公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

日本ラブストーリー大賞について

タグ
作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

今回は七月末締切の日本ラブストーリー大賞について論ずることにしたい。

この賞は、受賞作にラブストーリーらしいラブストーリーがほとんど見当たらない、という特色がある。中には「これの、どこがラブストーリー?」と首を捻るような受賞作もあって、それは日本ファンタジーノベル大賞の受賞作に、いわゆるファンタジーの王道を行く物語がほとんどない、という特徴と似通っている。

つまり、日本ラブストーリー大賞と日本ファンタジーノベル大賞は〝傾向と対策〟を立てずに公募ガイド掲載の応募要項だけを読んで「ラブストーリーか」「ファンタジーか」と安直に応募したら、敢えなく一次選考で落とされる確率が高い新人賞の双璧なのだ。

選考委員は基本的に、似通った応募作は束にして落とす。なぜなら新人賞とは「他の凡人アマチュアとは違った発想ができる」書き手を求めているからだ。また、新奇な発想ができなくても、ある特定分野に極めて詳しい知識を持つ書き手を求めているからだ。

ところが、アマチュアの圧倒的大多数は「面白くて、きちんと起承転結がまとまっている作品が書ければ、新人賞は受賞できる」と思い込んでいる。当講座で執拗に繰り返して注意しても、分からない。〝なんとなく分かったような気になっているだけ〟と評しても過言ではない。

新人賞応募作として、どれほど大量に同工異曲の作品が送られてくるか、呆れるほどだ。

たとえ面白くても、同工異曲の作品は落とされる。しかも、選考委員の目から見れば、応募者が期待しているほどには面白く感じない。言うなれば選考委員は、どのケーキが最も美味いか、品評会で延々とケーキを食べ続けているような状況下に置かれているのだ。

いい加減、舌も麻痺しており、ちょっとやそっとの美味さ(面白さ)は、美味い(面白い)とは感じなくなっている。その結果、ゲテモノ料理的なケーキ(奇妙奇天烈、摩訶不思議なテイストの応募作)を美味い(面白い)と感じ、それが一般読者の好みとは大きくズレている場合が時として起こる。「何でこれが受賞作?」とアマゾンのレビューで散々に酷評する突っ込みが入ったりするのは、だいたいにおいて、そういう場合である。

ラブストーリーというと、人間には男女二つの性別しかないので、異性愛にしろ同性愛にしろ、パターンは極めて限定される。男対女、女対女、男対男の三パターンしかない。

だから、この三つのパターンに、どういう要素を組み合わせて、ケーキならばデコレーション、トッピングに相当する味付けをするかに、新人賞受賞のキーポイントが懸かる。例えば平家物語の蘊蓄を絡めたのが、第三回審査員特別賞の林由美子『化粧坂』である。

第四回のエンタテインメント特別賞、千梨らくの『惚れ草』を取り上げてみると、主人公の女性の実姉と結婚したのが初恋の人。姉の結婚後もひたすら義兄に恋し続け、どうにかして自分のほうを振り向かせようと、それを飲ませれば恋させることができるという架空の〝惚れ草〟を求め続け、遂に入手に成功して盛る、といった内容の物語である。

アマゾンのレビューは、たった一つ、★三個で「流れるような文章は達者で読みやすい。しかし、あまりにもご都合主義的な話の展開はどうなのだろう。男性の私には無理でも女性の読者の共感は呼ぶのだろうか? 人物描写、特に惚れた姉の夫が明確な像を持って頭に浮かんでこない。ストーリーは起伏に富み、文章も読ませるものを持っている」という評価。

確かに、恋愛対象の義兄がほとんど書かれていないので、なぜそこまで主人公が義兄に執着するかが説得力を持って伝わって来ない、という難点はあるのだが、惚れ草を入手後の展開が意外性に富んでいて(つまり、選考委員の予想を良いほうに裏切って)受賞に届いたと見る。

その分、前半のストーリー展開が、いかにも弱い。これが大賞受賞の『放課後のウォー・クライ』(上原小夜)との差を分けた。後半だけなら『惚れ草』のほうが上回る。

『放課後のウォー・クライ』のような学園小説は〝誰にでも書ける〟ような印象を与えるだけに、かえって書きにくい。過去の受賞作と酷似した応募作は落とされる、という新人賞選考の鉄則からいえば『放課後のウォー・クライ』は〝傾向と対策〟の対象にするべきではない。『惚れ草』はラストの急展開はドンデン返しにもなっていて良かったが、おそらく作者は、この〝一発アイディア〟しか思いつかなかったのだろう。だからどうしても前半のストーリー展開は単調にも、ご都合主義にも陥らざるを得ず、文章力に頼った。

第五回の受賞作『ルームシェア・ストーリー』(宇木聡史)も、一発アイディアの作品で、ここ二年は正直なところ低レベルの受賞作が続いているから、二発以上の秀逸なアイディアを盛り込めれば、今年の日本ラブストーリー大賞は受賞に届く確率は高いと見る。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

日本ラブストーリー大賞について(2011年7月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

今回は七月末締切の日本ラブストーリー大賞について論ずることにしたい。

この賞は、受賞作にラブストーリーらしいラブストーリーがほとんど見当たらない、という特色がある。中には「これの、どこがラブストーリー?」と首を捻るような受賞作もあって、それは日本ファンタジーノベル大賞の受賞作に、いわゆるファンタジーの王道を行く物語がほとんどない、という特徴と似通っている。

つまり、日本ラブストーリー大賞と日本ファンタジーノベル大賞は〝傾向と対策〟を立てずに公募ガイド掲載の応募要項だけを読んで「ラブストーリーか」「ファンタジーか」と安直に応募したら、敢えなく一次選考で落とされる確率が高い新人賞の双璧なのだ。

選考委員は基本的に、似通った応募作は束にして落とす。なぜなら新人賞とは「他の凡人アマチュアとは違った発想ができる」書き手を求めているからだ。また、新奇な発想ができなくても、ある特定分野に極めて詳しい知識を持つ書き手を求めているからだ。

ところが、アマチュアの圧倒的大多数は「面白くて、きちんと起承転結がまとまっている作品が書ければ、新人賞は受賞できる」と思い込んでいる。当講座で執拗に繰り返して注意しても、分からない。〝なんとなく分かったような気になっているだけ〟と評しても過言ではない。

新人賞応募作として、どれほど大量に同工異曲の作品が送られてくるか、呆れるほどだ。

たとえ面白くても、同工異曲の作品は落とされる。しかも、選考委員の目から見れば、応募者が期待しているほどには面白く感じない。言うなれば選考委員は、どのケーキが最も美味いか、品評会で延々とケーキを食べ続けているような状況下に置かれているのだ。

いい加減、舌も麻痺しており、ちょっとやそっとの美味さ(面白さ)は、美味い(面白い)とは感じなくなっている。その結果、ゲテモノ料理的なケーキ(奇妙奇天烈、摩訶不思議なテイストの応募作)を美味い(面白い)と感じ、それが一般読者の好みとは大きくズレている場合が時として起こる。「何でこれが受賞作?」とアマゾンのレビューで散々に酷評する突っ込みが入ったりするのは、だいたいにおいて、そういう場合である。

ラブストーリーというと、人間には男女二つの性別しかないので、異性愛にしろ同性愛にしろ、パターンは極めて限定される。男対女、女対女、男対男の三パターンしかない。

だから、この三つのパターンに、どういう要素を組み合わせて、ケーキならばデコレーション、トッピングに相当する味付けをするかに、新人賞受賞のキーポイントが懸かる。例えば平家物語の蘊蓄を絡めたのが、第三回審査員特別賞の林由美子『化粧坂』である。

第四回のエンタテインメント特別賞、千梨らくの『惚れ草』を取り上げてみると、主人公の女性の実姉と結婚したのが初恋の人。姉の結婚後もひたすら義兄に恋し続け、どうにかして自分のほうを振り向かせようと、それを飲ませれば恋させることができるという架空の〝惚れ草〟を求め続け、遂に入手に成功して盛る、といった内容の物語である。

アマゾンのレビューは、たった一つ、★三個で「流れるような文章は達者で読みやすい。しかし、あまりにもご都合主義的な話の展開はどうなのだろう。男性の私には無理でも女性の読者の共感は呼ぶのだろうか? 人物描写、特に惚れた姉の夫が明確な像を持って頭に浮かんでこない。ストーリーは起伏に富み、文章も読ませるものを持っている」という評価。

確かに、恋愛対象の義兄がほとんど書かれていないので、なぜそこまで主人公が義兄に執着するかが説得力を持って伝わって来ない、という難点はあるのだが、惚れ草を入手後の展開が意外性に富んでいて(つまり、選考委員の予想を良いほうに裏切って)受賞に届いたと見る。

その分、前半のストーリー展開が、いかにも弱い。これが大賞受賞の『放課後のウォー・クライ』(上原小夜)との差を分けた。後半だけなら『惚れ草』のほうが上回る。

『放課後のウォー・クライ』のような学園小説は〝誰にでも書ける〟ような印象を与えるだけに、かえって書きにくい。過去の受賞作と酷似した応募作は落とされる、という新人賞選考の鉄則からいえば『放課後のウォー・クライ』は〝傾向と対策〟の対象にするべきではない。『惚れ草』はラストの急展開はドンデン返しにもなっていて良かったが、おそらく作者は、この〝一発アイディア〟しか思いつかなかったのだろう。だからどうしても前半のストーリー展開は単調にも、ご都合主義にも陥らざるを得ず、文章力に頼った。

第五回の受賞作『ルームシェア・ストーリー』(宇木聡史)も、一発アイディアの作品で、ここ二年は正直なところ低レベルの受賞作が続いているから、二発以上の秀逸なアイディアを盛り込めれば、今年の日本ラブストーリー大賞は受賞に届く確率は高いと見る。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。