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長編小説一年計画⑥:長編には長編の文章作法がある

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小説のよしあしはなんといっても筆力で決まる。面白いストーリーを思いついても、文章が悪ければ台なし。ここでは長編の文章の特徴と小説の基本的な知識を学ぶ!

長編と短編では文章の在り方が違う

「木があります。それを書くのが長編小説。木を切ります。切り口を見せるのが短編小説」これは都筑道夫氏の言葉。長編は一本の木全体を書くが、短編は俳句のようにある一瞬を切り取る。当然、長編と短編とでは文章のあり方が違う。短編の文章にはむだがなく、短い言葉で最大の効果が出るように工夫されている。長編でそれをやってもいいが、一文にこだわり抜いて何百枚も書くのは現実的に厳しい。

長い場面も長い説明もいいが、むだは削る

長編小説はどこかゆったりとしたペースで進行することが多く、時にはかなり長い場面があったり、あることについて長々と説明していたりもするが、プロはこれを計算でやっている。なんらかの意図をもってやっている。
書いたあと、むだだと思ったら惜しまず削ること。ガルシア=マルケスも言っている。
「いい作家というのは、何冊本を出したかではなく、原稿を何枚くずかごに捨てたかで決まるんだ」

書きすぎないこと・急ぎすぎないこと

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長編初心者によくある文章上のミスは、書きすぎと急ぎすぎ。
やはり初めて何百枚もの小説を書くとあって、つい長め長めに書いてしまう。設定も詳しすぎるぐらい説明し、描写もしつこいぐらい厚くする。結果、なかなか話が進行せず停滞する。
その一方で、書き進めるうちに疲れ果て、早く終わって解放されたい感満載の文章を書いてしまう。説明説明でどんどんストーリーを進行させ、1行空きの場面転換だらけにしてしまう。
小説の文章には説明文、描写文、会話文があり、物語を進行させているかどうかで見ると、進める文章、止める文章、どちらとも言えない文章の3つがある。
書きすぎたり急ぎすぎたりした文章は、これらのバランスが悪い。特に説明文が多くなりだしたら黄色信号。小説は分量で言えば描写文が圧倒的に多いので、これが多い分にはさほど問題ないが、物語を停滞させる説明ばかりになるか、逆に説明で話を先へ先へと進めたくなったら、いったん書く手を止めて落ち着いた方がいい。

物語を進めているかどうかで見た文章の種類

アクセル

〈十年が経った。〉〈翌日のこと。〉など、物語を先に進める文章。セリフがその役割を担うことも。

ブレーキ

出来事の経緯や背景、人物などについて説明や描写をした文章。場面の中の時間は止まっている。

クリープ

セリフや「と言った」という説明文。物語を少しだけ進めているという意味でクリープ(のろのろ進む) 。

ここで差がつく! プロのセリフ例文集

プロが書いたセリフにはさまざまな技巧が集約されている。
ここでは角田光代の直木賞受賞作『対岸の彼女』を例にセリフの書き方を抜粋して紹介する。

「じゃあお待ちしていますね」女は言って電話を切った。小夜子は慎重に子機を元に戻し、
「やった!」思わず叫んだ。
「何? なんの電話?」修二が訊く。もうテレビに目線を戻している。
「ママー、なんのでんわー?」ごはんだらけの手でフォークを握り、あかりは修二のまねをする。

 

※ここには人物が4人いて、誰が誰に言ったのかわかりにくいため、〈女は言って〉〈修二が訊く〉〈あかりはまねをする〉などセリフの主が説明されている。


「よかったじゃん」一言言ってテレビに顔を戻した。「だけどあかりはどうするの」

 

※「よかったじゃん、だけどあかりはどうするの」と一気に言ったあとにテレビに顔を戻したのではなく、セリフの間に顔を戻したことが示されている。

 

「どうするって、もちろん保育園に預けるけど?」
修二は何も言わず、サラダを取り皿にとっている。
「いろいろ考えたの。保育園なんてかわいそうだって言う人いるけど(後略)」

 

※両方とも小夜子のセリフ。〈修二は何も言わず〉と修二の様子を書いて、次のセリフの主が小夜子とわからせている。

 

「明日、説明を聞きにいくからもっとくわしくわかると思う。あっ、またお義母さんに電話しなきゃ。ねえ、あなたかけてくれない?私あとでかわるから」
テレビを見ていた修二は、「おっ」と低くうなり声をあげた。私が五年ぶりに働くことより、清原の打ったボールの行方が気になるわけねと小夜子は心のなかでつぶやいた。
「ま、なんにしても久しぶりだから、無理しないで」
テレビに顔を向けたまま、修二は思いだしたように言った。

 

※修二にしゃべらせないことで、妻が慟きに出ることへの不安や不満の感情がわかる。〈思いだしたように言った〉ではセリフの間が示されている。

 

そういうんじゃないんですけど……曖昧な笑みで答えながら、小夜子は二階の和室に向かう。

 

※実際には発話しているが、カッコをつけないことで、つぶやくように言ったことがわかる。

 

「あのねえ、これ持って帰って。無農薬のお野菜と、それから小田原の干物をいただいたの、おすそわけしてあげるから」
その重さに思わずうんざりするが、断るわけにもいかない。
「いつもありがとうございます。いただきます。それじゃ、私、これで」

 

※2人で会話しているので、誰が誰に言ったかは明白。よって「と言った」は省略されている。

 

補足

セリフを書くときのポイント:
【間投詞】【省略】【順番】【強弱】【時間】の5つ

【間投詞】
実際には「まあ」「う一ん」と言ったりするが、そこまで発 話どおりに書いてしまうと、文章としてはうるさい。

【省略】
2人の人物が交互に話している分には「誰が誰に言った」かは想像がつく。省略できるものは省略する。かわりに人物の表情や所作・しぐさを入れてもよい。

【順番】
必ずしも人物が交互に話さなくてもいい。ただし、同じ人に連続して発言させる場合は、そのことがわかるように書く。

【強弱】
小声で言ったセリフや重要ではないセリフはカギカッコをつけずに処理する手も。
(例) 歓楽街に入った。シャチョウさん― フィリピン人らしき女性に声をかけられた。

【時間】
間(ま) はセリフだけではわからない。間を表す説明文を入れるなどして時間の経過を表す。

小説作法Q&A

Q:場面は思い浮かぶのにストーリーは思い浮かばない

A:急に情景が浮かぶことがある。そのシーンについてはすでに頭にあるので、情景描写することもセリフを書くこともできる。
しかし、それとストーリーメイクはまったく別の話。ストーリーが動き出すには傾斜が必要。
傾斜とは、人物に欠如したものとそれを回復させようという人物の目的。
この人物は何が欠けて(失って、奪われて)いて、どう回復させたいかを考えれば、自然とストーリーは動き出すはず。

 

※本記事は「公募ガイド2017年11月号」の記事を再掲載したものです。

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