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いつかの約束

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いつかの約束

城依見

昔、あるところに双子の赤ん坊が生まれました。お母さんは双子を産んだあと、すぐに死んでしまいました。お父さんはその子たちを一生懸命に育て、仕事もして、くたくたでした。

男の子は星、女の子は織と名前をつけられて、お父さんの愛を一心に受けて素直な子どもに育ちました。星はお父さんの手伝いをして鍬を使い、畑を耕し、織は近くのおばあさんたちの教えで糸を紡ぐことを覚えました。

小さいときからこのあたりには子どもがいなかったので、星と織はみんなから大事にされ、素直ないい子に育ち、働き者になりました。

でも、いつも二人でいたので、いつしか、兄妹ということを忘れて、お互いを好きになりました。

まわりも、兄妹なので別におかしいことはないと、何も不思議に思いませんでした。

川で遊ぶ二人を見ていたお父さんは、それをかわいいと思って見ていましたが、いつしか時が過ぎて、お父さんは病気になりました。

死が近くなってきたある晩、死んだ妻が枕元でささやきました。

お父さんは、兄妹はもう大きくなったので不安はないと思いましたが、妻は違いました。

「あの二人は愛し合っています。これ以上、一緒には置いておけません」

「どうすればいいんだい?」

「引き裂くことはつらいけれど、今日限り、私がどちらかを連れて行きましょうか?」

妻は母親としての責任を取るつもりでした。

「命まで奪うことはかわいそうではないか」

「では、織をほかの誰かと結婚させるしか」

「そうだな。分かった。約束するよ」

お父さんは翌朝、星と織を呼んで、お母さんから聞いたことを二人に告げました。

二人はびっくりしました。

お互いに愛していることが悪いだなんて、知らなかったのです。

どうして教えてくれなかったのかと、お父さんは二人に責められました。

読み書き、計算は教えました。仕事も教えました。

けれど、愛してはいけないことは教えるまでもないと思っていました。だから、本当に愛し合っていたとは気がつきませんでした。

お父さんは、二人をなんとかしないと、お母さんがどちらかをあの世に連れていかなくてはならないのだ、と言いました。

星は、「僕があの世に行きます」と言いました。

すると織は、

「星がいないこの世に未練などないわ」

と、その場にあった糸をすくう道具で胸を突いて死んでしまいました。

星とお父さんは嘆き悲しみ、織の亡骸を竹で組んだいかだに乗せ、川に流しました。

星は哀れな織を一人流すことはできないと川の中に入り、いかだを追いかけました。

病気で弱ったお父さんは星を追いかけることもできず、泣きながら見ているうちに、その姿を見失ってしまいました。

星は川で深みに溺れて死んでしまいました。

織は星とともにあの世に旅立ってしまいました。

一人残されたお父さんは嘆き悲しみ、織と星を失ってしまったことを悔いました。

いつしか夜になり、そこへお母さんが二人の子どもたちを伴い、お父さんのもとに現れました。

「おお、お前たち。初めてお母さんに会えたんだね」

お父さんはおじいさんになっていましたが、お母さんは若い姿のままです。

「お父さん、今までありがとう」

二人の子どもたちはお母さんに会えてうれしそうにしています。お父さんは先ほどまでの苦しみも薄れてとても幸せな気持ちになりました。まるで、なんの苦しみもないように。

お母さんは天国からいつも家族を見守っていたのです。

お父さんの死期を知ったお母さんが、兄妹だけが現世に残ると二人は兄妹の垣根を越えてしまい、家族が天国と地獄に分かれてしまう。お父さんにそれとなく分からせるつもりが、こんな結果になってしまったのです。

でも、あの世でも兄妹を一緒にするわけにはいかないので、天空の神様にお願いして、一年に一度だけ会えるようにと計らってもらうようにしました。

二人はあまりにも愛し合っていたけれど、それは許されないのだと。

天空の神様はそれぞれの名前を彦星と織姫と変え、天の川を挟んだところに置きました。

お父さんは死んだあと、お母さんに自分の罪を詫びましたが、お母さんはそれは私の罪だからと言いました

七月七日にしか会えない二人が、兄妹だったなんてあまり知られていないお話です。その日だけお父さんとお母さんが牛に姿を変えて、二人の乗る車をひくことも知られてはいないでしょう。