第6回W選考委員版「小説でもどうぞ」佳作 家電 静輝陽
第6回結果発表
課 題
家族
※応募数289編
家電
静輝陽
静輝陽
うちの家電はAI内蔵で個々には便利なのだが、仲が悪い。電気を奪い合うものだから、光熱費が家計を圧迫する。強力な磁力を働かせているようで、電気コードのプラグはコンセントから抜くことができず、電源やブレーカースイッチをオフにすることもできない。購入先に相談したら家電訓練士が派遣されてきた。保証期間内で無償サービスだという。
「家電にオテを覚えさせても仕方ないですし、ハウスは初めからできております。まずは、電気のオアズケからですね」
訓練士によると、家電は同一メーカー同士が結託して他メーカー製品を排除しようとするという。そういえば、照明とエアコンはP社製、洗濯機と掃除機はT社製、冷蔵庫と電子レンジはM社製、テレビとステレオはS社製とばらばらだ。同族意識から和の精神に切り替えさせる必要があるそうだ。
「ユーザー様への忠誠心も大切です」
初日はヒヤリングと日程調整で、二日目に訓練士が持参したAIヘルメットをかぶることになった。
「日本製ですからチームワークを学ばせます。このヘルメットは家長帽と言いまして、訓練目標は家族の一員で、家電が家長中心にまとまるのが理想です。それには幾多の試練が必要となります。」ヘルメットが脳に意思を伝えるので、逆らわずに行動して欲しいという。
照明の光の届かないところは、ヘルメットに付いたライトで照らした。エアコンの風の行き渡らないところは、
ある日、妻が米国製のドローンを購入してきた。雨天や日差しの強いときは円形の翼が開いて傘代わりになり、外で暑いときはプロペラを向けて扇風機になり、頭上をついてまわり犬のように甘く吠える。妻はペットのように可愛がり、家電たちから疎まれるようになった。同族意識が消えた代わりに和の精神で結ばれ、今度は嫉妬心が芽生え始めた。ドローン購入先に相談したら別の訓練士が派遣されてきた。
訓練士は私が使っていたヘルメットを改造してドローンにかぶせた。ドローンが家長となり他の家電たちが支配下に置かれることになる。と思ったら……照明の光の届かないところは、ヘルメット付属のライトで照らし、エアコンの風の行き渡らないところは、プロペラであおいで空気を循環させて一定の室温になるようにした。洗濯機に入れる前に、酷い汚れものは前もって水につけてプロペラでかき回して落とし、掃除機が入り込めない場所は、家具の隙間の埃をプロペラの風で吹き出した。冷蔵庫に入れる前に、風で熱を冷まし、電子レンジで温める前に、モーターの熱で少し温めた。テレビやステレオの音を妨げないよう静音に努めた。そして、家族の一員となり、仲間意識が芽生えたようだ。
妻はようやっと免許が取れて、中国製EV車を購入した。スーパーの買い物に利用するスーパーカーとなり、徒歩での移動が減った。その結果、ドローンと車とは犬猿の仲となり、国際紛争に発展する恐れがあった。また、別の訓練士を呼ぶことになる。
訓練士は更に改造を加えたヘルメットを妻にかぶらせた。二輪車運転にヘルメットは一般的だが、四輪車のカーレーサーでもないのに恥ずかしいと言って、妻はダッシュボードに脱いだヘルメットを載せた。
買い物の帰り、妻が運転する車は我が家に突っ込んだ。照明の光の届かないところは、車のライトで照らし、室内エアコンの風の行き渡らないところは、車のエアコンを活用するつもりだったようだ。
妻はシートベルトのおかげで無事だったが、EV車は廃車となった。新しい家族の一員を失ったショックでしょげている。私は家屋の修繕のことで頭が痛い。
妻が「この際、オール電化に改築しましょう」と呑気なことを言いだした。訓練士とヘルメットはもう懲り懲りなのに。
(了)