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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「運命のいたずら」香久山 ゆみ

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第41回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「運命のいたずら」香久山 ゆみ

オレとアイツは同じ病院で一日違いで生まれた。新生児室の隣同士のベッドに寝かされた。覚えてないけど。さらに驚くなかれ、退院して帰る家も隣同士という縁。

新興住宅地のお隣同士、経済環境も似たようなもの。近所の保育園に通い、同じ公立の小中学校に上った。その間、オレたちはずっと同じクラスに在籍して机を並べた。机を並べた、ってのは比喩でなく文字通りの意味で。名前も五十音の近くだったので、名簿も並びで新学期の四月には必ず隣同士の席だった。

そんな風に同じクラスで同じ授業を受けるせいか、成績の順位も横並び。なもんで、当然同じ学区から進学する高校も同じ。さすがに高校ではクラス数が増えて同じクラスというわけにはいかなかったが、それでも隣同士のクラスに在籍していた。

そんな風に、幼い時からずっと一緒で、仲が良いのかというと、そうでもない。もちろん悪くもないが。幼馴染だもの。でも、何だか近すぎるせいか、友達というよりは、ライバル。というか、うーん、自分の影というか。言葉にするのは難しい。けど、アイツは常にオレの隣にいた。アイツの成績が上がると、オレも引離されるまいと必死に勉強したし、逆もまた然りだったろう。似たような友人に囲まれ、同じような時期に恋人ができた。まあ同じ学校の同じようなグループにいるので、遊びの内容も似たようなもの。で、結局高校でも似たような成績を維持したので、進む大学も一緒だった。

だが、さすがに大学生ともなると、互いに親元を離れて一人暮らしを始めたし、広いキャンパス内では顔を合わせることもほとんどなかった。けれど、オレは予感していた。きっとまたアイツと同じ場所に立つだろうと。

だから、大学を卒業して、入社式のために向かった会社の本社屋の前でアイツと再会した時には、やっぱり、と妙に感動したものだった。が、さにあらず。

アイツの勤め先は、オレの就職先の隣に建つ会社。まあ、企業ランクは似たようなものだが、同じ会社の同じ部署で再びデスクを並べることを内心期待していたオレは、少しガッカリしてしまった。

とはいえ同じ土地に同規模の社屋を並べる企業同士。所得も似たり寄ったりだったろう。

その後、結婚してそれなりに出世もしたオレは、実家の近くに一軒家を購入した。程なくアイツも隣に新居を構えた時には、互いにニヤリと目配せした。

まるで一卵性の双子のようなアイツとオレの人生。神様が誤って同じ種を二粒地上に零してしまったのではないか。

しみじみとそんなことを考えていた。老身を病院のベッドの上に横たえて。

もちろん隣のベッドにはアイツがいる。

結婚して以降も、多少の誤差はあったものの、同じ数の子供を産み、育て、同じ齢で引退、同じ町内会活動に精を出し。ははは。おかしなものだな。違う人間なのに、まるで人生を共有しているような。いや、それはアイツに限らないのかもしれない。結局人間の営みなんてみんな似たようなもので。だからオレたちは無用のさびしさを抱えずにこの世から旅立てるのかもしれない。

アイツもきっと同じようなことを考えているのだろう。動かぬ首を精一杯動かし、隣のベッドに目を遣る。アイツも。互いに笑みを湛えて。――さよならだ。

*

長年同じ土地に住み、同じ寺の檀家だったから、案の定オレたちはまた。

墓石が隣同士に並ぶ。

愉快な気持ちで見届け、この世を後にした。

*

天の国はたいへん平和で、案外退屈。楽しみといえば、アイツがここに到着するのを待つことくらい。

にしても、来ない。

アイツはいつこちらへ来るのか。四十九日を待ったにしても、いくらなんでも遅い。隣にいつまでもアイツがいないのは居心地が悪いではないか。天使にその旨尋ねてみる。天使は曖昧な微笑を浮かべて答えた。

「……ええ、確かに。あの方は貴方のお隣に、というか、……この国のお隣にいらっしゃいますね」

「この国の隣?」

「はい。まあ、俗にいう地獄、というか……」

「そんな馬鹿な!」

驚いて天使を問い詰める。同じ人生を送って何故そのようなことに!

天使が恐縮そうに説明してくれた。アイツの犯した罪、アンナコト・コンナコト……。想像の範疇を超えている。

オレは呆然と立ち尽くす。

なにが同じなものか。ずっと隣同士でもオレはアイツのことをまるで知らなかったのだ。隣は何をする人ぞ……。