9.19更新 VOL.32 ウィングス小説大賞、パレットノベル大賞 文芸公募百年史


今回は、昭和後期に人気となったショートショートを概観しつつ、昭和63年~平成元年に創設されたウィングス小説大賞、パレットノベル大賞を紹介する。
ショートショートでは阿刀田高が選考委員を務め、パレットノベル大賞では青山美智子が入選している。
昭和後期はショートショート大流行り
昭和後期の文芸公募と言えばショートショートだ。ブームを牽引したのはもちろん星新一。氏は昭和35年(1960年)に直木賞候補となるなど実績があったが、人気となるのはもう少しあとで、過去の作品が次々と文庫化された1970年代だろう。
こうした人気を背景に、昭和54年(1979年)に講談社が「星新一ショートショート・コンテスト」を開催し、第1回応募総数5433編という大成功を収めたことは、この稿のVol.28で紹介したが、ヒット商品が出ると雨後の筍のように二番煎じ、三番煎じが出るのは世の常で、文芸公募の世界でもショートショート募集は定番となっていく。
「掌篇小説大賞」は、主催は角川書店(現KADOKAWA)。母体となっているのは月刊カドカワで、規定枚数は400字詰原稿用紙1~10枚、月例賞は賞金2万円。同賞は毎月受賞者を出しつつ年間賞も選んでいたようで、大賞賞金は10万円だった。選考委員は不明、おそらくは編集部選だろう。「掌篇小説大賞」は昭和58年(1983年)創刊の月刊カドカワの誌上企画であるとともに、年1回発表の公募イベントでもあったようだ。
「阿刀田高のショートショート教室」は、主催は新潮社。母体は小説新潮で、規定枚数は400字詰原稿用紙7枚以内、賞金2万円。こちらは月例コンテストだった。
前出の「星新一ショートショート・コンテスト」は昭和62年(1987年)からは小説現代の一コーナーとなるのだが、昭和60年代初頭、小説新潮と小説現代という競合誌において、星新一と阿刀田高というショートショートの巨匠二人が選考を務めていたのは面白い。
ちなみに、星新一は病気入院のため、平成8年(1996年)で「星新一ショートショート・コンテスト」の選考ができなくなるが、そのあとを引き継いだのは阿刀田高だった。
サマセット・モーム、星新一、阿刀田高
ここでショートショートに関する余談。
ショートショートは、「ショート・ショートストーリー」の略。短編小説のことを「ショートストーリー」と言うが、それよりもっと短いので「ショート」をつけて、「ショート・ショートストーリー」。それがいつのまにか「ストーリー」がとれて「ショート・ショート」、さらに「・」も略されて「ショートショート」となった。
ショートショート誕生のきっかけはアメリカの雑誌「コスモポリタン」。当時の雑誌では前のほうに小説の前半を載せ、続きの後半は雑誌の後ろのほうに掲載した。続きを探すうちに中の広告に目を留めさせようというせこい戦略だったが、こういう読者不在の戦略はだいたいウケない。テレビでもよく「正解はCMのあとで」なんてやっているが、あれと同じだ。
「コスモポリタン」誌ではこの逆を突き、一気に読める短い小説を掲載した。最初に書いたのはサマセット・モームで、これが人気となった。モームには「コスモポリタン」に掲載した短編を集めた『コスモポリタンズ』があり、今は文庫で読める。
余談ながら、アメリカで人気に火がついたショートショートをいち早く日本に紹介したのは都筑道夫だそうだ。え? 都筑道夫さんご存じない? 公募ガイドでも連載してもらっていたし、昔は書店に行くと都筑さんの著作が30冊ぐらい並んでいた記憶がある。相当な人気作家だった。畠中恵の師匠(先生)だ。
ウィング小説大賞、パレットノベル大賞
昭和60年代の文芸公募に戻ろう。
昭和63年(1988年)に、ウィングス小説大賞が創設されている。主催は新書館。漫画誌の月刊ウィングスは昭和57年(1982年)創刊だが、昭和63年に姉妹誌の月刊小説ウィングスが創刊され、同時に小説を募集した。
第1回のときは「ジュブナイル小説またはストーリー中心のSF小説」を募集とあり、規定枚数は200枚以内。賞金は規定の原稿料だった。まだライトノベルという用語は普及していなかった。
募集は年2回で、平成28年(2016年)の第47回で募集を終了するが、募集内容は「魅力的なキャラクターを配した、ストーリー性豊かなエンターテインメント小説。主に女性読者向けで、中高生から読めるような作品」とある。途中で趣旨が女性向け漫画誌に変わったらしい。販売サイクルは平成21年(2009年)の途中から隔月刊となり、規定枚数も途中で変わり250枚以内。賞金は高くなり、途中から50万円になっている。
平成元年(1989年)にはパレットノベル大賞が創設されている。主催は小学館。
パレット文庫は、少女小説系の文庫レーベルで、雑誌「Palette」はその母体となる小説誌。集英社「コバルト」、講談社「ティーンズハート」に対抗して創刊されたと言えばわかりやすいか。第1回のときの規定枚数は60枚~120枚。賞金はどんと高く100万円。年2回募集した。
募集は平成17年(2005年)の第34回まで続くが、このうち、大賞受賞者があったのは、第27回(2002年夏)の神谷よし子「約束の宝石」ただ1回。大賞、佳作とも該当作なしという回が9回もある。そんな中で、第28回(2002年冬)の入選者に目が行く。
佳作
青山美智子「ママにハンド・クラップ!」
2021年~2025年まで5年連続で本屋大賞にランクインしている青山美智子だ。青山さんはこのとき、妊娠中だったそうで、授賞式には出席したものの、出産と育児に追われ、文壇とは離れてしまっていた。出版デビューも果たしていない。
それから15年も経った平成29年(2017年)に、宝島社から『木曜日にはココアを』で単行本デビューをし、その後はポプラ社、PHP研究所、光文社でも出版している。
ということで、Vol.32を終わろう。
2025年は昭和100年。明治時代から始めた「文芸公募百年史」も150年近くを扱ってることになるが、平成時代は文芸公募の世界では黄金時代(ゴールデンエイジ)と言ってもいい時代。これについては次回以降で!
文芸公募百年史バックナンバー
VOL.32 ウィングス小説大賞、パレットノベル大賞、ほか
VOL.31 早稲田文学新人賞、講談社一〇〇〇万円長編小説、ほか
VOL.30 潮賞、コバルト・ノベル大賞、サンリオ・ロマン大賞
VOL.29 海燕新人文学賞、サントリーミステリー大賞、ほか
VOL.28 星新一ショートショート・コンテスト、ほか
VOL.27 集英社1000万円懸賞、ほか
VOL.26 すばる文学賞、ほか、
VOL.25 小説新潮新人賞、ほか、
VOL.24 文藝賞、新潮新人賞、太宰治賞
VOL.23 オール讀物新人賞、小説現代新人賞
VOL.22 江戸川乱歩賞、女流新人賞、群像新人文学賞
VOL.21 中央公論新人賞
VOL.20 文學界新人賞
VOL.19 同人雑誌賞、学生小説コンクール
VOL.18 講談倶楽部賞、オール新人杯
VOL.17 続「サンデー毎日」懸賞小説
VOL.16 「宝石」懸賞小説
VOL.15 「夏目漱石賞」「人間新人小説」
VOL.14 「文藝」「中央公論」「文学報告会」
VOL.13 「改造」懸賞創作
VOL.12 「サンデー毎日」大衆文芸
VOL.11 「文藝春秋」懸賞小説
VOL.10 「時事新報」懸賞短編小説
VOL.09 「新青年」懸賞探偵小説
VOL.08 大朝創刊40周年記念文芸(大正年間の朝日新聞の懸賞小説)
VOL.07 「帝国文学」「太陽」「文章世界」の懸賞小説
VOL.06 「萬朝報」懸賞小説
VOL.05 「文章倶楽部」懸賞小説
VOL.04 「新小説」懸賞小説
VOL.03 大朝1万号記念文芸
VOL.02 大阪朝日創刊25周年記念懸賞長編小説
VOL.01 歴史小説歴史脚本