あなたとよむ短歌 vol.8 本当に「こそあど」でいい?
本当に「こそあど」でいい?
こんにちは、柴田葵です。
気づけばもう11月。今年の終わりも見えてきました。
年内締切・来年発表という公募も多そうです。いま応募をしておくと、楽しみに年越しできますよ!
それではさっそく今月も、ご投稿いただいた「公募に応募したものの入選を逃した短歌作品」を、一緒に読んで・詠んでいきましょう。
毎日開催・誰でも参加可能なオンライン歌会「うたの日」への投稿作品です。「うたの日」はvol.6でも登場しました。
連続出詠記録をコツコツと目指している方もいるそうです。
大海さんの作品は、少し不思議な、けれども多くの人々のノスタルジーを呼び起こすもの。余談ですが私も運動が苦手で、逆上がりを一度もできたことがありません。
大人になれば鉄棒が好きでも嫌いでも困らないものですが、子供のころに抱えた「鉄棒がきらい」という感情は、古傷のようにふと蘇り、なんとも言えない気持ちになるものです。
鉄棒を回るとき、周囲はさかさまに見えます。鉄棒さえできれば「あの子」の「さかさま」の姿も見ることができるだろうに、ついに「さかさまのあの子に会えず」それっきりだったという感じでしょうか。他の解釈もできそうですね。
謎めいた雰囲気が印象的な作品です。今回は、ここに出てくる「こそあど言葉」について考えてみたいと思います。
こそあど言葉=「これ」「あの」のような指示語は、音数が限られている短歌ではつい使いたくなるものの一つです。具体的に何を指しているか、読者の想像に任せられるので、言葉の余白を生かす短歌と相性がいいようにも思えます。
しかし、意外とこれが落とし穴になりがちです。
「具体的なものを指し示さず、指示語を使って読者の想像に委ねる」という作品づくりは、裏を返せば「読者が想像できなければアウト」です。また、指示語を多用すると、どうしてもその作者らしさが弱まる気がします。
ですので、指示語は「絶対に指示語でなければならない」と狙いを定めて使う場合以外は、一旦「何か具体的な言葉を入れられないかな」と考えてみるのがおすすめです。
大海さんの作品の「さかさまのあの子に会えず」の「あの子」は、おそらく子供で、主体はその子に対して友情なり尊敬なり恋なり、特別な感情を持っているようにも読めます。
しかし、どうしても像がぼやけます。そのぼやけた感じが、まるで実在しない幽霊を見るような雰囲気を醸し出しているのですが、具体的な人物なのか、幻想的な光景なのか、読者としては迷ってしまいます。「何通りもの読みを楽しめる」のであれば良いのですが、「読みに迷う」のはあまり心地よい状態ではありません。
一旦「あの子」だけを伏せてみました。
大海さんのなかで具体的な「あの子」がいるのであれば、それに合った言葉を入れるべきだと思いますが、ここではシンプルに「こそあど言葉以外の言葉を入れたらどうなるか」という実験をしたいと思います。
①は「少女」という一般名詞を入れました。少女と言っても実際には様々ですが、少女という言葉の持つイメージには一般的に共通するものがあると思います。
②は「翔太」という固有名詞を入れました。短歌において固有名詞の存在感は強烈です。実在する少年である感覚が増し、「さかさまの翔太」への憧れが伝わります。
③は「未来」という子供ではないものを入れました。「さかさまの未来」=状況が反転する未来が見えなかった、そしてそのまま大人になった、というように読めます。一方で、②のように固有名詞としても読めるかもしれません。
いかがでしょうか。「こそあど言葉」は慎重に、ここぞというときに使って、味方につけたいものです。
引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!
応募規定 | ペンネームと、入選を逃した公募タイトル・応募した作品・お題やテーマ(ある場合のみ)をお送りください。 |
応募方法 | 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌」をつけてツイートしてください。 |
賞 | 採用1点=公募ガイドONLINE上で講評・アドバイス、第6回掲載分から金券2000円分進呈 |
締切 | 常時募集 |