犬の切手、羽の消印
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犬の切手、
羽の消印
ぴよたろう
おじいちゃんあてに手紙が届いた。
チューリップの切手、お花の形の消印、「おじいちゃんへ」のやわらかな文字。
「誰からきたのかなぁ。どこからきたのかなぁ」
ぼくは首をかしげながら、おじいちゃんに持っていった。
「誰からきたの?」
「この便りはね……」
消印を見たおじいちゃんは、切手のイラストが相手を教えてくれるということを教えてくれた。そして、こういった。
「消印の形がどこからきたのかを教えてくれるんだよ」
おじいちゃんはそういって、切手に重なるようにして押してある消印を見た。
「どこからきたと思う?」
おじいちゃんはぼくの顔をのぞいた。
「えーと、消印はお花の形だからお花の国?」
「うむ、そうだな。じゃあ、誰からだと思う?」
おじいちゃんはニコニコしている。
「チューリップ?」
「そのとおり! わしが昔育てていたチューリップで、あか、あか、きいろの三姉妹なんだぞ」
おじいちゃんはうれしそうに話してくれた。
それからは、ぼくも手紙が届くことがたのしみになった。おじいちゃんあての手紙には、いろんな形のたくさんの消印がついていた。鳥の形だったり、太陽の形だったり、お月さまの形もあった。おじいちゃんはいろんなところにお友達がいるみたいだ。
「わしは海も山も大好きでよく遊んだよ。花はなぁ、ばあさんも好きだったから、育てたり見にいったり、なつかしいなぁ」
おじいちゃんは、切手をさわりながら目を細めている。ぼくは手紙をのぞきこんだ。
消印と切手を見ると、魚の国のハゼや虫の国のカブトムシから手紙が届いており、花の消印の切手を見ると、ひまわりや桜からも手紙が届いていた。なんだか手紙からも「おじいちゃんっ!」と聞こえてきそうだった。
「おや?」
おじいちゃんは一枚の手紙を手に取った。切手は赤ちゃんのイラスト、消印は……。
「ハート? ハートの消印はどこからきたの?」
ぼくの質問におじいちゃんはすこし寂しそうに、でもゆっくり微笑んで答えてくれた。
「ハートはお母さんのお腹の中。これから生まれる赤ちゃんからの手紙だよ」
おじいちゃんに赤ちゃんのお友達がいるなんてびっくりだ。
「ねぇ、なんて書いてあるの?」
どんな手紙がきたのかわくわくした。
おじいちゃんはぼくの顔をみて、最後の一文を読んでくれた。
「……今までありがとう。またいつか会いましょう」
ぼくはさらにびっくりした。
「え? その赤ちゃんって……」
おじいちゃんはやっぱりすこし寂しそうに赤ちゃんの切手にさわった。
「ばあさんだよ。わしの奥さん。新しく始まる順番がきたらしいなぁ」
そういって、じっと手紙を見つめると、
「今なら間に合うなぁ。わしもばあさんに手紙を送ろう」
おじいちゃんはペンを取り出すと手紙を書きだした。切手はもちろん、おじいちゃんのイラストだ。
おじいちゃんが手紙を書いているのを見て、ぼくの頭に一人の女の子の顔がうかんだ。
「ぼくも手紙、出したいな。届くかな?」
「届くさ、きっと」
ぼくは手紙を書いた。ぼくをかわいがってくれた女の子。いつも元気に散歩につれていってくれたあの子は今、ぼくがいなくなって元気がなかった。
「おじいちゃん、書けたよ!」
「よしっ、次は切手だなぁ」
おじいちゃんは何も描かれていない白い切手を持ってきてぼくに向けた。
「ホレ、おまえさんの切手を作るから、鏡を見るようにして三秒待ってごらん」
いち、に、さん、ぼわわんと浮かび上がってきたのは、白い毛並みの犬の姿。あの子がくれた青い首輪をしたぼくの切手ができ上がった。
「わしが消印を押してあげよう。おまえさんがここで暮らしているとわかるように」
おじいちゃんが羽の形の消印をポンと押すと、手紙がぼんやりと光りだし、ふわふわと飛んでいった。
『ぼくはもう元気だよ!
おじいちゃんと一緒だから寂しくないよ。
だからキミももうすこししたら、いつものように元気に笑って!』