第39回「小説でもどうぞ」落選供養作品
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編集部選!
第39回落選供養作品
第39回落選供養作品
Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第39回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。
そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!
今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。
【編集部より】
今回はみぞれさんの作品を選ばせていただきました!
自宅にあるものが徐々に消えている……?! 犯人は息子だと分かったものの、注意をしても息子は品々を隠すことをやめない。
ある夜、泣きじゃくる息子の話を聞いてみると、これまでの謎がすっかり解けました。不安から一転、オチにほっこりするお話です。
惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。
また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。
課 題
眠り
みぞれ
最近、家から細々とした物がなくなっている。「ママ、買って」と小学一年生の息子の誠に必死に主張されて買ったチョコレートが、いつの間にか、なくなっている。昨日まで、チョコレートは家の中に存在した。誰が食べたのだろう。
買い物リストを作りながら、近頃の怪奇現象を再度確認した。食品ばかりではない。ブランケットやクッションなども消えている。
金目の物でもない品々が少しずつ減っていく現象は、気味が悪い。残暑が続いているにも拘らず、秋を通り越して冬が訪れたように、周囲の空気が冷たく感じた。
「ママ、ただいま。テディ、ただいま!」
玄関の扉が開くと、学校から誠が帰って来た。靴を脱ぎ散らかすと、ランドセルを背負ったまま、子供部屋に飛び込んでいった。子供部屋を覗き込むと、誠は、熊の抱き枕のテディに抱き付いていた。
テディに頬ずりする誠は可愛らしい。だが、何度注意しても、靴を揃える癖は身に付かない。溜息交じりに、誠に語り掛けた。
「誠、靴が散らかっているよ。良い子にしないと、サンタさんは来てくれないよ」
「サンタさんは、絶対に僕に会いに来てくれるもん!」
言葉とは裏腹に、慌てて玄関に駆け戻って行く誠を見て、サンタさんという単語は心強いと思った。買い物リストを再び見て、玄関に向かって声を張り上げた。
「誠、チョコレートを食べた?」
「僕は食べていないよ」
何故か、悲し気な誠の声が、小さく聞こえてきた。
次の日、掃除をしていると、悲鳴が漏れた。子供部屋のクローゼットから、消えた品々が発見された。クローゼットの奥には、クッションの上にブランケットが置かれていた。
ブランケットを持ち上げてみると、お菓子が出て来た。お菓子の中には、チョコレートもあった。
「ただいま」と言う元気な声が聞こえた。またもや玄関で靴を脱ぎ散らかしている誠を捕まえると、キッチンテーブルに座らせた。
「誠、家の中の物だからと言って、勝手に持ち出したり、隠したら駄目でしょう?」
「だって眠れないんだもん!」
誠は体を小さくしながらも、大声を上げた。頬を紅潮させて叫ぶ誠が、急に心配になった。
「最近、夜眠れていないの?」
「昨日、夢の中でテディが喋ったんだ。テディの声はカッコいいんだよ!」
何を言いたいのか、よく分からない。涙目になる誠を諭して、クローゼットの奥から品々を回収した。
秋服に袖を通すようになっても、家から品々が消える現象は止まらなかった。誠は、あらゆる所に、あらゆる物を隠し始めた。
ベッドの下に品々を隠し、バレると、机の下に品々を隠すようになった。将来、誠がコンビニで万引きをするのではないかと、日々不安が募っていった。
秋が過ぎ去り、大雪が降った。玄関で「ただいま」と叫んだ途端、「行ってきます」と告げると、誠は雪だるまを作りに出掛けた。玄関にはランドセルのみが残された。楽しいひと時を過ごして来ただろうに、帰って来た誠は、泣く寸前の顔をしていた。
深夜、眠っていると、ドアが開く音がした。夫婦の寝室の入口を寝ぼけ眼で見ると、誠が泣きじゃくっていた。
慌てて駆け寄ると、異変に気付いた。誠がテディを抱き締めていない。
「誠、眠れないの? テディはどうしたの?」
「だって、雪が降ったから、テディは眠ったんだもん。でも、テディがいないと、眠れないよ」
大粒の涙を流す誠を子供部屋に連れて行った。ベッドの上に横にならせても、泣き声は止まらなかった。
ふと視界の隅が気になった。クローゼットが僅かに開いていた。
クローゼットを開くと、テディがクッションの上に寝転がっていた。テディはブランケットを掛けられていて、周りにはお菓子やパンが積まれていた。誠のお気に入りの玩具や絵本まで置かれていた。
次の瞬間、誠に向かって怒鳴り付けていた。
「誠、何で、テディがクローゼットの中にいるの? それに、家の中の物を隠したら駄目だって、言ったでしょう!」
「だって眠れないんだもん!」
「テディを抱き締めていたら、眠れるでしょう?」
「テディが眠れないんだもん!」
誠はベッドから飛び起きると、クローゼットを閉めようとした。テディをクローゼットの中に閉じ込めた誠を見て、疑問符が頭の中に浮かんだ。
「これまで、テディは誠と一緒に眠っていたでしょう?」
「学校で教わったんだ。熊は冬眠するって。テディがいないと眠れないけど、テディが眠れないと、可哀そうだもん」
クローゼットを再び開いた。クッションの上に寝転び、ブランケットを被っているテディは、まるで熟睡しているように見える。食料に囲まれ、玩具や絵本に恵まれたテディは、快適な冬を過ごせそうだ。
再び泣きじゃくり始めた誠を抱き締めながら、言葉を捻り出そうとした。
「テディはね、誠と一緒にベッドの上で眠れるのよ。それは、えっと」
テディは本物の熊ではないからとは言い辛く、誠の背中を摩り続けた。
(了)