おばあちゃんのだいこん
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おばあちゃんの
だいこん
てんまかける
東の空から、おひさまが顔を出してきた。
「おはよう」
小鳥たちは、チチチチ、チチチチと歌っている。
ぼくは昨日から、いなかのおばあちゃんの家に遊びに来ている。
「さあ、健斗(けんと)行くべ」
「うん」
ぼくは上着を着て、おばあちゃんと二人でおばあちゃんの畑へと出かけた。
「わー!」
ぼくは、思わず大きな声をあげた。目の前には、幼稚園の園庭よりも広い畑がひろがっている。緑色の大きな葉っぱがたくさん植わっている。
「なんていう食べ物だろう?」
「でえこんだ」
「でえこん?」
「だいこんだ」
「だいこんか。そっかー、だいこん畑か」
ぼくたちは、こんな話をしながら、だいこん畑に入っていった。
「さあ、抜くべ」
おばあちゃんはそう言うと、大きな葉っぱを思いっきり引っ張った。
「スポッ!」
大きな音がした。そんな気がした。だいこんが顔を出した。でも、なんだか変だ。ぼくの知っているだいこんではない。土がたくさんついたからだは、真ん中からグニャッと曲がっていて、全然だいこんらしくない。
「おばあちゃん、これ、本当にだいこん?」
「ほうじゃ、でえこんじゃ」
「全然だいこんらしくないよ」
「土が悪いんじゃ。石がまじっておる。だから、曲がるんじゃ」
ぼくは、なんだかよく分からなかったけど、それ以上聞くのをやめた。むずかしそうだったから。
「さあ、健斗も抜いてみろ」
ぼくはうでまくりをして、だいこんの葉っぱを両手でつかむと、力一杯引き抜いた。
「スポッ!」
またそんな音がした。だいこんが顔を出した。今度も変なだいこんだ。今度は、だいこんの先のほうが二つにわれていて、まるで人間の足のようだ。それも長さが違うので、ちぐはぐな感じがして、なんだか気持ちが悪い。
「おばあちゃん。これも変だよ」
「まあええ。これを持って、家にけえるべ」
「もう帰るの?」
「夕飯には、このくれいでええんじゃ」
ぼくたちは、だいこんを一つずつかかえて家に帰った。
「いやー、立派なだいこん!」
おかあさんが大声で言った。
「変な形だよ」
「食べるとおいしいのよ」
おかあさんはそう言うと、流しでだいこんを洗い始めた。たわしでゴシゴシゴシゴシ。みるみるうちに、だいこんが白くなっていく。ピカピカのだいこんが現れた。
「わー、まっ白!」
「さあ、作るわよ」
おかあさんは、だいこんを厚く切って皮をむいた。そして、鍋にたっぷりの水としょうゆ、みりんなどを入れ、その中に放り込んだ。そして、コンロの火をつけた。
「あとは、待つだけよ」
おかあさんはそう言って鍋にふたをした。
いい匂いが台所の方から漂ってくる。
「できたわよ」
おかあさんが、だいこんの煮物をお皿に盛って運んできた。クタクタに煮えた、茶色いだいこんがそこにあった。
「おいしそう。いただきまーす」
ぼくは一番大きいだいこんをはしで取って、かぶりついた。
「はふはふはふはふ。あふい」
そのうち、だいこんの甘みが口の中に広がってきた。
「おいしい!」
「そうでしょう。おばあちゃんのだいこんは、世界一だからね」
おかあさんの言葉に、おばあちゃんは笑っている。
「いや、世界一じゃないね。宇宙一だね」
「え! これは、健斗に一本とられたわね」
家族がみんな笑顔になった。
ぼくは、その夜、日記にこう書いた。
「きょうは、おばあちゃんと、だいこんをとりにいった。かたちのわるいだいこんだったけど、たべるとすごくおいしかった。おばあちゃんのだいこんは、うちゅういちだ。おばあちゃん、ながいきしてね」