風太の迷子さがし
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風太の迷子さがし
星村遊美
どうやら、風太は迷子になったらしい。
スーパーのお菓子売り場で、いつものようにおやつをえらんで、野菜売り場にいるはずのママのところに行こうと角をまがったら、見たこともない広場にでていた。
ママも、店員さんも、お客さんもいない。でも、風太はひとりではなかった。広場には、小さな舞台がひとつあって、ピエロの格好をしたサルが立っていた。サルはもっていたシンバルをジャーンと大きく鳴らすと、
「さあ、やっとこ鬼の登場だ。かくれんぼをはじめるぞ」
と声をはりあげる。
「かくれんぼなんかしないよ。ぼく、ママのところへかえりたい」
風太がいやがると、サルは目玉を見ひらいて、シンバルをジャンジャン鳴らした。
「ダメダメ。鬼はきみだよ、風くん。これから風くんは、かくれているおいらの仲間をさがすんだ。みんな見つけないと、ママのところにはかえれないよ」
「そんなのいやだよ! やらないよ!」
「ダメだったら。ずっとかくれっぱなしで、みんな待ちくたびれてるんだからね」
サルは、歯をむきだしにしてニッと笑う。その顔がちょっとこわくて、風太はしぶしぶうなずいた。
「まずは、腹ぺこワニのペコ。風くんに、ペコがどこにいるかわかるかな?」
ジャーンとシンバルが鳴ると、風太の目の前の景色が一瞬でかわった。
「ここ、ぼくのおばあちゃんの家だ!」
「そうさ。でも、今はかくれんぼ中だから、だれもいないよ。ペコをさがしてよ」
風太はサルにいわれるがまま、家のあちこちをさがした。
ふろおけ、くつばこ、おしいれ。ぜんぶ見たけど、ワニのペコってやつはどこにも見あたらない。
「ねえ、ペコっていったいどんなやつ? どれくらい大きい?」
風太がきくと、サルはさびしそうな顔をした。
「風くん、ペコのことを忘れちゃった?」
「ぼく、ペコのこと知ってるの?」
「もちろん! 風くんとペコはなかよしだったろう?」
そのとき、風太はテレビ台の下から、ほんのすこしだけのぞく、緑色のしっぽを見つけた。ひっぱりだすと、見おぼえのあるワニのぬいぐるみがでてきて風太はおどろいた。
「あ! これ、ぼくのだ!」
それは、ずっと前、風太がおばあちゃんたちと、ワニ園へ行ったときに買ってもらったぬいぐるみだった。
「そっか、ペコって名前はぼくがつけたんだっけ。いっつも腹ペコだから、ペコ」
「思いだしてくれてよかった。これでやっとペコもうちにかえれるぞ。じゃあ、つぎ!」
ジャーンとシンバルが鳴ると、今度は風太のママの車の中だった。
「つぎは、新幹線のはやぶさとはやてのきょうだい。さあ、どこにいるかさがして!」
風太はまた思いだした。このあいだ、コウキくんの家に遊びに行ったとき、二人でいっしょに新幹線ごっこをした。そのかえりの車の中で、ひとりで遊んでいて……。
「あった! ここに見っけ!」
風太は、運転席のイスの下と、後ろの席のイスと背もたれのすき間から、はやぶさとはやてを見つけだした。
「その調子! がんばれ、風くん!」
「うん! ねえ、つぎは?」
風太は、つぎつぎにかくれている仲間たちを見つけていった。
ミニカー、指人形、ボールにロボットの右腕。
どれも、なくしたと思ってわすれてしまっていた風太のおもちゃばかりだ。
いつのまにか、風太のちいさな両手はおもちゃでいっぱいになっていた。
「こんなにたくさん、ぼくのおもちゃは迷子になってたんだ」
「そうだよ。みんな、風くんがむかえに来てくれるのをずっと待ってたんだ」
サルが、また歯をむきだしにして笑った。
「よくがんばったね、風くん。じゃあ、最後においらを見つけておくれよ」
「うん、だいじょうぶ。きみがどこにかくれてるか、ぼく、思いだしたから」
風太がそういうと、またジャーンとシンバルが鳴って、風太はもとのスーパーのお菓子売り場にもどってきていた。
ここにはちゃんとお客さんがいて、店員さんがせっせと棚のお菓子をならべなおしている。風太は、その店員さんに声をかけた。
「すみません! ぼくのモンキチがお菓子の棚の下におちているので、とってもらえませんか」
店員さんが棚の下をしらべると、たしかにサルのおもちゃがでてきた。
そのサルは、ピエロの格好をしていて、風太の手の中にもどると、シンバルをジャンッとひとつ鳴らしたのだった。