シナリオ創作術⑥素敵なドラマを書き、世の中に伝えたい!


藤平久子さんインタビュー
持ち込みでデビュー以降、仕事がなくても書き続け、今ではドラマや映画、舞台と幅広く活躍する藤平久子さん。戦隊もの、お仕事もの、恋愛ものまで多様に手がける、その創作の秘訣をお聞きした。
24歳でデビューしかし、その後は鳴かず飛ばず!
——いつ頃から脚本家を目指したのですか。
映画が好きだし、友達でも作ろうかなという軽い気持ちでシナリオ・センターという学校に入りました。そうしたら書くのが楽しくなって、絶対に仕事にしたい!と思うようになりました。
——公募には挑戦しましたか。
フジテレビ ヤングシナリオ大賞や、当時あった日本テレビシナリオ登龍門に応募しましたが、1次止まりでした。そこで制作会社などに持ち込みをしました。
——どうやったら採用につながるのでしょうか。
企画を面白いと思ってもらえるかが大事です。私の場合、何度も来る熱心な人がいるなという感じで覚えてもらって(笑)。24歳のとき、金曜エンタテイメントの2時間ドラマの脚本に抜擢していただきました。
——24歳でデビューできるなんて、早いですね。書くとき、気をつけたことは?
2時間ものは視聴者を飽きさせたらだめなので、次から次へと事件を起こしました。
——どのくらいの期間で書いて放送されたのですか。
書くのに半年くらいかかりました。それから撮影期間が半年あって、2時間もののドラマはストックがあるので、放送まではかなり待たされました。だから、書いたときのアイデアに新鮮味がなくなったり、作中で書いた事件と類似した殺人事件が起こり、部分的に削らないといけなかったり。でも、自分の脚本を役者が演じるとこんなふうになるんだ、場所もこんなところで撮ったんだとか、そういう感動がありました。
——その後は順調でしたか。
その後は鳴かず飛ばずでした。デビューしたら仕事がバンバン来ると思っていたら全然だめで。企画書を何本出しても通らない時期が数年続きましたね。
——その間の生活は?
フリーライターをしながら企画や脚本をずっと書いていました。デビューした会社にお願いして、なんでもいいから仕事ください!と。そのうちVシネマや映画、深夜ドラマ「牙狼」などの仕事が来るようになりました。
——その頃から安定しはじめたのでしょうか。
安定はしませんが、脚本家のマネジメント事務所に入れたのが大きいですね。だんだん仕事が来るようになり、ゴールデンタイムのドラマの仕事が頂けるようになりました。
言われたままではなく、それ以上のものに!
——プロの脚本家にとって大事なことは何ですか。
仕事によってプロデューサーが変わるので、言われることも毎回違います。それが難しくて、いつも試行錯誤ですね。「ここは、こうしてください」と言われることもあれば、「自分で考えてください」と言われることもあり、経験に頼ることができません。
——原稿を直すときに気をつけていることは?
言われたことをただ書いていたら書記になってしまいます。そこでもらったヒントをどこまでふくらませて、「この人にしか書けない」と思ってもらえるかが大事だと感じます。
——自分らしさはどう出せば?
実際の現場では、時間の制限とか、CMとか、役者さんの要望とか、いろんなオーダーが来ます。受け入れられることもあれば、作品のテーマに関わることなので、これは譲れないと思うものもあります。そんな譲れないものがスタッフの皆さんと一致したとき、自分的には気持ちがいいし、自分らしいものが書けたと思えます。ただ、映像制作は共同作業なので、自分よがりにならないようにしないといけないなと思います。
——連ドラで大変なところは?
私の場合、何人かの脚本家さんと1つのドラマを書くケースが多いのですが、差し迫ると原稿がかぶってきて、他の脚本家さんが4話を書いているときに自分は5話を書いているとか、前後のエピソードがはっきりしなくて、ぎりぎりまで待ってから書いたり、書いても書き直さないといけなくなったり。プロット通りにはいかないので、そこは大変だなと思います。
——最新作、NHKのテレビドラマ「これは経費で落ちません!」は書かれてみていかがですか。
メインの脚本家さんがいて、私は3話と5話を書きましたが、原作のキャラクターや設定のいいところを生かしつつ、お仕事ドラマとして楽しめるように工夫しました。「うちの会社にもこういう人がいる!」とか、「こういうことってあるよね!」というように、親近感をもって楽しんでいただけたらと思います。
脚本家は、楽しく、夢のある仕事
——ずばり、面白いドラマとは?
キャラクターです。そのためには掘り下げることが大事ですね。ストーリーがよくても、キャラクターが魅力的じゃないと、面白くないと思います。
——誰が見ても面白いか、自分で判断するのは難しいですね。
そうですね、やはり自分の言うことが絶対正しいと思い込みすぎないことです。自分では面白いと思っても、誰も面白いと思わないものもあるんです。こだわりすぎず、素直になることが大切ですね。
——原作が小説の場合、注意する点はありますか。
小説は文章による心理描写が面白い。でも、ドラマではモノローグで延々と語らせるわけにはいきません。もちろん、何も起こらないのもだめ。脚本には映像としての見せ場が必要です。
——漫画の場合はどうですか。
漫画はもともとキャラが立っている分、ドラマにしやすいですね。あとは原作を生かしてどう面白く足していけるかですね。原作ファンがいるので、そのことを意識しつつ書きます。
——原作はどこまでアレンジできるのでしょうか。
原作者にもよりますね。主人公のキャラさえ守れば、ストーリーは変えてもいいという人もいれば、世界観を大切にしているので変えないでくれという方もいます。そこはプロデューサーと相談しながらですね。
——脚本家のオリジナル作品を書きたいと思いますか。
もちろん、書きたいと思いますが、そこにこだわりはないですね。やはり、素敵な原作を見つけたら、これをドラマにしたいなと思います。あまり知られていないいい作品がたくさんありますので、世の中にもっと伝わってほしいです。
——舞台(戯曲)も書かれていますが、切り替えが難しいのでは?
初めて戯曲を書いたとき、場面展開をしすぎて、演出家に「無理です」と言われました(笑)。心理描写をセリフで長く書けるので、そこを生かさないといけません。
——シナリオを書きたい人にメッセージを!
大変な仕事ではありますが、やはり楽しく、夢のある仕事だと思います。自分が伝えたいこと、面白いと思えることを大切に、書き続けていただきたいと思います!
脚本家に必要な3 つの資質
技術力以上に人間力!
書く基礎力は必須だが、現場ではさまざまな制約があり、トラブルが生じる。それに臨機応変に対応できる柔軟性、たび重なる直しに耐え抜く粘り強さが必要!
素直さと客観性
映像の現場は大勢のスタッフで成り立ち、シナリオはその全員が見る設計図。ドラマに没頭しすぎず、いろんな意見も素直に聞き、客観的に見る目が必要。
予想以上のものを出す
プロデューサーの求めていることを的確につかみ、そのままではなく、それ以上のものにする。譲れない部分はしっかりと理由を説明して主張することも大事。
藤平久子
大阪生まれ。雑誌記者を経て脚本家に。「いよっ!弁慶」「魔法×戦士 マジマジョピュアーズ!」「Mi ss デビル人事の悪魔・椿眞子」「探偵が早すぎる」など、脚本・共同執筆を含め作品多数。
※本記事は2019年9月号に掲載した記事を再掲載したものです。