第40回「小説でもどうぞ」選外佳作 泣いた宇宙人 がみの
第40回結果発表
課 題
演技
※応募数317編
選外佳作
泣いた宇宙人 がみの
泣いた宇宙人 がみの
宇宙人アルは、地球の文化が大好きだった。人間たちの趣味嗜好すべてがアルのお気に入りだった。特に日本の女性アイドルが。
いつもそういう話をして、他の星から来ているメガに笑われていた。
「できれば地球人の中で一緒に暮らしたい。地球人と友だちになって、一緒にアイドルのコンサートに行きたい」
「やらずに後悔するよりやって後悔した方がいい、って地球人の言葉にあるだろう。やってみろよ」
「やってはみたんだよ」
アルはそう言って、過去の出来事のいくつかを話す。地球人たちにどれだけ驚かれたかということを。
「地球人を勝手にさらってきたりしたんだろ。そんな過激なことするからいけないんだよ。なんでもっとソフトな接触から始めないんだ?」
ソフトな接触って、いったいどんな行動だ? アルにはわからなかった。
「日本の童話に『泣いた赤鬼』という話があるが、知っているか」
メガの言葉にアルはうなずく。
「人間と友だちになりたかった鬼の話だな。まさに、俺のようだ」
アルはモニターに映る自分の姿を見つめる。自分の星では一般的な姿形だが、地球人の目からすれば醜悪であることを知っていた。この姿さえなんとか人間に近づければ、あるいは、猫や犬といった愛玩動物に似ていればまだなんとかなるのにと思う。
「地球人はまず見た目で相手を判断するが、その内実を知れば見た目を気にしなくなる」
メガが話を続ける。
「俺が青鬼の役をやってやるよ。そしておまえが赤鬼の役をやるんだ。地球人を救えばおまえも赤鬼同様、地球人に受け入れてもらえるはずだ」
アルはなるほどと思った。喜んで、メガと打ち合わせをする。簡単に段取りを決め、二人でまずリハーサルをしてみた。
「悪い宇宙人め、このアルが成敗してくれる」
アルが大見得を切ったが、メガが芝居を中断する。
「大げさ。もっと普通の言葉で言って。顔つきはもっと大げさにしてもいい。地球人には俺たちの表情が良くわからないだろうから」
そうやって何度もリハーサルを繰り返し、ようやくメガのOKが出た。
二人は早速、東京にそれぞれの円盤型宇宙船を飛ばす。どちらの宇宙船もほぼ似たり寄ったりだったので、悪役メガの宇宙船は青色、アルの宇宙船は赤色に設定した。
まずは青色宇宙船が新宿の上空に出現する。
人々はいっせいに空を見上げ、うろたえる。メガは、空にホログラム映像で姿を現し、こう宣言する。
「これからこの星を
そう言って、青いビームが地上に発射され、多くの建物が破壊される。しばらくして自衛隊の戦闘機が登場するが、攻撃する間もなく、ビームで撃ち落とされる。
「おいおい、やりすぎじゃないか」
アルが通信機で抗議するが、メガは頓着しない。
「本気でやらないと信じてもらえないだろう」
それはそうだが、地球を破壊してしまっては地球人と友だちになっても意味がない。
アルは即座に赤色の宇宙船を新宿上空に出現させる。そして、やはりホログラムで自分の姿を現し、反撃の宣言をする。
「青色宇宙人め、このアルがいる限り、おまえの好きにはさせない」
やはり芝居がかっているなと、メガは頭を抱えるが仕方ない。ホログラム映像でやいのやいのやり合って、青が悪、赤が善の宇宙人ということを印象づける。それから派手なビーム合戦を繰り広げて、日本上空を飛び回り、さらには、アメリカやらヨーロッパやらまで戦域を拡大する。ただし、互いに相手の宇宙船には当てない。たまにメガが人のいない山などに当てて派手な爆発を演出する。
最後は日本に戻り、TV各社が実況中継している中、海上で、赤色宇宙船が発射した赤色ビームが青色宇宙船に当たり、大爆発する。体に見せて、ワープする。
地上に降りた赤色宇宙船から出てきたアルはTVの前で「このアルがいる限り、地球に手出しはさせない」と大見得を切った。
アルはマスコミに取材されたが、その醜悪さに映像を控えるメディアが多かった。TVでもネット界隈でも人々の関心は青色宇宙人のメガに集中した。
「あの宇宙人はどの星から来たのですか。どんな種族なのですか」
メガの容姿が地球人から見ると、超絶かっこいいとのことだった。アルは泣きながらメガに通信する。
「地球人は、やっぱり見た目にこだわるじゃないか」
(了)