ月少し経った8月上旬です。
この有名な短歌は「連作」の一部だということをご存知でしょうか?
連作とは、複数の短歌を連ねて一作品とする作品形式です。短歌専門誌などが主催する、新しい歌人を発掘するための公募などは30~50首の連作を募集することが多いようです。 前述の俵万智さんの短歌も「サラダ記念日」というタイトルの連作に含まれる一首。30首並ぶうちの最後から3番目の短歌です。この後に続く、最後の2首も読んでみましょう。

トーストの焼きあがりよく我が部屋の空気ようよう夏になりゆく
ワイシャツをぱぱんと伸ばし干しおれば心ま白く陽に透けてゆく

「ゆく」という語尾の歌が並び、夏が力強く近づく様子と、恋人への想いの高まりが感じられます。最後の一首に描かれる日差しの強さなどは、8月の真夏日のような印象です。
このように連作は、時間の経過や感情の変化など、大きなうねりを表現できます。とても魅力的な作品形式です。

前置きが長くなりました。それでは、今回の一首を読んで・詠んでいきましょう!

ははそはの母の姿を追い求む煤けた子の背えんえんと燃ゆ
(しょたろさん・未発表作品)


今回は未発表作品の投稿です。「入選しなかった・結果が振るわなかった短歌」を募集しているコーナーですが「投稿しそびれた」「投稿できなかった」など、未発表の短歌も大歓迎です。お気軽に作品をお寄せください。

さて、しょたろさんの作品。ぜひ音読してみてください。
「ははそはの」は枕詞です。枕詞は特定の単語を引き出して引き立てる呪文、もしくは助走のようなもので、枕詞自体には意味はありません。「ははそはの」は「母」にかかる枕詞です。この作品では「音」の面で重要な役割を果たしています。ローマ字とひらがなで作品を分解してみましょう。

HAHASOHAのHAHAのSUがたをおいもとむSUSUKEたKOのSEえんえんともゆ

H、S、Kはいずれも息が強くでる子音です。特にHとSはかすれた音(摩擦音)と言えます。こうした子音を多用することで、まるで幽霊の衣ずれのような、繊細で不穏な雰囲気が生まれています。
そして語られるのは「母の姿を追い求む煤けた子」。そしてその子の背中は「えんえんと燃」えている……。
私がこの一首から思い浮かんだのは、幼いころに見た原爆に関する映像です。破けた服を引きずり、皮膚さえも溶かしながら、はぐれた母親を探しつづける子ども。終戦から70年以上経った今でも、焼かれた人々の悲しみは「えんえんと燃」えているのかもしれません。

しょたろさんの作品中に、戦争や原爆といった具体的な言葉は一切ありません。けれども、私はそのような印象を受けました。これは短歌の「音」「意味」「短さ」の効果だと思います。衝撃的で、すばらしい作品だと感じました。

この作品のように、写実的な場面を示さない短歌は、その読み(読解)が人によって大きく分かれます。さまざまな読みを生み出す懐の深さも、短歌というジャンルの魅力かもしれません。ただ、読む人によって大きく読解が異なる以上、作品の魅力が伝わりきらない可能性も否めません。

しょたろさんに強くオススメしたいのが、短歌の「連作」に挑戦することです。
前述の通り、連作は自らの世界観やイメージをより深く構成することが可能です。音やイメージにこだわり抜いたしょたろさんの連作を、私はぜひ読みたいと思いました。例えば、私自身も応募して受賞した笹井宏之賞も50首連作での募集です。第4回は2021年9月末締切とのこと。興味があればぜひ!

引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!

 
■講師プロフィール
柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
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