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うわさ

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うわさ

木イチゴ

山奥に四匹のサルの親子が暮らしていました。父ザルは、上の息子が大きくなったら南方のとびきり青い海を見せたいと夢見ていました。母ザルも息子の成長を願い、毎朝夜明け前に起き、パンを焼きました。

その話を父ザルから聞いた友達のリスは、親子のために木片を集め、荷車を作ってプレゼントしました。喜んだ父ザルは海を見たいというリスも誘い、その日が来るのを待ちました。

季節が巡り、いよいよその日の朝がやってきました。母ザルは、赤ちゃんをおぶい、パンの入った袋を息子の肩にかけると、「行ってらっしゃい!」と見送ります。

父ザルは子ザルとリスを乗せた荷車を引き、初夏の風を切り、出発しました。山沿いの道を通れば昼頃には海に着けるはずです。ザクザクと山道を下り、畦道に出ると、クマたちが噂する声がしました。

「あんなオンボロ荷車じゃ、すぐに日が暮れるぜ」

と噂する声に父ザルは、あわてて走り出しました。

次の角を曲がるとキリンたちが長い首を横に振り、

「こんなオンボロ荷車で走るな!」

と怒鳴りました。

その声に傷ついた父ザルは荷車を止め、座り込みました。

ふと気づくと、脇道の水辺で水浴びをしているゾウたちが近寄ってきて、

「こんなオンボロ荷車、見たことないぜ」

と荷車めがけ、鼻から水をジャージャーかけてきたのです。

もうがまんの糸が切れた父ザルは、びしょぬれの顔を上げ、

「やめろ! この荷車は世界一大切なものなんだ。文句があるやつはかかってこい!」

と胸をたたいてみせました。

すると、あたりが急に静まり返り、大木の茂みから鋭い目をギラつかせたライオンが父ザルをにらみつけ、「フン!」と薄笑いを浮かべ、震える子ザルとリスに狙いを定め、牙をむいたのです。その瞬間、父ザルが素早く荷車を引くと、なぜかふわりと宙に浮き、そのまま目の前の一本道を軽々と飛び越え、なんと海にたどり着いてしまったのです。

「みんな助かってよかったね」

とリスが涙ぐむと、父ザルは「リス君の荷車のおかげだよ」と言い、子ザルもにっこり笑いました。

やっとのことで海に着いたものの、すでにあたりは薄暗く、父ザルは肩を落とし、

「噂話に振り回されたばかりに、こんなことになっちまって」

と言うと、子ザルがその言葉をかき消すように声をあげました。

「お父さん、ホラ見て! 海一面が夕日で真っ赤だよ!」

するとリスも、たたみかけるように言いました。

「まるで赤い宝石みたいだね! あの輝きはまさにルビーそのものだね」

父ザルは黙ったままうなずき、赤い宝石が海の中に溶け込んでいくのを見届けました。

その夜、真っ暗な岩穴で、みんなでパンを分け合って食べていると、子ザルが、

「何だかこのパン、いつもより百倍もおいしいね」

と言うと、父ザルもリスもしみじみとパンをかみしめました。

翌朝、目覚めると、朝日が水平線から顔を出し、透明な光が放射状に降りそそぎ、海面をプリズムのように照らし始めました。

「朝の海は、まるでダイヤモンドだね」

とリスが言うと、親子もそのまばゆい光に目を細め、見とれました。そして太陽が真上に昇ると、海の青さは輝きを増し、とびきりの大海原が親子を包み込みました。

リスが、「まさに昼の海はサファイヤだね」とつぶやくと、子ザルは海をめがけて駆け出

し、振り返って大声で叫びました。

「お父さん、リスさん、ありがとう!」

父ザルも大きく両手を振りました。みんなで青い宝石に見とれていると、いつのまにか日が傾き始めていました。

帰りの道は、海沿いの道で帰ることにしました。途中の道でおいしい木の実や果実を摘み、荷車には家族へのおみやげが鈴なりです。

家に着くと、子ザルが目を輝かせて、母ザルに話しかけました。

「僕ね、宝石みたいな海を見たんだよ」

「それは良かったわね」

「でもね、僕、もう一つスゴイ宝石を見つけたんだよ!」

「えっ、それは何かしら?」

「お母さんのパンのことだよ! これからお母さんが焼いてくれたパンのことを〝宝パン〟て呼ぶことにしたんだ!」

と言いながら、赤ちゃんの頭をそっとなで、話しかけました。

「君も宝パンを食べて大きくなったら、今度こそ皆んなで、宝石の海を見に行こうね!」

そんな親子の話を聞いていたリスが、

「母さんの宝パンか。よし、この話をブタ君にも教えてあげよう!」

ブタ君の家へすっ飛んで行きました。

するとこの噂は、たちまち山中に広まり、動物たちは母親の手作りパンのことを、感謝を込めて〝宝パン〟と呼ぶようになりました。