文章表現トレーニングジム 佳作「公的施設に相談」上野美子
第14回 文章表現トレーニングジム 佳作「公的施設に相談」上野美子
八十四歳の夫は認知症で、同じことを何回も聞いてくる。
「言ったでしょう」
最後は声を荒げてしまう。怒った後は空しい。夫に葛藤する気持ちを誰にも話せない。夫とじくじした気持ちに加え、家を離れている四十歳の娘のことも気になっている。
娘は、精神的ストレスを感じている人たちのグループホームで、自立を目指して生活をしている。職員と気持ちの行き違いがあり、三か月間、自分の部屋に籠ったままなのだ。
食べているだろうか、お金は有るのかと気を病む。部屋に行ってみた。鍵が掛かっていて会えなかった。強く声かけをしたり、合鍵を使うのは、娘の気持ちを逆立てる。自ら動くのを待っている。
二人にパニックになる。神や仏にすがりたいが、そうはいかない。
夫は、歩行も困難になった。車椅子でクリニックへ連れて行く。見かねた医師が、在宅医療にしてくれた。五か月になる。
娘のことは、保健所と役所の福祉課に相談をして、金銭面で補助を受ける手続きを始めた。公的な世話を受けることで、一人悩んでいたときとは違い、気持ちが軽くなった。
今も不安だが神も仏もない。医師の姿勢や、保健師、区福祉課相談員に感謝をしている。