シナリオ創作術②プロットを作ろう!


プロットは物語の地図でもある。物語という森に踏み入るには地図が必要になる。簡単でもアウトラインは描いておこう。
三幕構成で設計図を作ろう
プロットは完成図が見えるように
企画が決まったら、今度はそれをプロットにする。
小説の場合はいきなり書き出す人もいるが、映画やドラマはプロデューサーや制作会社に提案するにしても説明するにしてもプロットが必要となり、プロットのよしあしで企画の採否が決まったりするので、シナリオを書くのなら避けて通れない。
プロットはA4用紙に1枚ということもあれば、全シーンを箇条書きにして書き出す場合もあるが、完成図が見えることが前提。
プロットはあらすじと似ているが、筋だけでなく、話の運びもわかる物語の設計図として書こう。
目的を設定し、実現をじゃまする
物語を作るときは、まず主人公の物語上の目的を設定しよう。「謎を解く」「巻き込まれた状況から抜け出す」「本来あるべき自分になる」といった目的を設定し、その結果、どうなったかを考えれば、それが物語構造になる。
目的を決めたら、今度はそれが実現できないように主人公を追い込む。たとえば、目的の実現を阻む敵対者がいたり、実現に向かえない問題を設定したりする。
これらを箇条書きにしたのが下記の「プロット準備シート」。主人公の性格や問題、敵対者、協力者を書き出せば、プロットの原形はできたも同然だ
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で解説 三幕構成法
第一幕
● マーティーは学校に遅刻、教頭、怒る。放課後、バンドオーディションに落選。
● 恋人ジェニファーとの帰り道、落雷で壊れた時計台修理のビラを渡される。
● 家。恋人とキャンプに乗っていく四駆が破損。父の上司のビフが事故で壊した。
● 夕食の席、母はパーティーで父とキスをし、それで結ばれたとなれそめを語る。
● 深夜、マーティーはドクと駐車場で会う。愛車デロリアンを改造したタイムマシンが
ある。燃料は過激派から騙しとったプルトニウム。
● そこに過激派が襲来、ドクは撃たれる。マーティーはデロリアンに乗って逃げ、140
キロに達したとき、目の前の光景が変わり、どこかの納屋に突っ込む。
セットアップ
どんな話か明らかにする。上記だと学校と家庭の様子を見せた場面。第一幕の冒頭部分。
カタリスト
きっかけの事件。上記だとドクに呼び出され、デロリアンに乗る場面。なるべく早く提示。
ファーストクエスチョン
「未来に戻れるのか」など、主人公の目的を疑問形で示す。カタリストを通じて示す。
第1ターニングポイント
第一幕の設定が破れ、状況が変わる。右記だと、誤って30年前にタイムスリップしてしまう事件がそう。全体の1/4の時点で起きる。
第二幕
● まわりは畑で住宅街もない。新聞を見ると1955年。レストランに若き父ジョージがいて、そこに若きビフが来る。ここでも父はビフにこき使われている。
● ジョージは木に登り、覗きをする。木から落ち、車にはねられそうになるが、マーティーが突き飛ばして難を逃れる。代わりにマーティーがひかれてしまう。
● 目を覚ますと若き母ロレインがいる。母親に一目惚れされてしまう。
● ドクの家。マーティーが「未来から来た」ことを話し、信じてもらう。
● マーティーはデロリアンを動かすには1.25ジゴワットの動力が必要と。そんな電流を作れるのは稲妻だけで、落雷は予測できないとドク。マーティーは時計台修理のビラを見せ、これで未来に帰れると言う。
● ドクは、マーティーが両親の出会いをじゃましてしまった、未来に影響が出ると言う。マーティーが写真を取り出すと、家族の体が消え始めている。
● マーティーはジョージにロレインを誘うように促すが、ジョージはできないと言う。ジョージがSF好きなのを逆手にとり、深夜、防護服を着てジョージの前に現れ、自分は宇宙人だと告げ、ロレインをパーティーに誘わないと脳を溶かすと脅す。
● ドクは時計台にケーブルをつなぎ、電柱まで引っ張り、落雷の瞬間、この下を時速140キロで走り抜ければ未来に帰れると言い、その準備を始める。
ミッドポイント
結末に向かうきっかけとなる出来事が起きる。上記だと落雷で1.25ジゴワットの動力が得られると気づく場面。全体の折り返し点。
第三幕
● マーティーは、「ロレインを誘惑、それをジョージが助ける」という筋書きを考える。
● ビフが現れ、マーティーを車外に放り出し、ロレインに迫る。それを知らずにジョー
ジはビフに文句を言い、にらまれるが、渾身の力を込めてビフを殴る。
● ケガしたバンドマンに代わり、マーティーが演奏。ロレインとジョージはキス。
● 時計台前。ケーブルが外れたりエンジンがかからないなどのトラブルはあるが、晴れてマーティーは未来に帰る。すぐに駐車場にいるドクのもとに行く。
● 過激派に撃たれるとマーティーから知らされていたドクは防弾衣を着ていて無事。帰宅すると父親はSF作家、四駆も無事で、冴えない一家はすっかり変わっている。
第2ターニングポイント
主人公の目的が実現する方向に動く出来事が起きる。上記だと、時計台とケーブルをつなぐ場面がそう。全体の3/4の時点で起きる。
クライマックス
ファーストクエスチョンが解決し、主人公の目的が実現する。また、冒頭で提示された主人公の問題が解決するなどサプライズがある。
対立と葛藤
『 バック・トゥ・ザ・フューチャー』の対立構造は、主人公マーティーと敵対者ビフ。敵対者は強いほうが盛り上がり、劇中、ビフは大男でボス的存在。これをスケートボードなどを駆使して撃退するところが痛快。
葛藤については人間ドラマでないのであまりないが、若き母親に好きになられ、母親と父親がなかなか結ばれないというもどかしさや、30年後の未来でドクが過激派に撃たれることを手紙で知らせるが、「未来に影響が出る」と手紙を破られてしまうなど、思い通りにいかないところが葛藤に近い。
対立と葛藤は面白くするために必須。
サブプロット
サブプロットはメインプロットを補完するもので、長編には必須。『 バック・トゥ・ザ・フューチャー』で言うと、メインプロットは「未来に帰れるか」で、サブプロットは「母親と父親は結ばれるか」と、「ジェニファーとキャンプに行けるか」。
サブプロットの前者は、サブキャラクターのメインプロットでもある。この結末はクライマックス前に来る(両親が結ばれてから未来に帰る)。
後者は主人公の別の一面を描いた、主人公のサブプロット。この結末はクライマックス後に来る(未来に戻ってから、四駆でキャンプに行く)。
換骨奪胎法とは?
換骨奪胎とは、物語の骨格だけを抜き出し、そこに別の設定を代入すること(既存の作品を応用して新たに物語を創作すること)を言う。
ポイントは、「上司にへつらう父親のいる家に生まれた主人公がタイムスリップし、両親を結びつけて帰ってきたら、父親はSF作家になっていた」というあらすじを抽象化すること。
たとえば、「冴えない家に生まれた主人公がどこかに行き、戻れない問題を解決して戻ってきたら、当初の問題も解決していた」など。
人間は皆、同じ骨格を持っているが、見た目も性格も人それぞれであるように、物語の骨格がそっくりでも、設定や人物が違えばまったく違う物語を作れる。これは創作の基本だ。
※本記事は2019年9月号に掲載した記事を再掲載したものです。