1音の推敲で情報量を増やす あなたとよむ短歌
1音の可能性
こんにちは、柴田葵です。
実は今年の3分の1が過ぎたことにお気づきですか? いやいや「物は言いよう」ですね。あと3分の2も残っています!
年度が改まって新しい公募が増えてくる時期。ピンとくるものがあれば、ぜひ投稿してみてください。
それでは今回も、投稿していただいた作品を一緒に読んで・詠んでいきましょう。
「山上憶良短歌賞」は、歌人・山上憶良が国守として赴任した鳥取県倉吉市で開催される賞です。万葉集に80首も収録されている憶良について、国語の教科書で学んだ方も多いのではないでしょうか。
妻や子どものことを数多く詠んだ憶良にちなみ、山上憶良短歌賞では毎年「家族」をテーマにしています。家族詠はその時代の状況も映し出す、興味深いジャンルです。
さて、チームさぼさぼさんのこちらの一首、すばらしいと思いませんか。
餃子の夕飯を楽しみにする弾んだ心が「発泡酒一缶冷やして出る朝よ」という上句からありありと伝わってきます。冷蔵庫のひんやりした空気や発泡酒の重みなど、五感を使って楽しめる作品です。
「出る朝よ」の「よ」も効いています。同じように「よ」を使っている短歌としては、
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ
(石川啄木 ※/は改行)
が有名かもしれません。なんとも言えない気持ちの高まりが「よ」に表現されていますね。
すでに十分に魅力的な作品なので、今回、ご紹介するのを迷いました。けれども思い切って、下句について考えてみたいと思います。
「今夜は夫が餃子を焼く日」は、弾むようなリズムが心地よく、心情にぴったり合っています。一方で、意味としては「今夜は」「日」のいずれか片方さえあれば、夕飯に夫が餃子を焼く日である点は伝わりそうです。
約31音で構成される短歌においては、1音が作品の31分の1を占めます(当たり前ですね)。そう思うと、1音1音推敲するのも決して無駄ではありません。
例えば、最後の「日」の1音を「の」や「よ」に変えてみましょう。
口語体や会話調を短歌に使うと、一首に柔らかさや軽やかさが出ます(締まりがなくなる場合もあるので、その点もよく考えましょう)。①はウキウキ感が増したように思います。②は敢えて「よ」を重ねることで、独特のリズムが生まれています。少し好き嫌いがあるかもしれませんね。ぜひ自分の好みを見つけてください。
次に「今夜は」の4音を変えてみました。
情報量が増えました。③はプレミアムフライデー感が、④は手作り餃子で祝う親密さが、⑤は夫の几帳面な性格と大量の餃子が見えてきます。
いかがでしょうか。ほんの数音変えるだけで、感情を強めたり情報を増やせたり……可能性を探るのは楽しいですね。
引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!
応募規定 | ペンネームと、入選を逃した公募タイトル・応募した作品・お題やテーマ(ある場合のみ)をお送りください。 |
応募方法 | 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌」をつけてツイートしてください。 |
賞 | 採用1点=公募ガイドONLINE上で講評・アドバイス、金券2000円分進呈 |
締切 | 常時募集 |