文章表現トレーニングジム 佳作「ネット将棋」 岩下欣弘
第12回 文章表現トレーニングジム 佳作「ネット将棋」 岩下欣弘
エッセイを書こうとパソコンを起動したものの、ちょっとその前にネットの将棋を一局指そうとゲームの画面も立ち上げた。
一局目「7六歩、3四歩、2六歩、4四歩、……以下八十五手で負け」では、もう一局。二局目「7六歩、3四歩、2六歩、……以下百十二手で負け」あれ、もう一局試すか。三局目「2六歩、3四歩、7六歩、……以下八十二手で負け」こうなれば、せめて一局勝つまで。四局目「2六歩、8四歩、2五歩、8五歩、……以下六十三手で負け」見落としが多く、読み抜けが多過ぎる日だ。
自分のレートがだんだん下がっていくと、自分自身に腹が立ち、ますます冷静に考えられなくなる。怒っていては、勝てる将棋も勝ちきれない。パソコンに向かって呪いの言葉を吐きかけては、勝てそうな相手を探しては指し続けた。負け続けたまま終わるのが嫌なのだ。七連敗の後、ようやく勝てそうな将棋になってきた。少なくなる持ち時間を気にしながら、マウスをクリックする右手の人差し指に力が入る。
「やった」ついに勝ったと思った瞬間、相手が消えた。相手のレートが下がって、自分のレートが上がる筈なのに、なんらかの手段を使って魔法のごとく消え失せた。実際の将棋ではこんな手段は使えないが、ネット上ではこんな手段を使う輩がいる。このタイミングでそんな相手と当たるなんて……。
怒り心頭、もう、エッセイを書く気にもなれない。ログオフしてパソコンをシャットダウンした。