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「そして」「しまう」を使うな

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作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

「そして」「しまう」を使うな

前々回、新人賞を狙うに際しての細かな心構えとして「そして」 という接続詞を使うな、「しまう」 という強調語を使うな、ということを書いた。ピンと来ない人もいると思うので具体例(悪例)を挙げるので、参考にして欲しい。

敢えて実名を挙げるが獅子宮敏彦という作家がいる。創元推理短編賞を『神国崩壊』で受賞してデビューした作家で、受賞作を読んだ時から「あまり上手くない作家だな」という印象を持ったのだが、年を追うごとに、どんどん下手に なっていく。

案の定、ファン離れが進み(アマゾンのレビューを読んでもらえば分かる)再デビューを狙うしかなかったと見えて、今年の松本清 張賞の一次選考通過で二次選考落ちの顔ぶれの中に獅子宮敏彦の名前があった。

松本清張賞は、去年は私の生徒の川越宗一が『天地に燦たり』で グランプリを射止め、今年も『青い刺繍』という作品で、生徒が最終候補になっている(この原稿の執筆時点でグランプリは未確定)。

二人とも獅子宮よりは遙かに上手い。他に二次選考を突破したものの最終候補には残れなかった生徒が二人いるが、彼らでさえ獅子宮よりは格段に上手い。

関心のある人は獅子宮が二〇一三年に出した『卑弥呼の密室』という作品を読んで欲しい。

獅子宮の文章には「そして」がやたら出て来る。「そして」に限らず「しかし」でも「だが」でも、 接続詞を可能な限り減らすのが名文を書くコツ。名作といわれた和歌や俳句に「そして」「だが」「しかし」が入っている作品が一つでもあるか? と考えてみれば、接続詞の多用がダメな理由はわかるだろう。

『卑弥呼の密室』には、おそらく五百個以上の接続詞がある(暇な人はマークして数えながら読んでみて欲しい)つまり獅子宮は使った接続詞の九十九%を削除しなければ名文にならない。

「しまう」「しまった」の他に文末を「のである」という強調表現で終わる箇所も非常に目立つ。これは、おそらく一千個近くあって、こうなると、ただもうウザったいだけで、強調の意味を全然なしていない。獅子宮は使った強調表現 の九十%を削除しなければ読みやすい文章にならない。

前々回、第三の注意として、台詞のカギ括弧に続いて「そう言って」「そう言った」と安直に書くなと書いたが、獅子宮の文章は、これも非常に多い。

「反復表現を使うな」という注意もしたが、獅子宮の文章には相手の台詞の言葉を反復する鸚鵡返しが非常に多い。

映像脚本だと重要なことは鸚鵡返しが基本(台詞は片端から消えていくため)だが、小説では反対に「芸がない」として選考時の減点対象になるから、使ったらだめである。

こういったタブー・ポイントを蛍光ペンで色分けしてマークしながら『卑弥呼の密室』を読んでみて欲しい。そうしたら、どういうことをやったらダメなのか、万が一、新人賞を射止めたとしても遠からず文壇から消え失せる運命にあるかが見えてくるはずである。

これほど文章がド下手な獅子宮がなぜミステリー系の新人賞でグ ランプリを射止められたかと言えば、トリックが優れていたからに他ならない。

本格トリックに見るべきものがあれば、ミステリー・ファンは大概の欠点には目を瞑る。

だが、本格トリックは無制限に捻り出せるものではない。「本格トリックなど、いくらでも捻り出せる」と豪語しておられた、奇術師としても第一人者だった泡坂妻夫のような作家を除けば、どうしても質的低下は免れない。

デビューからの三作『密室の鍵貸します』『密室に向かって撃て!』『完全犯罪に猫は何匹必要か?』で本格ミステリー・ファンを唸らせた東川篤哉でさえ、トリックの質的低下は免れず『謎解きはディナーのあとで』のように登場人物のキャラの魅力に頼るようになっている。

獅子宮の捻り出すトリックは作品を追うごとに質が低下し、既存作のトリックを組み合わせてお茶を濁す方向に進んだ。密室トリックは「実は、隠れた抜け穴があって」という手を使ったら、もはやアウト。

『卑弥呼の密室』の密室トリック は、これである。せめて主人公のキャラが立っていれば東川篤哉 『謎解きはディナーのあとで』のように救いがあるのだが、『卑弥呼の密室』の主人公のキャラは全然ダメ。ABCDEFの六段階評 価ならEの魅力ゼロ。

C以上でないと予選突破できず、B以上でないと新人賞は取れない。 そもそも、何で編集部がOKを出したのかが、全く理解できない。出版界は未曾有の不況下にあるが、 編集者の質的低下は目を覆うばかりで、こういう駄作に高い定価を付けて世に送り出しているようでは、今後とも「お先真っ暗」と言わざるを得ない。

好奇心から『卑弥呼の密室』を手に取った人は、最後の最後に、地の文を全て隠して台詞だけを読んでみて欲しい。

その中に、唯の一つでも心を惹かれる台詞が、あるかどうか?

以上に述べたことを、一日を潰してやってもらえば〝他山の石〞で、自ずと、やってはいけないこと、やらなくてはいけないことが、見えてくる。 

 

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。