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真似したい、文章の巧いプロ作家 その1

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

文章の巧いプロ作家

前回、前々回と、文章が下手なプロ作家について論じたので、今回は文章の巧いプロ作家について論ずることにする。新人賞を狙っているアマチュアは参考にしてほしい。

まず台詞が最も上手なプロ作家は黒川博行である。『二度のお別れ』でサントリーミステリー大賞佳作、『雨に殺せば』で同賞佳作、『キャッツアイころがった』で同賞受賞、『河豚の記憶』で日本推理作家協会賞候補、『封印』で吉川英治文学新人賞候補、『カウント・プラン』で日本推理作家協会賞受賞および直木賞候補、『疫病神』で吉川英治文学新人賞候補、および直木賞候補、『文福茶釜』『国境』『悪果』で直木賞候補、『破門』で直木賞受賞という錚々たる履歴である。

黒川作品の特徴は、地の文なしに、延々と会話だけが続くことである。

誰が、どういう表情で喋っているのかの説明がない。にも拘わらず、どんな性格の人物が、どんな顔付きで喋っているのかが、明瞭に眼前に浮かぶ。キャラも立っている。

台詞でキャラを立てて新人賞を狙うのであれば、前記の黒川作品を集めて「これは巧い」と思う台詞に蛍光ペンで色分けしてサイドラインを引き、写して模倣することである。

一方、地の文が最も巧いプロ作家は志水辰夫である。『裂けて海峡』で日本冒険小説協会賞優秀賞受賞、『背いて故郷』で日本冒険小説協会大賞および日本推理作家協会賞受賞、『行きずりの街』で日本冒険小説協会大賞受賞、『い まひとたびの』で日本冒険小説協会大賞受賞、『きのうの空』で柴田錬三郎賞受賞という、やはり錚々たる受賞歴である。とにかく文章が巧ければ、内容的に同水準の競合作とかち合ったら確実に選考委員の軍配が上がるのであるから、文章力を磨くのは必須の心構えである。

ところが、黒川作品と志水作品を紹介すると「あまりに巧すぎて真似ができません。私とはレベルが違いすぎます」と嘆きの泣き言を訴えてくるアマチュアが意外に多い。

そういうアマチュアに紹介したいプロ作家が笹本稜平である。笹本は『時の渚』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。『太平洋の薔薇』で大藪春彦賞を受賞という受賞歴で、黒川と志水には及ばないがヒット作を連発している。

しかも、アマチュアが手本にして模倣しやすい文体である。

で、今日は、その中から『マングースの尻尾』を紹介する(長編 『フォックス・ストーン』の続編)。

これは短編連作で、一話完結の全六話で、ここで全体の物語も完結する体裁を採っている。

私はプロ作家養成講座を開講している関係で、あと一歩で受賞仕損じた新人賞候補作や二次選考通過作を読む機会が多いのだが、その相当数に見られる欠点が〝出し惜しみ〞である。

そういう人はレストランで食事をする際に、最も好きな品は最後に取っておくタイプなのではないか、と推測するのだが、読者(選考委員)が食いつきそうな〝美味しいネタ〞を後のほうへ、後のほうへと持って行く悪癖の人が意外に多い。

これは、デビュー前の新人は絶対にやってはいけない。新人賞を受賞してデビューできても、「この作家の作品なら絶対に読む」という固定ファンが万人単位でできて文壇に確固たる地位を築くまでは、やってはダメである。

アガサ・クリスティーも綾辻行人も、やたら出し惜しみ作品を書く作家だが、そうなったのは大勢の固定ファンが付いてからの話である。

新人賞を受賞できるまで、幸運に受賞できても、大勢の固定ファンが獲得できるまでは、一切の出し惜しみをせずに、快テンポの作品を書き続けることである。

『マングース』は、そういう点で大いに参考になる。主人公が巻き込まれる事件が、だいたい百枚の間で、きちんと起承転結のメリハ リがあって、波瀾万丈の先行きの読めない展開があって、エンディングに一気呵成に雪崩れ込む。

主人公の最大の難敵の《マングース》だけを、あと一歩のところで惜しくも取り逃がすのだが、第六話でようやく仕留めて、長編としての決着が付く。

短編連作なので、その都度〝使い捨ての重要登場人物〞が出て来る構成になるが、全体的に見ると起承転結が六回、つまり二十四回は〝予想外の展開〞が存在することになる。応募作には、このくらいの意外性を盛り込むことが望ましい。

起承転結という言葉を変に自分に都合良く解釈して「四つの大きな山があれば良い」と思い込んでいるアマチュアが意外に多い。

それは、はっきり言って大間違いである。

これだけプロ作家志望者が多くなって、ビッグ・タイトル新人賞の途中経過を見ると、必ず何人か、売れなくなって再デビューを志すプロ作家の名前が見られるようになった時代であるから、一つの応募作の中に盛り込む山は、多けれ ば多いほど良い。

『マングース』の山は二十四個だがそこまで行かなくても半分の十二個ぐらいは盛り込まなければ、ビッグ・タイトル新人賞には手が届かないだろう。

 

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

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平茂寛(第3回)

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藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。