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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「ピーターパン法」あきよしみねこ

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第44回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「ピーターパン法」あきよしみねこ

ピーターパン法が制定されてから二十年になる。

正式名称は忘れたが、全国民は必ず定期受診しろって法律だ。

定期受診というのは表向き。

本当はピーターパンさながら、特殊なピンで影を剥がし洗濯乾燥して元に戻すという処置を病院で受ける。

どこかの研究者が影に人の悪意が集まることを発見し、どこかの技術者が影を剥がす+影をくっつけるピンを開発、その影を洗濯乾燥させる技をオレの祖父が編み出した。

受診後はお人好しの表情を浮かべながら帰っていく患者たち。その間の記憶は残らないというスグレモノ。知らない間に毒気を抜かれ、犯罪のない世界が実現した。

最初の頃は入出国が厳しく制限され、一時期鎖国状態になったそうだが、情報操作が上手くいかず、都市伝説化する前に各国首脳陣と周辺幹部及びその家族がまず処置を受けることを条件に、秘密裏に技術提供された経緯がある。

もちろん本当のことは伏せた上で、世界中の病院や診療所に至るまで、特殊医療技術提供された。悪意を失うと分かれば、野心溢れる大人たちが素直に受けるわけがないだろ?

結局、世界の平和を維持しているのは、研究者と技術者と洗濯屋ってわけだ。

しかし、オレの代に来て深刻な人材不足に陥っている。

肝心要の洗濯屋は必ず八人組で影を洗濯乾燥する。汚水に長時間触れると悪意を吸い込み過ぎて発狂するからだ。オレの祖父がそうだった。

父が再発防止のため、①洗濯、②乾燥、③洗濯人の影洗濯、④監視役をローテーションすることと決めた。

ひと通り作業できるアンドロイドを技術者が開発してくれたが、影の汚れ落ちにムラができたため、やはり職人が必要という結論になった。

洗濯仕事は生命に関わるため危険手当がつくが、金を持ち過ぎると影にすぐ悪意が満ちるため、自分の影洗濯のスパンが他人より短くなる。

影を洗い過ぎるとどうなるかって?

そりゃあシワが増えてくたびれるんだから、洗濯技術者が減る一方ってワケだ。

引退した洗濯屋は記憶処理されるから、秘密が漏れることはないが、さてどうしたものか…。

最後の工程で影をくっつける技術者に影を届けた際、愚痴ってみた。

お互いに技術を受け継いだ孫という立場で、いつも懇意にしてもらっている。

「安心しなよ。もうすぐこんな仕事なくなって元に戻るんだから」

「なくなるわけないだろ!いい加減なこと言うなよ」

「父親から情報受け継いでないの?

利益があって環境に良く人の為になる仕事だって、じいちゃんたちは誇ってたけど、父親の代でもう汚水浄化処理が間に合わなくて、地下の貯水槽があと数年しか保たないらしいよ」

「……え?」