あなたとよむ短歌 vol.2「説明」をやめてみる
「説明」をやめてみる
こんにちは。柴田葵です。
連載『あなたとよむ短歌』、初回はお読みいただけましたでしょうか?
公募に応募したものの入選を逃した短歌を投稿していただき、一緒に読んで・詠んでいくコーナーです。
新型コロナウィルスで外出が難しいなか「公募や短歌に挑戦してみようかな」という方も、反対に「普段は短歌をつくってきたけれど、今は無理」という方もいらっしゃるかと思います。「できるとき、やりたいときにやれる」というのが、公募や短歌の良い面かもしれません。この記事が、少しでも気分転換になりますように。
それでは、今回の短歌はこちらです!
神業の進化を見せる彼がいる その頭上では国旗が上がる
「はがき」歌全国コンテストは、俳人・歌人である正岡子規の故郷・愛媛県松山市が主催する公募です。手紙のように「○○へ」という前提で詠むスタイル。平安時代に和歌が手紙のような役割を果たしていたことを思うと、なんだか取り組みやすいような気がします。
招き猫さんの作品は、フィギュアスケーター・羽生結弦選手への一首。スケートリンクの上で「神業」を繰り広げる羽生選手。とどまるところを知らずに進化を見せる彼は、常に結果を出し、頭上には国旗がはためている……この短歌の素晴らしいところは「視線の移動」です。リンクで演技している羽生選手に魅入っている上句から、彼の上に掲げられた国旗を見上げる下句への鮮やかな切り替え。この短歌のなかに含まれる「下から上への視線の移動」が、進化する羽生選手の姿とも、観客の高揚した気持ちとも重なり、一首をドラマチックに盛り上げています。
この短歌の魅力を存分に発揮して、入選に近づくには、どうすれば良いでしょうか?
今回、見直すポイントは「説明的になっていないか」という点です。
誰かに何かを説明したいときや、日常的な文章であれば、意味の明確さは大切です。けれども、31音しかない短歌において「意味の伝わりやすさ」を最優先してしまうと、意味以外の感情や感動、空気感や音の楽しさが失われてしまうことがあります。
招き猫さんの作品の「その頭上では」の部分。「その」は「神業の進化を見せる彼」つまり羽生選手を指します。この書き方は意味が大変明確になりますが、一方で「その頭上では」と言わずとも、おおまかな意味は伝わります。後半の「国旗が上がる」だけで国旗が「上」にあることは分かりますし、「進化を見せる彼」だからこそ「国旗が上がる」という関連性も失われません。
というわけで、一旦「その頭上では」の部分を取ってみました。
7音、余裕ができました。7音もあると、さまざまなチャレンジができます。
(1)は意味がわかりやすいですが、まだ少し説明的すぎます。国旗掲揚はそもそも選手を讃えるものだからです。(2)では、拍手を「海」としたことで、水平線から昇る太陽のような雰囲気になりました。私としては(3)くらい意味から飛躍して自由になった短歌が好きです。スケートリンクの白さ、照り返す光をイメージしました。もっと大胆にするなら(4)はいかがでしょうか。「夢みたいだわ」と観客の気持ちを口語で差し込むことで、思わず本心が現れたような高揚感が出ます。
いかがでしょうか。
説明的になりずぎている部分はないか、省略して構わない部分はないか、その音数で何かできることはないか。様々な可能性を探ってみると、あっという間に時間が経ってしまいますね。
引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿からもお待ちしています!
応募規定 | ペンネームと、入選を逃した公募タイトル・応募した作品・お題やテーマ(ある場合のみ)をお送りください。 |
応募方法 | 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌」をつけてツイートしてください。 |
賞 | 採用1点=公募ガイドONLINE上で講評・アドバイス |
締切 | 常時募集 |