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文章表現トレーニングジム 佳作「ふたつのお墓」サン津軽がぶり

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作文・エッセイ
結果発表
文章表現ジム
第21回 文章表現トレーニングジム 佳作「ふたつのお墓」サン津軽がぶり

私は二十三歳でお墓を買った。両親が相次いで亡くなったためである。

両親は九州の出身で、私たち家族は関東で育った。葬式の後一家の墓守をする親戚に相談しようと電話をかけたところ、すごい剣幕で九州の墓には入れられない理由を述べられ、拒否されてしまった。無理もない。かの地ではお寺と檀家の繋がりが強く、命日のたびに自宅へ僧侶がお経をあげに訪れるのに対して毎回もてなすなど、お付き合いの手間が煩雑なのだ。墓守をする者としては、滅多にお墓参りに来られない者を受け入れようとは思えないのだ。

仕方なく通いやすい首都圏でお墓を探すことになり、私はたまたま目についた新聞広告を切り抜いて兄に見せた。本郷三丁目駅にほど近い寺が新型の霊園をオープンするとのことだった。大容量のエレベーター式の霊園とあるが、全く想像つかなかったので、兄と見学に行くことにした。話を聞くに、最近の都内の墓地は、地面に石を建てる旧来の墓地から、ビルの中でたくさんの箱を管理する形態に変貌しつつあるらしい。どこもおよそ四人の骨壷でいっぱいになってしまう程度の箱を大量に収容し、エレベーターで動かして墓参の際は呼び出せる仕組みになっている。箱の前面には苗字を彫った石板がはめてあり、墓石の雰囲気は旧来のものを少し受け継いでおり、抵抗感が少ないとのことだった。

調べてみると確かに都内には平成に生まれたその新しいタイプの霊園がいくつかあり、他にも兄と見学してみたが、アクセスの良さから最初に知った本郷三丁目の霊園に決めて、両親の骨壷を預けた。交通の便がよく、お盆やお彼岸以外にもまめに通うことができ、私たちは最後になかなか良い環境に両親を住まわせることができたので、親孝行ができたのではないかと自負している。

その後私は結婚し、夫の先祖が眠るお墓にも赴くようになった。こちらは地面に石を建てた旧式タイプのもので、八王子の山の中にある。あまりにアクセスが悪く、お盆やお彼岸に墓守を担当している一家すら墓参しない始末だ。たまに行くと、まず雑草を抜くのにひと苦労し、更に誰も来ていないことがまざまざと伝わって、家族の中で妙な悪感情が芽生えるのさえ伝わってくる。アクセスは悪いが、山の中の高台ということで、帰る頃には『涼しい風がいつも爽やかに流れるいい場所だね』なんて会話が自然と生まれる環境ではある。しかしまだまだ容量があるこのお墓に、私も入るのかと思うと少し寂しい。何しろ全然人は来てくれないし、雑草が気になっても骨になってしまっては自分では抜けないのだ。

寂しさから魂だけ山を下りてお化けが出たと騒ぎを起こしてはいけないので、私はできればわが家の平成式のお墓に入りたい。私たち兄妹の『大の阪神ファンを東京ドームの隣に葬った』という最大のミスを延々と同じ箱の中で糾弾され続けるかもしれないけれど。