あなたとよむ短歌 vol.4「ひっくり返す」
「ひっくり返す」
こんにちは、柴田葵です。
連載『あなたとよむ短歌』も4回目。
公募に応募したものの入選を逃した短歌作品を投稿していただき、一緒に読んで・詠んでいくコーナーです。
新型コロナウイルスや熱中症など、いろいろ気がかりな季節。家で動画や読書を楽しむのも素敵ですが、今年の夏は公募にチャレンジしてはいかがでしょうか?
以前は「公募」というとハガキをせっせと書くイメージでしたが、今ではWEBから応募できるものが多数。思いついたら5分で応募完了です!
それでは、今回の短歌はこちらです。
「毎日歌壇」は、毎日新聞に掲載されている短歌の投稿コーナーです。このような短歌欄は各新聞社の名を冠して「〇〇歌壇」と呼ばれることが多く、総じて「新聞歌壇」と言います。どの新聞歌壇もかなりの歴史があり、何十年も投稿を欠かさない方もいるようです。投稿数が多いので、入選はかなりの激戦。それだけに、作品のレベルも高く、常連の入選者にはファンが生まれたりもします。作品が新聞の紙面に載るチャンスです。
朝田さんの作品は、躍動感のある一首。落馬は、騎手にとっては命にも関わる大事故でしょう。しかし、競走馬は止まりません。鍛えあげられた一頭の馬、その馬だけが、全力で駆け抜けてゆく。騎手が落馬したまま走るのは「束の間」の事件ですが、動物に受け継がれる駆けることへの本能や、駆けるための美しい肉体には「永遠」さを感じます。
「騎手を振り落とした競走馬」へのドラマチックな視点、「束の間」と「永遠」という反対の言葉を合わせる面白さ。とても魅力的な作品です。
この魅力をさらに引き出して、入選に近づくには、どうすれば良いでしょうか?
今回は「問いと答え」について考えてみます。
朝田さんの作品の上句「束の間の永遠の中を駆け抜ける」まで読んだとき、読者は戸惑うはずです。「束の間の永遠」とは? 何が、なぜ「駆け抜け」ているの? そのような『問い』を持ったまま下句を読み、ああ「騎手を振り落とした競走馬」だったのか、と『答え』を知ることになります。
最初に『問い』を発生させることは、作品の吸引力にもなり得ます。ただし、下句の役割が『答え』の領域を出ないかぎり、読者としては「なるほど!」という印象に留まってしまいがちです。
この作品のポイントはやはり「束の間の永遠」という矛盾をはらんだ真理ではないでしょうか。それならば、読者には「なるほど!」と思わせるよりも、その矛盾の面白さを味わってもらいたい気がします。
そこで『問い』→『答え』の構造にならないように、思い切って上句と下句をひっくり返してみました。
「駆け抜ける」の位置はそのまま。音数の都合により「競走馬」を「馬」としました。「騎手」という言葉があれば「馬」だけで「競走馬」だと伝えられそうです。
「束の間の永/遠の中を」だと、結句が6音(字足らず)になります。「字足らず」は、リズムに大きな欠落感が出るため、意識的に取り入れるのでなければ避けたほうが無難です。
今回は実験的に、字足らずを補いつつ、色彩を追加してみました。
いかがでしょうか。倒置法を用いて「束の間の永遠」を最後に持ってきたことで、馬とともに「束の間の永遠」を味わう余韻を残せそうです。色彩や、音、匂い、手触りを入れると、より臨場感がでるかもしれません。一度完成した短歌でも思い切ってひっくり返してみると、発見があったり、意外に良かったりするのでオススメです。
引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌もお待ちしています!
応募規定 | ペンネームと、入選を逃した公募タイトル・応募した作品・お題やテーマ(ある場合のみ)をお送りください。 |
応募方法 | 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌」をつけてツイートしてください。 |
賞 | 採用1点=公募ガイドONLINE上で講評・アドバイス、第6回掲載分(今回の募集)から金券2000円分進呈 |
締切 | 常時募集 |