若桜木虔先生による文学賞指南。「新人賞選考の内幕 8つの秘密」その1
新人賞の裏側8選
このサイトの読者から、新人賞の最終選考に関して質問が寄せられたので、今回は新人賞選考の内幕を書くことにする。
①唯の一作も授賞に該当する応募作がなかった場合。
どの賞とは敢えて書かないが「え? このレベルの駄作で新人賞?」と首を捻ったことが何度もある。
こういう受賞者は、すぐに文壇から消える。
興味がある人は『ウィキペディア』で新人賞受賞作家を調べ、次に、どのくらいの作品が出ているか、アマゾンなどで検索してみると良い。
だいたい九割の作家が、受賞から十年以内に、影も形もなく文壇から消えている。
新人賞の予選突破者がネットで公開されている場合には、過去の新人賞受賞作家が名前を連ねている事例を、よく見かける。
まず、受賞できない。
例外は、日本ミステリー文学大賞新人賞、小学館文庫小説賞、横溝正史ミステリ&ホラー大賞と、三度も受賞した大石直紀ぐらい。
なぜ自分の作品が売れなくなって版元から切られたのか、そういう自己分析ができない限り、二度目、三度目の新人賞受賞は叶わない。
なお、思い違いしているアマチュアが多いのだが、同じ新人賞を二度、受賞することは、できない。
しかし、他の新人賞に関しては、実績あるプロ作家であろうとも「新人」である。
さて、本題に戻るとしよう。
②授賞に該当する応募作が一作しかなかった場合。
これは、すんなり授賞。
最終候補の他の三作なり四作は、最終選考の体裁を整えるための「員数合わせ」で、最初から受賞の可能性なし。
③授賞に該当する応募作が二作の場合。
これは選考委員の決選投票になる。
決選投票でも決着しない場合には、ダブル受賞となる。
他の二作なり三作は、最終選考の体裁を整えるための「員数合わせ」に過ぎない。
④最終候補に残った全作品が受賞レベルに達していた場合。
これが最も選考が揉めて結論が出るまでが長引く。
グランプリ(大賞)の他に優秀賞や特別賞、奨励賞が出たりする。
⑤最終候補どころか、ベスト20ぐらいの作品が、全て受賞レベルに達していた場合。
これには、運不運が付き纏う。最終選考委員の前段階を受け持つ予選委員の好みが出てしまう。
また、予選委員が過去に読んだ作品に酷似している、などという不運な場合もある。
欧米で刊行され、まだ日本で翻訳本が出ていない場合などは、よほど語学に堪能でない限り、ほとんどチェックのしようがない。
しかし、欧米の原書を山ほど読んでいる評論家も実在する。
プロフィール
若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。