作家インタビューWEB版 安部龍太郎さん
- タグ


公募ガイド2月号の特集「2020年こそターニングポイントの年に!」では、直木賞作家の安部龍太郎さんにご登場いただきました。
誌面に入りきらなかったインタビューをご紹介します。
安部龍太郎(直木賞作家)あべ・りゅうたろう
1955年福岡県生まれ。図書館司書を経て、1990年『血の日本史』でデビュー。05年に『天馬、翔ける』で第11回中山義秀文学賞、13年に『等伯』で第148回直木賞、16年に第5回歴史時代作家クラブ賞実績功労賞を受賞。
歴史小説を書くときには、史実という変えられない部分がありますが、その間にあるわからない部分は空想で埋めていくのですか。

安部先生
空想というより類推と言ったほうが近いと思います。こういう状況、こういう背景で生きた人が、こういう立場におかれたらどうするだろうと類推を重ねていくわけです。
これから歴史小説を書こうという方にアドバイスをお願いします。

安部先生
大きな物語を書こうとすると、背景を書き込む力量がまだついていないから、難しいところがあります。だから、小さいところから始めるといい。
歴史の中で自分の好きな主人公を一人見つけて、その人がどう生きたかを、その人の視点にそって、ずっと書いていく。出発点としては、これが一番いい。
この積み重ねができたら、今度は歴史観というものを持ってもらいたい。
歴史小説を書くには知識が必要ですが、歴史を学ぶといってもきりがありませんし、どの程度学んでから書き始めればいいですか。

安部先生
歴史学者が一生研究してもわからないことがあるくらいですから、歴史を学んでから小説を書こうという発想はしないほうがいい。それより、この主人公を書くにはどうしたらいいか、何と何と何が必要かと考え、そのスキルアップを図っていくほうがいい。書きながら調べ、調べながら書いていく。
史料がないことも多いですね。

安部先生
ぼくは歴史小説を35年も書いていますが、わからないことだらけですよ。信長を書いても、信長の父親ぐらいまでの史料はけっこうありますが、信長の祖父、曾祖父となってくると、どんどん史料がなくなっていく。一家の物語を書こうとしたら、曾祖父のことぐらいまでわからないと書けないという意見もありますが、歴史小説を書こうとするとき、わからないことがあるのは前提だと、覚悟していたほうがいいと思います。
リタイア後に小説を書こうとする人にアドバイスをお願いします。

安部先生
自分のキャリアに誇りを持っている人、たとえば、大企業の重役だった、小学校の校長をしていた等々。小説を書こうとしたとき、そうしたプライドがすべてじゃまになる。それらはすべて捨てて、子どもに戻って書いてもらいたい、子どものように人間に対するピュアな関心をもって書いてもらいたい。
転機について、どう思われますか。

安部先生
転機にはプラスの転機とマイナスの転機があります。種を植えて、芽が出て、幹となってどんどん成長していく。あるいは、脱皮をくり返して、目指すものになっていく。これがプラスの転機。
一方、マイナスの転機は、突然外からやってくる。病気、事故、あるいは倒産。これらも転機なんです。それらが自分を深く見つめ直すきっかけになる。
転機が訪れても準備ができていないと、飛躍できませんよね。

安部先生
なんとしてでも目指す小説を書いてやると、寝てる間も書くことを忘れないくらい必死で思い込まないと夢は実現しません。その執着心の強さが最後の拠りどころになると思います。

公募ガイド2月号では、安部龍太郎さんに「現在に至るまでの転機と、新刊『蝦夷太平記 十三の海鳴り』について」伺っています。
公募ガイド2020年2月号
特集「2020年こそターニングポイントの年に!」
2020年1月9日発売/定価680円