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宇宙人もどき

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宇宙人もどき

一日閇

ボクは昔から、ちょっとズレていた。

みんなが納得して、すぐに行動に移せることでも、どうにもボクだけ理解が遅い。もたもたしている合間にボクだけが取り残され、みんな高くて遠いところから嘲笑っているように感じてきた。

ボクは頭が悪いのではないか。そう思うこともあったけれど、趣味は読書で、テストの成績だって悪くない。なのにどうして、みんなと同じ速度で生きていくことができないのだろうか。

考え抜いた結果、ボクは一つの結論にたどりついた。

ボクは宇宙人なのだ。

生きる速度が違うように感じるのは、ボクと地球人との交信時にタイムラグが発生しているからなのだ。

だから、地球人の言語を上手くキャッチできないのもやむを得ない。むしろ、今までよくやってこれたものだ。

しかし不条理なことに、他の家族はどうも地球人らしい。地球人にボクの日々の生きづらさがわかるはずもない。きっと、母の胎にいた赤子に寄生する形で、ボクが爆誕してしまったのだ。

ボクは宇宙に帰りたくて仕方がなかったので、自分から働きかけてみようと思い立った。SOS信号を送るのだ。

町の図書館でなら、宇宙との交信に関する本がタダでたくさん読める。そう思って放課後は図書館に通いつめ、本を読みあさった。

するとその中に、交信に挑戦したと思われる、誰かの鉛筆書きのメモを発見した。前人未踏でないことを知り、ボクの心はたいへん励まされた。

書きなぐられた文字の羅列は、悲鳴のようにも見えた。きっとこの字の主も、地球から脱出したくて仕方なかったに違いない。この宇宙人には、他に涙を流せる場所はあったのだろうか。

ボクの場合は、プラネタリウムがそんな場所だった。図書館を出た後に、少しさびれたプラネタリウムに足を運ぶのがすっかり日課となっていた。人工の星空を眺めながら流す涙が、ボクの孤独な心をよりもの悲しくさせた。地球で生きていくことが、ボクにはあまりにも辛すぎた。

いつものように図書館で本を読んでいるとふいに声をかけられた。同学年の違うクラスのヤツだ。廊下で騒いでいるところを何度も見かけたことがある。

「アンタ、宇宙交信に興味があるんだ?」

いきなりの馴れ馴れしさと、早口気味な喋り方にイラついた。なんの障りもなく、自分の言葉がそのまま届いているという前提があるに違いない。無神経なヤツだ。

「アンタ最近、図書館でその手の本読んだりプラネタ通いしてるじゃん? だから、声かけちゃった。仲間かな~って。なんかオレっていつも宇宙人扱いされてるんだよね。ちなみに何星人って呼ばれてるか、わかる?」

「……すごくやかましい、うる星人」

「たはっ、悪口! でもまあ、そんなとこ。KY星人よ、KY星人。空気は吸うもんだろよお! 宇宙に空気がねえ分もさあ!」

「……もういいかな。一人にさせてくれ」

「一人になりたくないくせに?」

思わずギクリとした。ボクがいま抱えている本の内容は確かにそういう中身だけれど、タイトルじゃあそこまでわからないはずだ。

「オレ一時ね、宇宙に行きてえって思って、いろいろあさってたんよ。そのときのメモ、残したまんまだったみたいだな。アンタ、オレのメモのファンになっててくれたみたいね?」

「じ、字が汚いから。なんて書いてあるのか解読してただけだって……返す」

「オレもいらねえ。宇宙に帰るのはもう、諦めたからな!」

そう言いながら見せつけてきたのは、普通のアウトドアの本だった。

「この世界のことを楽しむ方法さえ知ってりゃ、末永くめでたしできるじゃん? オレみたいな星のヤツでもさ」

まっすぐな眼差しは、ボクにも同じように信じてもらいたがってるようにも見えた。

「なあ、一緒にどうよ? プラネタリウム以外にも青春って、あると思うんだけど」

「で、でもボクは、人のテンポに合わせることがすごく難しいんだ。一人の方が気楽だ」

「なあに。ズレがあって当たり前なモン同士なら、許し合えることも多いだろ。アンタが何星人だかしんないけど、試しに仲良くやってみねぇ? お互い、ちがう星での孤独をまぎらわすためにさ」

ボクは本当は知っている。

ボクはただの臆病な地球人でしかない。

だから、未確認の母なる星に思いを馳せるよりも、同じ土を踏みしめている宇宙人もどきの手を、取ってみることにしたんだ。