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持ち込みデビュー虎の巻

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作文・エッセイ
作家デビュー

持ち込みのノウハウ

  今回は、プロ作家としてデビューするための方法に関して述べる。

  新人賞を受賞してデビュー――は誰でも知っているが、出版社に原稿を持ち込んで採用してもらう「持ち込み」に関しては、意外に知られていない。

  で、そのノウハウを詳述する。

  まず、新人賞を主催している出版社は、避ける。持ち込んでも「当社の新人賞に応募してください」と言われるだけである。

  やることは、「日本の出版社」でネット検索を懸けることで、『ウィキペディア』の「日本の出版社一覧」にずらずらっと3000社以上が引っ掛かる。

  既に倒産廃業した出版社、サイトに繋がらない出版社、大学の出版部などもあるが、小説本を出している出版社は、いちいち勘定していないが、1000社以上はある。

  そこに連絡を取る。

  アポイントを取って訪問するのが最も成約率が高い。作品の出来映えさえ良ければ、20%ぐらいは採用してもらえる。

  ただ、箸にも棒にもかからない不出来な原稿を持ち込むと「2度と来るな」と罵倒されて、中には持ち込んだ原稿を返してもらえず、目の前で破かれて勢いよくゴミ箱に叩き込まれた実例があるから、よくよく気をつけること。

  自分の実力を知るためにも、ビッグ・タイトルの新人賞に応募して最低でも一次選考は突破しておきたい。

  特に横溝正史ミステリ&ホラー大賞と松本清張賞は一次選考で一気にベスト20ぐらいにまで絞り込むから、この両賞で一次選考を突破していたら、既にプロ作家級の実力を備えていると自負して良い。

『このミステリーがすごい!』大賞の一次選考突破や「次回作に期待」も非常に有望。

  次に成約率が高いのが、電話で約束を取り付けて原稿を読んでもらうこと。この方法で、10%ぐらいは採用してもらえる。

  くれぐれも注意しておくが、手書き原稿と、原稿用紙フォーマットに印字した原稿を送ること。これは読まずに不採用になる。

「読んだが、面白くなかった」と言われるが、本当に読んでくれたかは、確認しようがない。

  次は、サイトの「お問い合わせ」欄に記入して送信し、リアクションを待つこと。この方法の成約率は、5%以下に落ちるが、最も手間が掛からない手法だから、致し方ない。

どのようにしてデビューしたか

  私(若桜木)は持ち込みデビューなので、当時のノウハウを書く。

  学生時代に2度に亘って新人賞候補になっていたので、それなりに自分の実力は客観的に把握できていた。

  で、集英社に持ち込んだのは『白球を叩け!』という作品だが「うちは、新人の持ち込み原稿は読まない」と編集長に門前払いを食わされた。

  私は、お茶の水から神保町界隈の出版社は「絨毯爆撃」的に片端から訪問していたので、その都度、集英社にも立ち寄って、読んでくれるように頼んだ。

  その訪問が30回ぐらいになった時に、編集長が呆れ顔になって「あんたも、しつこいねえ。たいてい5回か6回で、諦めて来なくなるんだが。しょうがない、根負けしたから、読んでやるよ」という返事になった。

  すると、翌日に電話がかかってきて「あれ、面白いから、うちで出すよ」と急転直下の出版決定となった。

  この作品は松竹で映画化され、『週刊マーガレット』で劇画化もされ、新人の作品としては空前のベストセラーになった。

  持ち込む際のキーポイントは「断られて当たり前」と思うことで、そう思っていれば不採用でも落ち込むことはない。

  町を歩きながら出版社の看板を見かけて、手ぶらで飛び込んで「何か書かせてもらえる仕事はありませんか」と尋ねて、その場で仕事を貰ったのが10%ぐらい。

  保険のセールス・レディが1軒1軒、訪問しては保険を売り込む方法の成約率の低さ(おそらく1%以下)に比べれば、格段に高い。

  この時「こういう話は書けるかね」と訊かれたら、躊躇なく「書けます」と答えなければならない。

  一瞬でも逡巡を見せたら、もう仕事は貰えない。書けるか否かは、出版社を出てから考える。で、書くために資料を集めで奔走する。

  小説を持ち込もうとしているのに、それ以外の依頼をされることもある。

  いわく「占いの本は書けるかね?」「速読術の本は書けるかね?」「能力開発の本は書けるかね?」「英語の記憶術の本は書けるかね?」等々。

  私は全て「書けます」と自信満々に(ここが肝心)即答した。私の著作が複雑多岐に亘っているのは、こういう新人時代の背景による。

  しかし、最近のプロ作家志望のアマチュアの、「こういう話は書ける?」と振った時に「それは、ちょっと」と二の足を踏むリアクションの多いこと。

  これではプロ作家になれないし、仮になれたとしても、早々に文壇から消える憂き目に遭う。

プロフィール

若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

 

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