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カイくんとカミナリの子

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カイくんと

カミナリの子

あべわかこ

とても暑い夏でした。

夕方近くになると、入道雲がぐんぐんふくらんで、空から大男がカイくんをにらみつけているようです。

「これはカミナリさまが雨をふらせるわね」

ママは、庭にほした梅の実をいそいでかたづけました。

カイくんは、ママのおにぎりが大好きです。

ようちえんから帰ってきたカイくん。今日もえんがわにすわって、おにぎりをぱくぱく食べています。おにぎりの中身はママのつくった梅ぼしです。

庭に面したえんがわからは、ママの姿がよく見えます。それと、大きな梅の木も。

空にとどきそう。

梅の木を見上げるたびにカイくんは思います。

あの入道雲が、うでをひょいとのばしたら、ボクんちの梅の実をとれちゃうかも。

カイくんは梅の実を食べてすっぱい顔になった大男をソウゾウすると、ほっぺたがむずむずしました。

「すっぱい!」

カイくんの口の中で、ほんのりあまいご飯の間から梅ぼしがあらわれました。ジョウケンハンシャで目をぎゅっとつぶり、すっぱい顔になったのはカイくんのほうでした。

「見えない。見えない」

この顔がおかしくて、ママはカイくんをちょっとからかいました。

「見えなくなんかないもん!」

カイくんはもう年長さんです。あかちゃんあつかいされたことにむっとして、目をぱっちりとあけました。

カイくんがあけた目の先には、きゅうに暗くなった庭がありました。梅の実もすっかりかたづけられていて、ひんやりした風が梅の木をゆらしています。

カイくんがポカンとしているうちに、空にくろい雲が広がって、カミナリがなりだしました。雨もザーザーふってきました。

「戸をしめないとカミナリさまが中に入ってくるわよ」

ママが、おにぎりを二つお皿にのせて台所から出てきました。

「このほうがすずしくていい気分なの」

「それじゃあ、カミナリさまにおへそをとられないように気をつけなきゃね」

ママは、Tシャツをまくり上げておなかを出しているカイくんといっしょにおにぎりを食べようと、お皿をえんがわにおきました。

そのときです。

ピカッと空が光ったと思ったら、ドーンと大きな音が地面をゆらしました。

なんと、庭にカミナリが落ちたのです!

しかも、梅の木の根もとには、頭に小さなツノをはやした子どもが、しりもちをついているではありませんか!

ツノのはえた子どもは、カイくんのおへそを見ながらゴクリとつばをのみこみました。

カイくんはあわてておへそをかくしました。

「そのおにぎり、おいらにもおくれよ」

「きみはカミナリさまなの?」

「そうさ」

「カミナリなのにおにぎりを食べるの?」

「カミナリはオニぞくだから、なまえにオニが入っているおにぎりが大こうぶつなのさ。それに……」

カミナリの子は、きゅうにしょんぼりして言いました。

「母ちゃんが病気で、からだが弱っているんだ。梅ぼしはからだにいいから、母ちゃんに梅ぼしの入ったおいしいおにぎりを食べさせたいんだ」

その話をきいてカイくんは、

「それなら、ぼくといっしょにおにぎりをつくろうよ! いいでしょう、ママ」

ママは優しくうなずくと、ほかほかのご飯をたくさんたいてくれました。ふたりは、梅ぼしをいれて、おにぎりをたくさんつくりました。形や大きさはバラバラでも、心のこもったおにぎりです!

「おいしいね!」

雨もあがり、カイくんとカミナリの子はえんがわにすわり、仲よくおにぎりを食べています。二人はすっかり仲良しになりました。

「すっぱい!」

またまたジョウケンハンシャでカイくんが目をつぶりました。その一瞬のことでした。ママには空から大男のうでが、にゅうっとのびてきたのが見えました。

カイくんが目をあけたときには、カミナリの子はいなくなっていました。カミナリの子のお母さんのためのおにぎりといっしょに。

「あれ、カミナリさまは?」

カイくんは目をぱちくりさせました。

「お母さんのところに帰ったのね」

だいだい色に明るく染まった空をママは指さしました。すると、

「カイくん、ほんとうにありがとう!」

と、カミナリの子のうれしそうな声が空から聞こえてきました。