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プロ作家になるのはプロ野球選手になるより難しい

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

プロ作家への道

公募ガイド誌では「**賞に応募予定だが、出来映えを見て可能性を診断する」企画があって、それも私が担当しているのだが、残念ながら「予選突破の可能性はゼロ」と過酷な判定を下す作品が圧倒的大多数を占める。

「本気でプロ作家を志す気持ちがあるのか? かつてのオリンピックのように、応募することに意義があると思い込んでいるのでは?」と疑いたくなる場面も、しばしばである。

プロ作家への道は、実は野球界に似ている。今回は、その比喩で解説を試みることにしたい。

高校球児の人数は、高野連のデータによれば、十七万人前後。まあ、本気度によって、これより増えも減りもする大雑把な人数だが、「あわよくば」「運が良ければ」レベルも含めて、この程度のプロ作家志望者は存在すると見て当たらずといえども遠からずだろう。

この内で、数ある新人賞に応募して予選突破し、二次選考以降に進める人数が、県予選を突破して甲子園に出場できる高校球児の人数に、ほぼ匹敵する。

四十七都道府県の代表に加えて、二十一世紀枠などという別枠参加もあるので切りの良いところで五十校として、ベンチ入り人数が十八人。合計して九百人。一人でいくつも予選突破する応募者も存在し、一次選考で二十人前後まで絞り込む新人賞もあれば、百人以上を通す緩い新人賞もあるので、この人数も、まずまず合っている。

その中でスカウトの目に止まり、ドラフト会議にノミネートされてプロ野球選手になる人数が、ビッグ・タイトル新人賞を射止める人数に、これまた匹敵する。

さて、プロ野球の一軍選手でベンチ入りできる人数は二十五人×十二球団で、三百人である。

この上限枠は決まっているので、ベンチ入りに抜擢される新人選手が出れば、当然、ベンチから押し出される選手が存在する。

プロ作家の業界は、まさに、この状態で、プロ作家として生計維持が可能な人数は、三百人程度である。近年は出版業界の構造不況で本が売れないので、平均的なサラリーマンよりも稼いでいるプロ作家となると、二百人程度しかいないと思われる。

華々しく新人賞受賞して文壇デビューを果たしたまでは良いが、早々に影も形もなく消え失せる作家が圧倒的大多数を占める理由は、新人賞→プロ作家への道が、高校野球→プロ野球への道と酷似構造になっているからに他ならない。

一軍でレギュラーとして活躍しているプロ野球選手が、いったいどれくらいの努力を重ねたか、それはマスコミの報道や新聞雑誌の記事などで、おおよそ知ることができる。

プロ作家への道も同じである。生半可な努力では、プロ作家にはなれない。遺憾ながら「公募ガイド」に送られてくる原稿を読むと、とうていその覚悟があるようには思えない。

プロ野球選手は、かつての一流選手のフォームを真似して自分が上達するための手本とする。

プロ作家志望者は名文家と言われた作家の文章スタイルを模倣して、そこから自分独自の文章スタイルを確立していかなければならない。応募しても応募しても一次選考の壁を突破できない最近の新人の文章は、そういう努力の片鱗も見えない。

私は新人賞受賞作家ではなく持ち込みデビューだが、それは新人賞候補になった時点(学生時代)で直ちに持ち込み営業を始めたからである。

当時は一日に五十枚から百枚の原稿を書いていた。新人賞応募作は短編なら一日で書き上げ、長編は一週間で書き上げた。これは格別に速いわけではない。私以前の戦中派の作家先輩たちは、みんな、こんなペースで書いている。

私は学生時代にプロ作家になり、家も学生時代に建て、サラリーマン経験は唯の一度もない。現代の人に、できないわけがない。要は、どこまで覚悟を決めるか、である。

最後に「予選突破の可能性ゼロ」判定を下した作品の共通項に触れておこう。

それは、まず、現在の自分(主人公)が置かれている状況を延々と説明し、そこから、かつて体験した想い出深いエピソードを回想する、というもの。

なぜ、これがNGなのかというと「現在」があるだけで、過去にどれほど過酷な事件や事故があったとしても、それを無事に切り抜けたことが明白だからである。

回想形式の物語では「主人公が死ぬ」意外な結末は有り得ない。

最近の新人賞選考は減点方式になってるので、この回想プロローグの減点だけで落選点に到達してしまう。だから「予選突破の可能性ゼロ」なので、ほんの一%すら存在しないことになる。

唯一の例外は、直木賞作家の桜庭一樹が東京創元社の『ミステリ・フロンティア』のシリーズに書き下ろした『少女には向かない職業』の冒頭の一行「中学二年生の一年間で、あたし、大西葵十三歳は、人をふたり殺した」である。

確かに「現在」があるのだから、主人公の葵が過去を無事に切り抜けたのは間違いない。しかし、そのために中2の少女が二人もの殺人を決行したとなると、事は生半可ではない。「一体全体どんなことを仕出かしたのだ?」と作中に引き摺りこまれる。このくらいのインパクトが演出できるのでない限り「回想冒頭」は不可である。

 

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
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日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。