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オカリナ父ちゃん町を行く

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オカリナ父ちゃん

町を行く

おのしづこ

「今日は川むこうのとなり町まで、はいたつに行くぞ」

父ちゃんはぼうしをかぶり、ダンボール箱にびっしりならべた本をひょいと車につみこんだ。「さあ、のれ」とぼくとお兄ちゃんに目であいずした。そしてポケットから父ちゃんあいようのオカリナをとり出した。

「出発進行!」

ピープピープポッポッポとふくと、店のおくで本のせいりをしてたかあちゃんが手をとめて、ぼくたちに大きく手をふってくれた。

ぼくんちは町のちっちゃな本屋さんだ。ぼくがまだ生まれてないころ、父ちゃんは本が大すきで本屋をつくっちゃった。

「えーっ、右にながれますはかんむり川、かんむり川でございます」

いつものちょうしで、ていぼうのわき道を車でまっしぐら。

ぼくは一年生、お兄ちゃんは三年生、学校が休みの日は、父ちゃんの車にのってはいたつの手つだいだ。手つだいといっても車にのっていっしょに歌をうたったり、父ちゃんのつくりばなしをきいたりするのがおもしろくてついていくだけだ。

ていぼうのわき道をまっすぐ行くと、だんだん海が見えてくる。プカリプカリ、海の近くの川べりであそんでたカルガモたちが、車の音にビックリしたのか、いっせいに空にむかってとんでいった。

「やあー、おどろかしてごめんごめん」

父ちゃんは車のまどから顔をだしてカルガモたちにあやまった。海べの町でそだった父ちゃんはカルガモたちとも友だちだ。

「この海は世界中とつながってるんだぜ、やっぱり海はいいな、どおーれ、一曲ふくか」

ポケットからオカリナをとりだし、海にむかってふきはじめた。ぼくもお兄ちゃんも一しょになって、よそのくにまでとどくような大きな声でうたった。

「海のむこうのよそのくにに行ってみたいなあ」とぼくはおもった。

まつ林を左にまがって行くと、カニ町公園がある。

「ついたぞ、車とめるから車のるすばんたのんだぞ、あっ、そうそう、この公園には『カニの化け物』っていうこわーいむかしばなしがつたわってるんだ。あとできかしてやるからな」

父ちゃんはそういい、はいたつの本をいっぱいかかえて走っていった。

コイのようぎょじょうのおじさん、パーマやのおばちゃんなど町には父ちゃんのとどける本をまっていてくれる人がいっぱいいる。

車ばんのぼくとお兄ちゃんは、しりとり、じゃんけんあそびをしていた。お兄ちゃんはつまらなくなったのか、「車おりて少し公園であそぼう」といった。公園はひっそりして、その日はだれもいなかった。

「わーい、ぼくたちだけの公園だ!!」

ぼくとお兄ちゃんはしばふに大の字になってねころんだ。

すると、海のほうからスーッとつめたい風がふいてきて、あたりがうすぐらくなった。ガサガサガサとすな場がもこもこもことうごきだし、カニがでてきてぼくたちをにらんだ。

ぼくはお兄ちゃんの手をギュッとにぎり、「父ちゃん、おそいね」と小さい声でいった。

お兄ちゃんが「『カニの化け物』ってどんなはなしかな」とカニをにらみつけると、カニはすばやくすなの中にもぐりこんだ。

ぼくは「カニの化けもん、カニの化けもん」とつぶやいた。目をとじるとカニがぼくのまわりをグルグルグルグルまわってるような気持ちになった。すると公園のむこうから風にのっかってオカリナの音がきこえてきた。

「あっ、父ちゃんのオカリナの音だ!」

ぼくはあんしんした。まわりはいつのまにかあかるくなり、あれれ、カニたちもうっとりオカリナをきいてるみたいだった。

「ごめん、ごめん、またせたな。パーマやのはるばあちゃんにオカリナふいてっていわれてさ」

父ちゃんはあたまをかきながら走ってきた。父ちゃんはすきなことにむちゅうになると、いろんなことをわすれるクセがある。

父ちゃんは本屋さんなのにオカリナおじさんとわれている。

「あーよかった」と、ぼくとお兄ちゃんはパチンとタッチした。

「ねえ、父ちゃん、さっきの『カニの化け物』のはなしきかして」

ぼくたちがせがむと、父ちゃんはもったいぶって、きゅうにひくい声でかたりだした。

「むかしむかし、海岸ちかくさ、だれもすんでねえ古寺があって、そこにはおそろしい化け物がすみついてるとうわさがあって、村人はだれも近づかなかった。ある日、かわりものの旅のお尚さんがたずねてきて、『わしはこわいものなど何もないのじゃ』といって寺に入っていったんだと。しばらくしたらいきなりまっ赤な顔をした入道坊主があらわれて、『なあ、お尚、オレとじゃんけんあそびしねが』といってお尚さんとじゃんけんあそびをはじめたら、なんと入道坊主はチョキしかださねがったと……。さて入道坊主の正体は? つづきはまた……」

といってオカリナをとりだし、「出発進行」ピープピープポッポッポ。もしかしてカニかなとボクはおもった。ちょっとドキドキしたけどうれしくなって、きゅうに「ぼく大きくなったら本屋さんになる」といったら、お兄ちゃんが「おい、かってにあとつぎするな」とキッとボクを見た。

「ワッハハハ、そうかそうか」

父ちゃんはぎゅっとハンドルをにぎり、車を走らせた。

川にうつった夕日がキラキラまぶしかった。