ドキドキゆうれい犬 アカネちゃん
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ドキドキゆうれい犬 アカネちゃん
青月星夜
初めて、アカネが、ゆうれい犬としてデビューしたのは、お母さん犬カムイが亡くなって二日目のことでした。
死期のせまったお母さん犬カムイは、タマシイの抜け出し方をアカネに伝えました。
そのやり方はこうです。
夜の九時過ぎ、いつもの散歩コース(ほかの散歩コースもあります)、シバ栗山のいただきに登り、向かいの鉄塔にひと吠え「ウォーン」と鳴き、大きなあくびをします。
そのとき、自分の口から出るタマシイを引っ張り出すのです。その瞬間、タマシイはゆうれいになり、空に昇って浮いたままになれるのです。
そのかわり、体に戻るときが大変です。
二時間以内に、イビキをかいて眠っている自分の大きく開いた口に、青白く光るゆうれいの尻尾をつかんで押し込みます。
完全に体の中に入ったら、そこでもう一度「ウォーン」って鳴くのです。
そうすると体にタマシイが戻り、元どおりになります。
これをお母さん犬カムイに教わり、アカネはいろいろなできることを試し、たくさんの発見をしました。
①生きたままのゆうれいは、他の犬の体に入ることができ、おいしいものを食べたとき同じような感覚になれる。
②ゆうれいのまま、人間の耳元で話しかけることができる。
③空を飛んで、どこへでも行ける(でも鉄塔の高さ以上には行けない)。
④ゆうれいなので、他の動物とも話ができる。
今日も、飼い主の香津代さんとの夕方の散歩が終わると、今から何をしようかと思いなやんでいました。
近所の犬のリンタロウの体に入り、チーズとササミを食べようか?
それとも、飼い主の香津代さんの耳元で「焼き芋、焼き芋。」と繰り返し囁き、朝の散歩後のおやつに焼き芋が出てくるように誘導するとか……。
「そうだ、アレだ」
香津代さんが言っていた。
「最近、庭の木に留まるヒヨドリが車の上にフンをして、車がよごれるから、どうしたものか?」ってことに悩んでいたから、それを解決してあげたら喜ぶかも。
さっそく、最近おぼえた首輪外しの技をつかい、夜のシバ栗山でゆうれいになったアカネは、フラフラ飛んで、庭の木によく留まりに来るヒヨドリを捜しに出かけた。
さっそく手当たり次第にウグイスのミントちゃんやコマドリのレンちゃんたちに聞いてみた。
そうして、ヒヨドリの居場所はドングリの木で、それはシバ栗山で二番目に大きな木であることが分かり、そのドングリの木に向かった。
そこには、ヒヨドリのマリリンとベティが留まっていた。
「ちょっと! そこのヒヨドリちゃん!」
呼ばれたヒヨドリたちは、あわててにげだそうとしました。
なんせ相手はゆうれい犬なのだから。
「まって! こわがらなくていいから」
「いつも私の庭に来てるマリリンとベティちゃんだよね? おねがいがあるんだけど」
「明日から木の下に車があるときは、フンをするのはやめてちょうだいね。そのかわり、それを守ってくれたら、私のおやつのクッキーを一枚ずつあげるから、約束だよ!」
ヒヨドリたちはうなずき、飛んでいった。
その翌日からは、車にフンが落ちることはなくなった。
朝、香津代さんはダンナさんに言った。
「不思議よね。けさから鳥のフンが落ちてないの!」
アカネは、朝も仲よくならぶマリリンとベティに、クッキーを一枚さしだした。
二匹のヒヨドリはうれしそうにアカネに頭を下げ、それぞれ口にクッキーをくわえ、空に飛んでいった。
アカネは大好きなクッキーをあげたことに少し不満そうに、「あーあッ!」っと深くため息をついた。
澄み渡った青空には、ヒヨドリたちのさえずりがいつまでも聞こえていた。