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横溝正史ミステリ大賞

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作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

横溝正史ミステリ大賞

今回は十一月五日締切(消印有効)の横溝正史ミステリ大賞(ジャンルは、広義のミステリー。A4サイズの白紙に四十字×四十行で縦書き印字し、八十八枚以上、二百枚まで。手書き原稿は四百字詰め三百五十枚以上、八百枚まで。パソコンの場合は、テキスト形式ファイル、ワードファイル、一太郎ファイルの三形式。ウェブサイトから応募フォームによる投稿も可)を取り上げることにする。


第三十三回の受賞作『見えざる網』(伊兼源太郎。応募時のタイトルは『アンフォゲッタブル』)について論じるが、その前に、読者の皆さんに注意しておきたいことがある。


こういう講座を書いているので、応募作に関して相談を受ける機会が極めて多いが、「いくら応募しても一次選考も通過しないが、自分には才能がないのだろうか?」と悩んでいる事例が、中でも目立つ。


予選突破するか否かは、相対的なものである。どれほど良い作品を書いても、それを上回る出来映えの作品が殺到すれば予選落ちするし、さほどでない作品であっても、競合作に傑作が見当たらなければ予選突破して、上位にまで残る


挙げ句の果ては、駄作でも大賞受賞になってしまう幸運さえも起こり得る(かつては「該当作なし」になったが、出版不況の現在、各版元とも少しでも本を売りたいから、多少の瑕疵があっても受賞作を出すのが基本方針になっている)。


また、各社とも「こういう作品を弊社では売りたい」という希望があるから、それを一次選考、二次選考の下読み選者に伝え、予備選考が純粋に応募作のレベルによってではなく、極めて恣意的に行われることも決して珍しくない。


しかも、人事異動で編集長や販売部長が交代すると、下読み選者に対する指示が激変したりする。


私の小説講座の生徒では、A賞の一次選考落ち作品を、多少の改変を加えた程度でB賞に転応募し、大賞を受賞、という事例が三人ある。


これは私が「この作品の出来映えで、一次選考落ちは不可解。B賞なら、もっと上位まで残る可能性があるから応募してみなさい」と勧めたからだが、そのくらい新人賞選考は運不運が左右する。


さて、第三十三回の横溝正史大賞に戻ると、最終候補の五作の内の二作は選考委員から「小説になっていない」「下書きレベル」「選考委員としての最後の仕事に、こんな作品が回ってくるとは、天罰か」「小説以前の代物」と散々な書かれよう。


通常ならば最終候補が三作になるところを、こういう選考になる理由は、編集部から「こういうタイプの作品は上位に残してほしい」という指示があったからに他ならない。


どういう指示があったかは容易に想像できる。最近はアイドルが主演できる軽いミステリーがテレビや映画で求められており、映像化されれば原作本はメガヒットが期待できるから、編集部としては、そういう作品に授賞したい。最近はミステリーの大賞受賞作で映像化作品が少ない(結果としてベストセラーにならない)から、なおさらである。


その結果としてミステリーのレベル的に水準に達していない駄作が上位にまで残る本末転倒現象が起きる。


逆説的に言えば「どうにかして選考の上位にまで残りたい」願望のある人は「アイドルが主演できそうな物語」を応募作に書いてみるのは、一つの手である。


さて、そういう裏事情が新人賞選考には絡むから、最近は伝統あるビッグ・タイトルの新人賞でも受賞作に傑作が見当たらなくなった。


江戸川乱歩賞も横溝正史ミステリ大賞も、前半はまずまずの出来映えだが、後半になって腰砕けになる、竜頭蛇尾の作品(ヒドいのになると蛇の尻尾どころかミミズの尻尾だ)が目立つ。江戸川乱歩賞だと『13階段』が、横溝正史ミステリ大賞だと『T.R.Y.』が最後の傑作だと評する人が多い。


『見えざる網』も例外ではなく、冒頭の不可解さ(主人公が襲われる、ストーカーのようでいて、そうではない未曾有の危機)には唸らされる。


ところが中盤あたりで犯人の見当がつくと、それ以降の展開は、あたかも砂上の楼閣が崩壊するかのごとき惨状を露呈する。


第三十回受賞作の『お台場アイランドベイビー』あたりも、そうだった。


後半の脆弱さは選評でも指摘されており、授賞決定から受賞作の刊行まで、かなりの改稿が行われるはずだが、それでもなお、これだけ欠点が残っているとなると受賞者の力量不足か、はたまた作品自体のテーマに根源的な欠陥が存在するのだろう。


主人公の今光も、ヒロインの千春もキャラ立てがイマイチ。際立ったキャラに造形できるはずの設定なのに、そうならないのは台詞回しなどの弱さ。台詞の名手の黒川博行さんが選考委員に加わったから、『見えざる網』レベルの応募作では、今回は落とされるだろう。

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 若桜木先生が、横溝正史ミステリ大賞を受賞するためのテクニックを教えます!

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 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

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朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

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歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

横溝正史ミステリ大賞(2014年10月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

横溝正史ミステリ大賞

今回は十一月五日締切(消印有効)の横溝正史ミステリ大賞(ジャンルは、広義のミステリー。A4サイズの白紙に四十字×四十行で縦書き印字し、八十八枚以上、二百枚まで。手書き原稿は四百字詰め三百五十枚以上、八百枚まで。パソコンの場合は、テキスト形式ファイル、ワードファイル、一太郎ファイルの三形式。ウェブサイトから応募フォームによる投稿も可)を取り上げることにする。


第三十三回の受賞作『見えざる網』(伊兼源太郎。応募時のタイトルは『アンフォゲッタブル』)について論じるが、その前に、読者の皆さんに注意しておきたいことがある。


こういう講座を書いているので、応募作に関して相談を受ける機会が極めて多いが、「いくら応募しても一次選考も通過しないが、自分には才能がないのだろうか?」と悩んでいる事例が、中でも目立つ。


予選突破するか否かは、相対的なものである。どれほど良い作品を書いても、それを上回る出来映えの作品が殺到すれば予選落ちするし、さほどでない作品であっても、競合作に傑作が見当たらなければ予選突破して、上位にまで残る


挙げ句の果ては、駄作でも大賞受賞になってしまう幸運さえも起こり得る(かつては「該当作なし」になったが、出版不況の現在、各版元とも少しでも本を売りたいから、多少の瑕疵があっても受賞作を出すのが基本方針になっている)。


また、各社とも「こういう作品を弊社では売りたい」という希望があるから、それを一次選考、二次選考の下読み選者に伝え、予備選考が純粋に応募作のレベルによってではなく、極めて恣意的に行われることも決して珍しくない。


しかも、人事異動で編集長や販売部長が交代すると、下読み選者に対する指示が激変したりする。


私の小説講座の生徒では、A賞の一次選考落ち作品を、多少の改変を加えた程度でB賞に転応募し、大賞を受賞、という事例が三人ある。


これは私が「この作品の出来映えで、一次選考落ちは不可解。B賞なら、もっと上位まで残る可能性があるから応募してみなさい」と勧めたからだが、そのくらい新人賞選考は運不運が左右する。


さて、第三十三回の横溝正史大賞に戻ると、最終候補の五作の内の二作は選考委員から「小説になっていない」「下書きレベル」「選考委員としての最後の仕事に、こんな作品が回ってくるとは、天罰か」「小説以前の代物」と散々な書かれよう。


通常ならば最終候補が三作になるところを、こういう選考になる理由は、編集部から「こういうタイプの作品は上位に残してほしい」という指示があったからに他ならない。


どういう指示があったかは容易に想像できる。最近はアイドルが主演できる軽いミステリーがテレビや映画で求められており、映像化されれば原作本はメガヒットが期待できるから、編集部としては、そういう作品に授賞したい。最近はミステリーの大賞受賞作で映像化作品が少ない(結果としてベストセラーにならない)から、なおさらである。


その結果としてミステリーのレベル的に水準に達していない駄作が上位にまで残る本末転倒現象が起きる。


逆説的に言えば「どうにかして選考の上位にまで残りたい」願望のある人は「アイドルが主演できそうな物語」を応募作に書いてみるのは、一つの手である。


さて、そういう裏事情が新人賞選考には絡むから、最近は伝統あるビッグ・タイトルの新人賞でも受賞作に傑作が見当たらなくなった。


江戸川乱歩賞も横溝正史ミステリ大賞も、前半はまずまずの出来映えだが、後半になって腰砕けになる、竜頭蛇尾の作品(ヒドいのになると蛇の尻尾どころかミミズの尻尾だ)が目立つ。江戸川乱歩賞だと『13階段』が、横溝正史ミステリ大賞だと『T.R.Y.』が最後の傑作だと評する人が多い。


『見えざる網』も例外ではなく、冒頭の不可解さ(主人公が襲われる、ストーカーのようでいて、そうではない未曾有の危機)には唸らされる。


ところが中盤あたりで犯人の見当がつくと、それ以降の展開は、あたかも砂上の楼閣が崩壊するかのごとき惨状を露呈する。


第三十回受賞作の『お台場アイランドベイビー』あたりも、そうだった。


後半の脆弱さは選評でも指摘されており、授賞決定から受賞作の刊行まで、かなりの改稿が行われるはずだが、それでもなお、これだけ欠点が残っているとなると受賞者の力量不足か、はたまた作品自体のテーマに根源的な欠陥が存在するのだろう。


主人公の今光も、ヒロインの千春もキャラ立てがイマイチ。際立ったキャラに造形できるはずの設定なのに、そうならないのは台詞回しなどの弱さ。台詞の名手の黒川博行さんが選考委員に加わったから、『見えざる網』レベルの応募作では、今回は落とされるだろう。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、横溝正史ミステリ大賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 横溝正史ミステリ大賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。