文章表現トレーニングジム 佳作「げて物食い」 関名ひろい
第10回 文章表現トレーニングジム 佳作「げて物食い」 関名ひろい
料理番組を観るのが好きだ。天ぷら茶漬けが有名な料亭が紹介されていた。海老天に出し汁をかけ、生山葵をきかせ、熱いうちに食べる。
「うまいですね。さっぱりしています」
食レポの女性が目を輝かせていた。思わず食指が動き喉が鳴った。今でこそ、海老茶付けは、一品料理として認知されているが、私がはじめて口にした頃は、げて物食いだ、と馬鹿にされた。
およそ半世紀以上前になろうか、私が小学五年生のときだった。母から食べてみろ、と言われたのは、鮪茶漬けだった。刺身の鮪を温かい白米にのせ、熱いお茶をかける。鮪が白くちぢれる。少し生臭い。が、ワサビの香りでうまそうだ。目をつぶって茶碗を持ち、茶漬けを掻き込んだ。
「気味悪いなあ――。よせよ」
「よく食べられるわね。ふるえる」
兄や姉は、苦みきった様子で、私をにらみつけた。「あら、おいしいわよ。食べず嫌いって言うのよ」と母は、けろりとしていた。母は都会育ちで、料理好きで、気のきいたものが食卓にならんだ。だが、当時は食糧難で麦飯が多く、白米だけの銀舎利だと、塩辛や里いも、時として海老をのせ、お茶をかけ食べた。田舎ゆえに、変わり者の子供として噂された。母の血をひいたのか、料理が趣味となって、台所に立ち献立作りにいそしんでいる。