ワクワクさがし
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ワクワクさがし
さくら
ボクは、小学三年生のたくと。
今は、学校に行く途中で、となりに住む、自称発明家のおじさんに回覧板を届けに行くところ。
「おはよう。回覧板を届けに来たよ」
「いつもありがとう。どうした? 元気がないじゃないか」
「あのね。学校がつまらないから、行きたくないんだ。先生の話より、おじさんの話を聞いているほうがよっぽど面白いんだよ。なんで学校に行かなければいけないの?」
おじさんは少し考えてから、部屋の奥に行って何かを持ってきた。
「たっくんに、いいものをあげよう」
おじさんは、意味ありげに、にやっと笑って、めがねとバッジをくれた。
「きっと、面白いことがおこるよ」
ボクは半信半疑で、めがねをかけ、Tシャツにバッジをつけた。
「ありがとう、おじさん。行ってきます」と言って、学校に向かった。
冒険が始まるかも、と期待してまわりをきょろきょろ見わたしてみたり、空から何かがふってくるかも、といつもは見ない空を見上げてみたりしているうちに、気づけば学校に着いてしまった。
「特に何もおこらなかった。ざ~んねん。でも、道ばたにさいていた小さな花や不思議な形の雲を見つけて、いつもより楽しかった」
上靴に履き替えようと下足箱を見ると、ボクの場所にだれかの靴が入っていて、上靴もない。
「あれ、だれかが間違ったのかな?」
仕方がないので、来客用スリッパを履いて教室に向かったけど、何か変だ。いつもと違う。おそるおそる教室の中をのぞいてみると、教室にいるのは知らない人ばかりだ。
「えっ、なんで? どうなっているの?」
中に入れずにドアの前でもたもたしていると、
「どうした? 教室に入らないのかな?」
後ろから声をかけられた。ふりかえってみると、男の人が立っていた。その人は、ボクを見ると、とても驚いた顔をしたあと、すぐに笑顔になって、
「あー、たっくんだね。君を待っていたよ」
「えっ。なんで、ボクを知っているの?」
「何がおきているのかわからず、困っているみたいだね。ついておいで」
その人が、教室とは違う方向へ歩き出したので、ボクはその後ろについていく。
「あなたは、だれですか?」
「それはまだ秘密。でも、すぐにわかるよ。さぁ、着いた。このドアを開けてごらん」
目の前のドアを開けて中に入ると、そこには面白そうな遊び道具がたくさんあった。
「わぁ、すごい」
「気に入ったかい? ここは、僕が教えている発明クラブの部室だ。全部、一から考えて作ったものだ。君に見せたかったんだよ」
机の上を眺めていると、あるものに気がついた。
「これ。この前、ボクがノートのはしに、こんな遊び道具があったらいいな、と思って、いたずら書きしたのとそっくりだ。ほら見て」
ボクは、ランドセルからノートを取り出してその人に見せた。
「そりゃ、そっくりなはずだよ。だって、そのアイディアを元に僕が作ったんだから」
「どういうこと?」
「僕は未来の君で、この学校の先生さ。君は三十年後の未来にやってきているんだよ」
その人は、満面の笑顔でウィンクした。
「え? あなたは大人になったボクってこと?」
「そのとおり。そして、そのバッジはつけた人が時空を移動できる僕の発明品だ。過去の君が未来の僕のところへ来るように設定して、となりのおじさんに預けたんだ。未来の僕がおじさんの前に突然現れたときの彼の驚いた顔はすごかったけど、それは今度話すよ」
「ボクが将来、こんなすごいものを作っちゃうなんて信じられない」
「大丈夫。でも、学校がつまらないって言ったままではだめなんだ。ワクワクを作り出すには、たくさんの経験と知識が必要だからね。大いに挑戦して、失敗して、成功して、楽しみながら学んでほしい。そのことを伝えたかったんだよ」
「うん、わかった」
「さ、そろそろ帰る時間だよ。このドアをくぐったら、元の時間にもどれるから。今度は自分でバッジを作って、僕に会いに来て」
ドアをくぐると、いつもの学校の廊下だった。後ろを振り返って、出てきたドアをあけてみても、そこはもうただの空き教室だ。いつもの教室に行くといつものみんながいた。夢かと思ったけど、胸にはたしかにバッジがあった。
おじさんに今日の出来事を話そう。そして、これから、ボクも面白いことを自分で作り出そうかな。学校がつまらない、なんて言っていられない。これから、楽しくなりそうだ。