第12回ゲスト選考委員は直木賞作家の河﨑秋子さん。
作家デビュー10年の河﨑さんにその足跡と、
作家としてのゴールをどう描いているかなどについて伺った。
季刊公募ガイドの巻頭インタビューのロングバージョンです!
落選作「熊爪譚」は、
直木賞受賞作「ともぐい」の元
―― 元羊飼いという職業はすごくインパクトがあります。
大学教授の庭で開かれたガーデンパーティーで国産の羊肉を食べたのがきっかけでした。
―― 羊と羊飼いに憧れる“羊病”にかかったわけですが、それでニュージーランドまで修業に行ってしまう行動力がすごいですね。
自分が動いたというより、縁が動いたということですね。たまたま知り合いができ、人がつないでくれたおかげです。
―― 公募ガイドでは文学賞以外にも応募されましたか。
文学賞の情報源として活用していました。学生時代に文学賞に一、二度応募しましたが、まったくひっかからず。
―― その後、2010年に北海道新聞文学賞に応募されます。応募規定は50 枚~150 枚でしたが、この枚数は苦もなく書けましたか。
学生時代に小説を書いて以来、かなり久々に筆を執りました。でき上がったのは70 枚か80 枚ぐらいだったと思いますが、あまり長いのを書いたことがありませんでしたので、大変な思いをした記憶があります。
―― この「熊爪譚」は直木賞受賞作『ともぐい』の元になります。元と言っても枚数が違いますし、かなりブラッシュアップさせた感じですね。
最初と最後と登場人物とテーマは同じですが、人数が増えたり、エピソードを増やしたりという形になりますね。
―― ストックになったわけですね。
応募しても箸にも棒にもかからなかった作品はありますが、プロになってから見ると、それなりの理由があってよいものにはなれなかったということがわかります。そういった意味ではだめな作品も、今から思えば貴重な財産だったと思いますね。
―― 一貫してその野生動物と北海道をテーマにされている印象がありますが、それは羊飼いの経験の中から出てきたものが多いのでしょうか。
基本的に書きたいものと書けるものの両方が合わさったものを書かせてもらうことが多いので、基本的なベースはやっぱり自分の経験したことや自分がかつて立っていた立場から見えていたものということが多いですね。
―― 題材が決まったあと、どれくらい調べるものですか。
もともと知っている分野の場合は多少の肉付けで済みますが、全く知らない業界の話だとかなり調べなければいけません。今だと担当編集さんが資料を探してくれたり、または国会図書館などでデータを引き出してくれたりします。
―― 1カ月とか期間を決めて資料を読み込んだりするのですか。
何本も並行して連載をしていますので、それは難しいですね。一次資料を読み込んで、その間にほかの仕事もこなして、筆を進めながら足りない部分を探して肉付けし、さらにその周辺の情報を探してといった調べ方をしています。
三浦綾子文学賞を受賞し、
晴れて作家デビュー
―― 北海道新聞文学賞に落選したときの心境を、〈父の回復も、家の維持も、私の羊の将来も、何一つ諦めてなどやるものか〉と書かれています。ハートが強いですね。
しつこいんですね。しつこさは大事ですよ。
―― それは生まれ持ったもの?
負けてなるもんか的など根性というか、負けず嫌いというところはあるかもしれません。
―― その結果、翌年には佳作に入ります。
受賞パーティーで「山に登ることを許されたような気がします」と言うと、先輩作家の方に「まだあなた1合目までも登れてないからね!」と言われ、やっぱりこれは終わりでないのだ、もっとよい小説を書きたい、という思いが膨らみました。
―― そのあと、三浦綾子文学賞を受賞されます。
2015年に受賞作『颶風の王』をKADOKAWAから出版していただいたことで、いろいろな出版社さんから連載のお声がけいただくようになりました。農業をやりながら連載するのはかなりきつかったですが、2019年に専業となってからは刊行のペースも上がりました。
――『鯨の岬』だけが文庫書き下ろしですね。
これは北海道新聞文学賞の受賞作に、表題作の『鯨の岬』を書き下ろして文庫化したものです。
―― 新刊エッセイ『私の最後の羊が死んだ』の中に、〈小説というのは(中略)文章力と同等に『人の心に届ける』ための技術が必要になる。〉とあります。
思いついただけの文章を自分の思うままに書いているというのは、自己表現や創作の分野になるんですが、その心のありようから小説という形に変えさせるのは、学問の分野だと思うんですよね。それを人に読ませて楽しませるという受け取りやすい形にする。プロットや表現、登場人物の造形は芸事、文芸だと思うんです。という分け方を自分の中ではしています。どちらが欠けても小説は成り立ちません。
頂上に立ったことで、
見えなかった山が見えてくる
―― デビューされて10 年近く経ちますが、プロになってからも成長している実感はあるものですか。
ちょっとずつぐらいしかありませんが、それでも足を動かし続けないとと思っています。劣化だけは絶対にしたくない。なんらかの進歩は心がけたいと思いますね。これでいいやっていうふうになると必ず後退してしまいます。
―― 作家としての最終的なゴールはどう描いていますか。
作家になるという山は頂上まで行けましたが、頂上に立ったことで1合目にいたときにはまだ見えていなかったもっと高い山がどんどん見えてくるようにはなりました。そこにはもう挑んで登るしかありませんが、そうなるとデスゾーンに近づいていくみたいな感覚にはなるでしょうから、覚悟して書いていきたいですね。
―― 直木賞を受賞されて、売れたという実感はありましたか。
単純に発行部数や初版部数が増え、1パック38円のもやしを買っているときにお声がけいただくことも含め、いろんな人に知ってもらえたなという実感はあります。ただ、それと同時に妙に背筋が伸びるというか、ものを書く限り、過去作よりはどんどんいいものを書かなければいけないわけですから、いい意味で緊張していかなければと思っています。
―― 今回は高橋源一郎さんと選考していただきます。
実家で酪農をやっていたときに、牛の世話をしながら、高橋源一郎さんのラジオを聴いていました。
―― 原稿用紙5枚という長さはどう思われますか。
小説としての技能というか、それこそ人に見られることを前提にして書いていかないと形として成立しないでしょうから、そういった技術を持つ方を見つけるにはいいかもしれませんね。
―― 応募される方に、最後に一言お願いします。
書きたいと思うようなネタがあって、なおかつ人に伝えるために努力を欠かさない人の書いた文章というのは、必ず光るものがあると思います。ご応募をお待ちしています。
応募要項
課 題
■第12回 [ 贈り物 ]
この課題、まだだったんですね。ちなみに、この文章を書いているのは12月で、当然、1年で最大の「贈り物」の季節。もちろん、ほかにもいろんな「贈り物」がありますよね。もらって嬉しいもの、嬉しくないもの……。(高橋源一郎)
締 切
■第12回 [ 贈り物 ]
2025/2/9(必着)
規定枚数
A4判400字詰換算5枚厳守。ワープロ原稿可。
用紙は横使い、文字は縦書き。応募点数3編以内。
応募方法
郵送の場合は、原稿のほか、コピー1部を同封。作品には表紙をつけ(枚数外)、タイトル、氏名を明記。別紙に〒住所、氏名(ペンネームの場合は本名も)、電話番号、メールアドレスを明記し、原稿と一緒にホッチキスで右上を綴じる。ノンブル(ページ番号)をふること。コピー原稿には別紙は不要。作品は折らないこと。作品の返却は不可。
※WEB応募の場合も作品には表紙をつけ、タイトルと氏名(ペンネームの場合はペンネームのみ)を記入すること。
応募条件
未発表オリジナル作品とし、入賞作品の著作権は公募ガイド社に帰属。
応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
発 表
第12回・2025/4/9、季刊公募ガイド春号誌上
賞
最優秀賞1編=Amazonギフト券1万円分
佳作7編=記念品
選外佳作=WEB掲載
応募先
● WEB応募
応募フォームから応募。
● 郵送で応募
〒105-8475(住所不要) 公募ガイド編集部
「第12回W選考委員版」係
お問い合わせ先
ten@koubo.co.jp
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受講料 5,500円
https://school.koubo.co.jp/news/information/entry-8069/