ネーミング・ キャッチフレーズ 入選に導く:その道のプロに聞く!佐々木圭一さん


根性で100案持っていくが、すべてボツ。紙をむだに使う「もっともエコでないコピーライター」というあだ名がつきました。
――元々はコミュニケーションが苦手だったとか。なぜ広告代理店に就職されたのでしょう。
人と話すのがずっと苦手で、大学も理系に進み、ロボットの勉強をしていたんです。でも就活のとき、将来を考えたら、ずっとロボットと話し続けるより、人と話せるようになりたいと強く思ったんです。そこで憧れもあって広告代理店を受けたんですが、なぜかコピーライターに配属されてしまって。
――そこではどんな仕事を?
雑誌広告コピーや駅のポスターのキャッチコピーを作っていました。
毎日3つ、4つある打ち合わせに根性で100案持っていくんですが、すべてボツ。それが何か月も続いて。紙をむだに使う「もっともエコでないコピーライター」というあだ名がつきました。ストレスから1年で10㎏太りました(笑)。
――それを乗り越えるために何か努力をされましたか。
映画、小説、日常会話などの、世の中にあるいい言葉をノートに書いていました。あるとき、それを見ていたら、ブルース・リーの名ゼリフ「考えるな、感じろ」と『踊る大捜査線』の「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!!」は似ているなと思った。「考える」に対して「感じる」、「会議室」に対して「現場」、正反対のことを入れると言葉が強くなる。何か法則性があると気づいたんです。人生が変わった瞬間でした。
キャッチフレーズを作るには、強い言葉を作る技術のうちの「ギャップ法」「サプライズ法」「リピート法」が有効です。
――以降、その法則をどう確立したのですか?
それから世の中のいい言葉を探しながら法則性を導き出し、それに沿って考えるようにしました。すると、どんどんコピーが採用されるようになり、賞をいただいたり、郷ひろみやケミストリーの作詞の依頼がきたり。まさに人生が激変しました。それまでコピーというものは、センスのある限られた人がひらめきで作るものだと思っていた。でも料理のようにレシピがあって、そのとおりに作ればいい言葉が作れるとわかったんです。
――その法則をまとめたのが『伝え方が9割』ですね。キャッチフレーズに役立つ法則はありますか。
3つご紹介したいです。1つ目は「ギャップ法」です。まず伝えたい言葉を決めて、次に反対の言葉を前につけて、前後がつながるようにする。これにより、もともと伝えたかった言葉が強い言葉になる。田村亮子さんの「最高で金、最低でも金」や、アサヒスーパードライの「コクがあるのにキレがある」がギャップ法。「美女と野獣」もそうですね。
――言われてみればそうですね。2つ目はなんでしょうか。
「サプライズ法」です。これは驚いたとき発する「あ」「わっ」「え!?」といった言葉を手前につける技術です。たとえば、「そうだ 京都、行こう。」という名コピー。これに「そうだ」というサプライズワードがなかったら、単に「京都に行こう」というストレートな言葉でしかない。「あ、小林製薬」や「お、ねだん以上。ニトリ」などもそうです。10 秒でできます。
――最後の技術はなんでしょうか。
3つ目も簡単な技術です。「リピート法」といって単に言葉を続けるだけです。流行語大賞の多くはこのリピート法を使っていて、「ダメよ〜ダメダメ」や「じぇじぇじぇ」がそう。繰り返すことで記憶に残る。
『崖の上のポニョ』や『となりのトトロ』など、ジブリ作品の曲もリピートが多い。だから大人も子どもも口ずさみたくなる。
ネーミングには、数字で説得力を持たせる「ナンバー法」と、違う言葉を組み合わせる「合体法」が適しています
――ネーミングに使える技術も紹介していただけますか。
2つご紹介します。最初は「ナンバー法」。数字を入れることでより説得力を出す技術です。まず伝えたい言葉を決めて、それに適した数字に置き換えます。「伝え方が大切」という内容なら、『伝え方が9割』とする。スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』も、「成功の習慣」だったら、あそこまで売れたかわかりません。『101匹わんちゃん』も、「たくさんのわんちゃん」では誰も見たいとは思わないですよね。
――確かに、数字が付いていると目が惹きつけられます。
もう1つが「合体法」で、ヒット商品や流行を作ることができる技術です。まず軸となる言葉を決め、それと違う別の言葉を出していき、組み合わせます。たとえば、「消極的な男子」を表す言葉を作りたい場合、「消極的な」を別の言葉にしてみる。
「控えめ」「ソフト」「草食」とかいろいろ書いた中で、一番インパクトのあるものを組み合わせると、「草食男子」というような言葉が作れるわけです。「こども店長」や「ゆるキャラ」などもそうです。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
伝え方のレシピをもっと世の中に広めたいですね。日本人は伝えるのが苦手でとても損している。
でもその技術は誰だって学べるので、若いうちから知ってもらうと、恋愛や就職も上手くいくかもしれないし、就職後も変わる。僕の人生が変わったように、この法則でみんなの人生をハッピーにしてほしいです。
佐々木圭一(ささき・けいいち)
1972年神奈川県出身。上智大学卒業、同大学院修了後、博報堂入社。コピーライターとしてカンヌ広告祭金賞をはじめ数々の広告賞を受賞。13年退社後、株式会社ウゴカスを設立。講演会やテレビ出演など幅広く活躍中。
※本記事は「公募ガイド2015年11月号」の記事を再掲載したものです。