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日本ミステリー文学大賞新人賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日本ミステリー文学大賞新人賞

今回は、五月十日締切(当日消印有効)の日本ミステリー文学大賞新人賞(三十字×二十行~四十行でA4の白紙用紙に印字。四百字詰め換算で、三百五十枚~六百枚。右肩をWクリップ止め)を取り上げることにし、第十六回受賞作の葉真中顕『ロスト・ケア』について論ずる。


このところミステリー系新人賞受賞作には「この程度で受賞作?」と首を傾げるレベルのものが多かったが、『ロスト・ケア』は久々の秀作と言える。ただ、これまた当講座で何度も指摘している「こういうタイプの物語を応募してはいけない」範疇の作品である。


まず、テーマとして取り上げているのが時事ネタで、おそらく作者自身に切実な介護体験があるのだろう、過去に不正問題を起こした老人介護福祉企業をモデルに物語の根幹に据えて、親の在宅介護、ボケ老人や子供に対するDV、振り込め詐欺、大手企業からの顧客情報の流出事件などのエピソードが枝葉になって、前半のストーリーが展開していく。


正直なところ、これらをテーマにした応募作は極めて多い。よほど凝った物語構成にしなければ「またか」で、一顧だにせずに一次選考で落とされる。作者の葉真中は『ライバル』で角川学芸児童文学賞優秀賞受賞、週刊少年サンデーの『犬部! ボクらのしっぽ戦記』の脚本協力などの実績を持つ準プロ作家である。だからこそ構成が成功したと見る。


テーマがテーマだけに、読んでいて憂鬱になってくる。よほど物語構成力に自信がなければ、こういうジャンルに手を出すべきではない。純粋のアマチュアには向いていない。


さて、物語構成に触れると、〈彼〉(匿名で、連続殺人事件の犯人)、羽田洋子、斯波宗典、佐久間功一郎、大友秀樹という五人の視点人物が出てくる一種の群像小説である。


ミステリーである以上は最終的に犯人は明かされる必要があるので、〈彼〉は羽田、斯波、佐久間、大友の四人の内の誰かであることは、最初から見当がつく。〈彼〉と書かれていたからといって、それが男だと限らないのはメフィスト賞受賞作『ハサミ男』の例があるので羽田を外すことはできない。ただ、羽田は、いかにも連続殺人など無理そうなキャラ設定で、これは失敗。最後の最後まで「羽田が〈彼〉かも」と読者に疑わせるミス・ディレクトのトリックを盛り込むことが必要だった。


佐久間は物語の半ばで殺されて犯人の候補者から退場する。これも失敗。もっと後まで引っ張って、読者に「佐久間が犯人かも」と思わせる伏線を張り巡らせる手を打つべき。


大友はキャラ的に連続殺人犯は無理で、名探偵の位置づけ。羽田も無理そう。つまり、佐久間の死による退場で〈彼〉=斯波だと、物語の六十%の時点で確定してしまう。


確定以降で、斯波の視点で他に真犯人が存在するかのようなミス・ディレクションが、斯波の上司の団なる人物に関して行われているが、これは姑息で、容易に見抜かれる。団が真犯人なら、もっと早い段階で頻繁に登場して伏線を張っていなければならない。


これで、ミス・ディレクションでなく、団が真犯人だったら「典型的なご都合主義」と見なされて、予選突破どころか一次選考で落とされていただろう。


こうやって読んでいくと、『ロスト・ケア』は、かなり緻密に物語構成が工夫されてはいるものの、大きな欠点もあることが分かる。修正すべき方向および伏線を箇条書きすると、


①羽田洋子を、老人介護の苦しさに耐えかねて、ストレスからブチ切れて連続殺人を犯しかねない、ヤンキー・キャラにする。

②佐久間功一郎は、いかにも悪党なので、死による表舞台からの退場を、ぎりぎり後半まで引っ張る。

③名探偵=真犯人という叙述トリックの前例がいくらでもあるので、検事の大友を一種の二重人格にし、「正義漢に見えるが、ひょっとしたら、裏の顔があって、こいつが真犯人かも」と疑わせるミス・ディレクトの伏線をあちこちに張っておく。

④斯波の視点で「上司の団が真犯人か?」と疑わせるミス・ディレクションが、あまりに露骨すぎてミス・ディレクションになっていない(ミステリー・ファンなら見抜く。さほどのファンでなければ、引っ掛かるかも知れないが)ので、もっとオブラートに包む。


こういう物語は、主要登場人物ごとの時系列行動表をエクセルなどで綿密に作成しておく事前準備が必要なのだが、作者の葉真中は脇役陣に関して、いささか手抜きをした感がある。


当講座を読んだ人は『ロスト・ケア』を入手して、私の指摘を念頭に置きつつ、読んでみてほしい。そうすれば、どういう込み入った物語構成をすれば新人賞受賞に結びつくのかが、自ずと見えてくるはずである。


ただ、『ロスト・ケア』のような時事ネタは回避する。他の応募作とのアイデアのバッティングで「オリジナリティなし」と見なされて予選落ちに遭う危険性が極めて高い。一般論としては、身近で詳しい知識があり、マスコミのネタになっていない素材を探すべき。

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その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

日本ミステリー文学大賞新人賞(2014年5月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日本ミステリー文学大賞新人賞

今回は、五月十日締切(当日消印有効)の日本ミステリー文学大賞新人賞(三十字×二十行~四十行でA4の白紙用紙に印字。四百字詰め換算で、三百五十枚~六百枚。右肩をWクリップ止め)を取り上げることにし、第十六回受賞作の葉真中顕『ロスト・ケア』について論ずる。


このところミステリー系新人賞受賞作には「この程度で受賞作?」と首を傾げるレベルのものが多かったが、『ロスト・ケア』は久々の秀作と言える。ただ、これまた当講座で何度も指摘している「こういうタイプの物語を応募してはいけない」範疇の作品である。


まず、テーマとして取り上げているのが時事ネタで、おそらく作者自身に切実な介護体験があるのだろう、過去に不正問題を起こした老人介護福祉企業をモデルに物語の根幹に据えて、親の在宅介護、ボケ老人や子供に対するDV、振り込め詐欺、大手企業からの顧客情報の流出事件などのエピソードが枝葉になって、前半のストーリーが展開していく。


正直なところ、これらをテーマにした応募作は極めて多い。よほど凝った物語構成にしなければ「またか」で、一顧だにせずに一次選考で落とされる。作者の葉真中は『ライバル』で角川学芸児童文学賞優秀賞受賞、週刊少年サンデーの『犬部! ボクらのしっぽ戦記』の脚本協力などの実績を持つ準プロ作家である。だからこそ構成が成功したと見る。


テーマがテーマだけに、読んでいて憂鬱になってくる。よほど物語構成力に自信がなければ、こういうジャンルに手を出すべきではない。純粋のアマチュアには向いていない。


さて、物語構成に触れると、〈彼〉(匿名で、連続殺人事件の犯人)、羽田洋子、斯波宗典、佐久間功一郎、大友秀樹という五人の視点人物が出てくる一種の群像小説である。


ミステリーである以上は最終的に犯人は明かされる必要があるので、〈彼〉は羽田、斯波、佐久間、大友の四人の内の誰かであることは、最初から見当がつく。〈彼〉と書かれていたからといって、それが男だと限らないのはメフィスト賞受賞作『ハサミ男』の例があるので羽田を外すことはできない。ただ、羽田は、いかにも連続殺人など無理そうなキャラ設定で、これは失敗。最後の最後まで「羽田が〈彼〉かも」と読者に疑わせるミス・ディレクトのトリックを盛り込むことが必要だった。


佐久間は物語の半ばで殺されて犯人の候補者から退場する。これも失敗。もっと後まで引っ張って、読者に「佐久間が犯人かも」と思わせる伏線を張り巡らせる手を打つべき。


大友はキャラ的に連続殺人犯は無理で、名探偵の位置づけ。羽田も無理そう。つまり、佐久間の死による退場で〈彼〉=斯波だと、物語の六十%の時点で確定してしまう。


確定以降で、斯波の視点で他に真犯人が存在するかのようなミス・ディレクションが、斯波の上司の団なる人物に関して行われているが、これは姑息で、容易に見抜かれる。団が真犯人なら、もっと早い段階で頻繁に登場して伏線を張っていなければならない。


これで、ミス・ディレクションでなく、団が真犯人だったら「典型的なご都合主義」と見なされて、予選突破どころか一次選考で落とされていただろう。


こうやって読んでいくと、『ロスト・ケア』は、かなり緻密に物語構成が工夫されてはいるものの、大きな欠点もあることが分かる。修正すべき方向および伏線を箇条書きすると、


①羽田洋子を、老人介護の苦しさに耐えかねて、ストレスからブチ切れて連続殺人を犯しかねない、ヤンキー・キャラにする。

②佐久間功一郎は、いかにも悪党なので、死による表舞台からの退場を、ぎりぎり後半まで引っ張る。

③名探偵=真犯人という叙述トリックの前例がいくらでもあるので、検事の大友を一種の二重人格にし、「正義漢に見えるが、ひょっとしたら、裏の顔があって、こいつが真犯人かも」と疑わせるミス・ディレクトの伏線をあちこちに張っておく。

④斯波の視点で「上司の団が真犯人か?」と疑わせるミス・ディレクションが、あまりに露骨すぎてミス・ディレクションになっていない(ミステリー・ファンなら見抜く。さほどのファンでなければ、引っ掛かるかも知れないが)ので、もっとオブラートに包む。


こういう物語は、主要登場人物ごとの時系列行動表をエクセルなどで綿密に作成しておく事前準備が必要なのだが、作者の葉真中は脇役陣に関して、いささか手抜きをした感がある。


当講座を読んだ人は『ロスト・ケア』を入手して、私の指摘を念頭に置きつつ、読んでみてほしい。そうすれば、どういう込み入った物語構成をすれば新人賞受賞に結びつくのかが、自ずと見えてくるはずである。


ただ、『ロスト・ケア』のような時事ネタは回避する。他の応募作とのアイデアのバッティングで「オリジナリティなし」と見なされて予選落ちに遭う危険性が極めて高い。一般論としては、身近で詳しい知識があり、マスコミのネタになっていない素材を探すべき。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 日本ミステリー文学大賞新人賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。