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文学賞別傾向と対策3:若桜木評 エンターテイメント系文学賞傾向と対策

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エンターテインメント系の文学賞を30 タイトル選び、若桜木虔先生に寸評をお願いしました。
なお、表中のABC の記号は難易度ではなく、プロへの登龍門度を表します。

A:人気作家の登竜門

B:登竜門だがAほどではない

C:有名なプロはあまり出ていない

新潮エンターテイメント大賞:B

選考委員が毎年、交替するうえに、一人の選考委員による選考なので極めて授賞傾向が読みにくい。どちらかというとライトノベルっぽい受賞作が多いので、成人向きとライトノベルの中間路線を狙う人向き。

小説すばる新人賞:A

受賞者から人気作家を輩出しているが、けっこう年度によって受賞作のレベルが乱高下する。傾向として、傑作と駄作が一年おきで、受賞作が駄作だった翌年は「この程度なら書ける」と思うのか、倍率がハネ上がる。

小説現代長編新人賞:?

時代劇ならA、それ以外ならC。時代劇の受賞作は息の長い作家が出ていて、松本清張賞受賞作の時代劇とほぼ同じレベル。授賞傾向も似ている。
松本清張賞を狙って間に合わなかった場合の応募先に最適。

オール読物新人賞:C

受賞しても、単行本を出してもらえない(他の短編賞だと、書き下ろしや雑誌掲載を併せて単行本にしてもらえる)ので、概して受賞作や最終候補作のレベルは高くない。何次予選まで行けるか実力を試したい人向き。

小学館文庫小説賞:A

「文庫」と銘打っているが、受賞作は四六版ハードカバーで刊行される。受賞者の生き残り率も高いし、応募規定枚数も多いから、大長編を書いて世に問いたい実力者向き。
時代劇にレベルの高い受賞作が多い。

角川春樹新人賞:C

あまり脚光を浴びないせいか、予選通過作のレベルを見ると、他の新人賞よりも選考基準がやや甘い。何次予選まで行けるか実力を試したい人向き。
運が良ければ大賞まで届く。
その後は受賞者の営業努力次第。

小説宝石新人賞:C

オール讀物新人賞と同じく、受賞しても単行本を出してもらえないので、概して受賞作や最終候補作のレベルは高くない。何次予選まで行けるか実力を試したい人向き。ただし、オール讀物新人賞よりは雑誌掲載の機会が多い。

ポプラ社小説新人賞:C

歴史が浅いのと、「大賞」でなくなって賞金が減ったので、ハードルは低くなった。その分だけ、受賞者が受賞後に積極的に売り込みに動かないと、文壇に生き残りにくい。ややライトノベルっぽいほうが受賞しやすい。

松本清張新人賞:?

時代劇ならA、それ以外のジャンルならC。横山秀夫を除き、時代劇以外のジャンルでは売れっ子が出ていない。時代劇ならば、直木賞への最短ルートとあって、実績のあるプロ作家も応募してくるから激戦。

野生時代フロンティア文学賞:C

角川春樹小説賞と同じく、あまり脚光を浴びないせいか、予選通過作のレベルを見ると、他の新人賞よりも選考基準が、やや甘い。何次予選まで行けるか実力を試したい人向き。

ダ・ヴィンチ文学賞:B/C

BとCの中間。レベルは、まずまず高いが、あまり脚光を浴びないのが損な新人賞。枚数も短いので、速筆で、書いては片端から応募していくようなアマチュアが狙う応募先としては向いている。

ゴールデン・エレファント賞:?

歴史が浅いので、A かB かC かは、今後を見ないと何とも言えない。第1 回は大賞が2 本だったが、力量にかなりの差があった。授賞する選考側も、基準に迷って試行錯誤しているところかと思われる。

日本ラブストーリー大賞:B

ラブストーリーと銘打ちながら、典型的なラブストーリーには授賞されない。かなり捻りを利かせて、「え? これがラブストーリー?」と思わせるような意外性がないと大賞まで届かない。

城山三郎経済小説大賞:B

経済ミステリー、それも、企業の内幕を克明に描いて、モデル企業がどこなのか、見当がつくくらいに詳しく書かないと、大賞には届かない。ばりばりの企業体験がないと、おそらく1 次選考でハネられる。

日本ノベルファンタジー大賞:?

A とC の真っ二つに割れると言っても良い。感性で取るか、知識(情報量)で取るかで、受賞後の運命が大きく分かれる。綿密に取材したり、細かい史料に当たって研究したりするタイプの受賞者にとってはA。感性タイプにはC。

女による女のためのR-18 文学賞:?

過去の受賞者では宮木あや子だけが突出して上手く、宮木作品のような応募作が書ければA だが、そうでなければC。
宮木以外は感性に頼った受賞作ばかりで、短編賞だけに感性だけでは長続きしないのが原因。

歴史群像大賞:B

あまり大賞が出ないが、優秀賞や佳作でもM 文庫で刊行してもらえるので、そういう点では面倒見が良い新人賞。
時代劇の新人賞では、ライトノベルっぽい。時代考証よりも、時代劇としての迫力にウェートが置かれている。

朝日時代小説大賞:?

A かB かC かは、まだスタートしたばかりなので、何とも言えない。しかし、時代劇の新人賞では最も時代考証に厳しいので、よほど時代考証に自信がなければ、狙っても予選でハネねられる。

創元SF短編賞:C

現在、SF ジャンルは全く売れていないので、選考する側も基準が極めて厳しい。「前例のないアイデア」を出さなければ賞には届かないし、たとえ受賞できても、専業のプロ作家の道は開けない。

横溝正史ミステリ大賞:B

選考委員が交替すると、授賞傾向が大きく変わるので要注意。つまり、歴代の受賞作を通して見ると一貫性に欠ける。
「ミステリーなら何でもあり」で、斬新なアイデアを求めてくるが、それはトリックでなくても構わない。

『このミステリーがすごい!』大賞:A

最終5 本に残れば、ほぼ確実に刊行してもらえるので、実質倍率は百倍前後と、低い。
しかし、授賞に「前例のない新奇のアイデア」を求めてくる点では最右翼。奇抜なくらいアイデアの捻りが必要。

日本ミステリー文学大賞新人賞:B

「ミステリーなら何でもあり」だが、概してハードボイルド系の受賞作に秀作がある。トリックや謎解きにはそれほどの自信がないが、硬派のキャラクターで勝負したい人にとっては狙い目の賞。

ミステリーズ!新人賞:B

前例のないトリックと、登場人物のキャラクターの両方の要素が求められる。短編賞だが、書き下ろしや雑誌掲載を併せて単行本化してもらえるので、両要素に自信がある人にはお勧め。

アガサ・クリスティー賞:?

始まったばかりの賞なのでABC の判定は無理だが、早川書房という版元の特徴から見て、よほど凝った「前例のないトリック」を捻り出さないと大賞に届かないだろう。
また、そういうトリック・メーカーの作家にはコアなファンがつくので、将来的にAかB になる可能性は高い。

江戸川乱歩賞:B

最も有名な新人賞と言えるが、最近、受賞作のレベルが急落している。これは「社会派ミステリー」であって、同時に「目新しいトリック」を求めるので、なかなか応募者が対応しきれないのが原因だろう。

小説推理新人賞:B

「ミステリーズ!新人賞」と、ほぼ同じだが、僅かにレベルが落ちる。しかし、個々の受賞作を見れば「誤差の範囲」に留まるので、これを狙う人は、「ミステリーズ!新人賞」と両方を狙うべし。

鮎川哲也賞:A

最も受賞者の生存率が高い点では、「『このミステリーがすごい!』大賞」と双璧。とにかく、徹底して「新奇の本格トリック」を求める。現実にはほとんどあり得ない不可能トリックほど受賞しやすい。
そういう作品にはコアなファンがつくので、自ずと生存率が高く、候補に留まったのに活躍しているプロ作家が多いのも、そういう理由による。

島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞:A/B

歴史が浅いが、おそらくAとB の中間に落ち着くだろう。島田荘司の単独選考なので、鮎川哲也賞と同じく、前例のない新奇で大掛かりなトリックの創案が求められる。

「幽」怪談文学賞(長編):C

C だが、それは版元が弱体だからで、応募作のレベルは高い。受賞後に、別のビッグ・タイトル新人賞を受賞する書き手が多いことでも、そういう傾向が窺われる。ホラー・ファンタジー的な路線で、ホラー小説大賞と似ている。

日本ホラー小説大賞:A/B

A とB の中間。ホラーといっても、ただ単純に怖がらせるような作品はNG で、怖くないほのぼの系か、怖くても、読んだら泣けるような心を打つ作品が求められる。そういう作品での受賞者は文壇での息が長く、ただ一発アイデアで怖さだけを追求したような作品での受賞者は、長続きせずに文壇から消えている。

 

※本記事は「公募ガイド2012年5月号」の記事を再掲載したものです。