あなたとよむ短歌 vol.53 テーマ詠「動物園・水族館」結果発表 ~公募に応募するときは~(1/3)
テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「動物園・水族館」結果発表
~公募に応募するときは~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「動物園・水族館」の結果発表です。
場所の印象が強いだけに、たとえば「動物や魚の不自由さ」「動物や魚も人間側を見ている」「動物や魚よりも恋人の方を見てしまう」など、他のテーマよりも内容的に似ている作品が多く寄せられました。
内容が重なってしまう可能性はどんなテーマの場合にもあります。恐れすぎることはありませんが、自分なりの表現、切り込み方を意識するといいかもしれません。
今回は、投稿者の方からよせられた質問もご紹介しています。ぜひ入賞作品とあわせてお読みください。
全部あなたに似てると思う
恋人とのデートを詠んだ作品はたくさんありました。また、動物が誰かに似ているという内容のものも多くありました。仲川さんのこちらの一首もそうした内容ですが、私は際立って面白く読みました。なぜでしょうか?
ライオン、カバ、うさぎ、ペンギン、どれもまったく異なる動物です。哺乳類というだけで、体のサイズも体毛も生活環境も、似ても似つかないでしょう。けれども、動物園のどの動物を見ても「全部あなたに似てる」と思う。なにを見ても「あなた」を想起してしまうほど「あなた」のことが大好きなんでしょうね。
このように、テーマそのものを説明したり解釈したりするのではなく、テーマを通じて何か(この場合は感情への気づき)を描くと、テーマ詠にオリジナリティと面白さが生まれるような気がします。あたたかな気持ちが流れ込んでくるような作品でした。
続いて、優秀賞2首です。
笑いころげた日もあったのに
動物が微動だにしない、という内容の短歌の投稿もかなり多くありました。把手さんの一首は、過去の思い出を詠んでいるのが特徴的です。「ペンギンがちっとも動かないだけで笑いころげ」までは現在のことを語っているように読み手側に思わせつつ、「た日もあったのに」で急に過去の事象だと判明します。
動かないペンギンにお腹を抱えて笑いころげる作中主体(作品のなかの視点になっている人物)。友だちと笑いころげているのでしょうか。ペンギンの「静」と笑っている主体の「動」の対比に、こちらも微笑んでしまいます。しかし、実はそれは過去のものであり、さらに「あったのに」と後悔やさみしさをにじませています。どんな理由かわかりませんが、今はもう、笑いころげるようなことないのでしょう。できることなら何歳になっても笑いころげたいものです。
濡れているように見えたら秋のはじまり
動物たちが「濡れているように見えたら秋のはじまり」というのは、不思議な説得力がありますね。陽がだんだんと傾いてきて、夕暮れの閉園どきに動物の体毛が輝くのかもしれません。
そういった現象が実際にあるのかどうかは別として、この作者、あるいは作中主体にとっては、明確に「秋のはじまり」を感じるものだと伝わってきます。パンダとオラウータンという例もいいですよね。
本来であれば同じ地域に住まわない彼らですが、なんやかんやあり同じ動物園で、同時に秋を感じているのでしょう。
短歌は「正しいこと」を描写しないといけないわけではありません。ただ、自分にとっての本当を描こうとすると、その人物の生活感や息づかいまで伝わりそうです。