シナリオ創作術④シナリオ公募対策1


シナリオ・センター 柏田道夫先生インタビュー
映画、テレビ、ラジオ、戯曲などシナリオの公募は意外と多いが、書き方はどう違うのか、何に気をつければいいのか……さまざまなシナリオ公募のコツに迫る!
映像で表現するとは?
世界・状況・気持ちを映像で伝える
——映像シナリオの公募に挑戦するとき、まず気をつけることは?
シナリオは映像を作り上げるための設計図。監督、俳優だけでなく、カメラマン、照明、大道具、衣装、ヘアメイクなど大勢のスタッフがそれを見て一つの映像作品を作り上げます。だから誰が見てもわかるよう書きます。まずは書き方の基本を覚えるのが大事です。
——シナリオの書式は小説や他の文章とどう違うのですか。
まず柱でドラマが展開するシーン(場所)と照明を指定して、ト書きにその場所に誰がいるか、何をしているかを書いてからセリフが始まります。人により解釈の異なる表現や小説的描写、カメラに映せないことは書きません。
——カメラで映せないこととは?
気持ち、時間、関係、目的、状況を文章で説明しても映せない。気持ちでいうなら、「弘子は隆のことを潤んだ瞳で見つめる」とは書けても、「心の中で愛していると思った」とは書けません。その思いを表情、仕草、セリフで表します。時間でいうなら「弘子と隆は同郷で一緒に上京して1カ月経っていた」とは書けない。セリフや動作を使って表現します。
——映っていることをト書きにどこまで書けばいいのでしょうか。
ドラマや人物に必要なことだけ。むだなことは書きません。「雨の中、グラウンドで野球チームが試合をしている」と書くなら、本当に雨が必要かどうか考える。雨でどろんこになっても試合を続けたということを言いたいなら降らせる必然性がありますが、なんとなくではだめ。散水車を出せば予算もかかりますし、人員も必要になってくるからです。
——映像以外もすべて同じシナリオ形式で書くのですか。
多少違いがありますが、映画、テレビは似ています。アニメ、漫画原作は完成品が絵という点が異なります。戯曲は場面転換がしにくく、カメラもないので、その点が違い、ラジオは映像がないのでかなり書き方が違います。
ストーリーメイクの秘訣とは?
主人公・設定・テーマをしっかり固める
——面白いドラマを書くコツは?
何より主人公をメインとした物語にすること。どんな人物がどんな世界や状況の中で何をするのか。キャラクターとシチュエーション、描きたいテーマをはっきりさせ、主人公の行動が途中でぶれないようにします。
——キャラクターが大事ですね。
内気な主人公と積極的な主人公では、同じ事件に巻き込まれてもリアクションや展開が変わる。だから最初に人物像の履歴を具体的に作っておくといい。この人物ならこう反応するなとわかれば、全体のストーリーが見えてきます。
——魅力をつけるには?
特別な能力や美男美女、といった長所だけではなく、小動物に弱い、おっちょこちょいなど、私たちにはない長所(憧れ性)と、誰にでもある短所(共通性)を与えると感情移入しやすく、魅力的になる。二面性を持たせるといい。
——テーマは必ず必要ですか。
がちがちに固める必要はないけれど、何を描くのかある程度は決める。人を好きになり、困難があってもそれを貫くことを描くと決めたのに、途中で殺人事件が起きて謎解きがメインになったらおかしい。貫通行動させます。
——ストーリーはどう作る?
1つの空間に主人公がやってきて問題が起きて、それを乗り越えて出ていくのがストーリーの基本。『ローマの休日』は王女様がローマの町で1日を過ごす話で、『千と千尋の神隠し』も千尋が八百万の神様の湯治場にまぎれこんで両親を救うために働く話。構造は同じです。誰をどんな世界に放り込むと面白いかを考えるといい。
——1時間、2時間ものでも飽きずに最後まで観てもらうには?
謎を持たせ、次々に事件を起こして観客をハラハラさせる。ありきたりな展開にせず、窮地に立たせて必死にさせる。すんなり進むとつまらないので、迷わせ、障害をぶつけ、揺れる気持ちを描く。そこがドラマになる。対立・葛藤させつつ展開させるといい。
柏田先生オススメ映画
『卒業』
あらすじ
大学卒業後、帰郷したベンジャミンはミセス・ロビンソンと不倫しながら、彼女の娘・エレーンを好きになる。教会で彼女の名を叫び、ウェディングドレス姿の花嫁を連れ去るラストシーンが有名。
おすすめポイント
式場に乗り込む途中で車がガス欠になり、それを捨てて式場に走る。今考えるとストーカーだけど、「今必死にならないとこの恋は成就できない」と追い込まれる必死さがあるから成立する話。
『初恋のきた道』
あらすじ
18歳の少女チャオ・ディは、町からやってきた小学校教師チャンユーに一目惚れ。以後、彼女は彼のために弁当を作り続け、互いに惹かれていく。だが、文化大革命が起こり二人は離れ離れに……。
おすすめポイント
好きな先生のためにギョーザの鍋を持ち、野山をひたすら走る。鍋を落とし、がっかりして帰る途中に髪留めを落としてまた探しに。なんてけなげ!と感情移入してしまう。「恋は走らせろ」がわかる好例。
シナリオ創作10の鉄則
面白いシナリオにするために必須の10個のポイントを紹介。
①アイデアは今までにない切り口で
スポ根もの、医者もの、弁護士もの、刑事もの、たくさん映像化されたものは新鮮味に欠け、飽きられやすい。検事を主役にした『HERO』やお金をテーマに野球界を描く『グラゼニ』など、今まで取り上げられていないものや新しい切り口を探す。
②見たことのないシーンを描く
いじめといえば、トイレの上から水を撒く、画鋲を靴に入れる、恋愛ものなら、好きな人を追いかけ空港や駅へと走らせる……どこかで見たことのある展開、既視感のあるシーンは書かない。どんなシチュエーションなら新鮮か考え、工夫しよう。
③主人公に二面性を持たせる
「超能力が使える」「天才外科医」「オリンピック選手」「美女・イケメン」となると、興味はわいても共感はしにくい。「時間にルーズ」「片づけられない」「虫が怖い」など、誰にでもあるような弱点を持たせると親近感がわき、感情移入しやすくなる。
④アンチテーゼで始めよう
ドラマでは主人公が経験を通じて最後に変化・成長する。最後に変わる姿の反対(アンチ)から始まるほうが面白い。「金槌なのに水泳大会で優勝する」「高所恐怖症なのに植木屋を継ぐ」など、変化にギャップが大きいとテーマが伝わりやすい。
⑤主人公を葛藤させ困らせる
目的がすんなりかなうと面白くない。何かを選択しないといけない状況や障害をぶつけ、主人公を困らせる。「恋か? 仕事か?」「友達か? 家族か?」どちらが正しいとは限らない選択を迫られ、相反する価値観や考え方で心を迷わせるとよい。
⑥対立する人物にじゃまさせる
主人公を窮地に立たせるため、対立する人物をぶつける。敵対者は悪者とは限らない。「門限に厳しい父」「浮気を阻止する妻」なども目的を阻害する存在となる。バディ(相棒)もの、旅ものを始め、エンタメ作品には対立する人物は必須。
⑦主人公にいいセリフを
ドラマのメインは圧倒的に主人公。たくさん登場させ、ここぞというときの名ゼリフは主人公に言わせる。そのセリフに、他の人なら言わない、その人物ならではの個性が出ているとよい。脇役のほうがキャラが立ってしまっていないか注意!
⑧謎で引っ張る
これからどうなるんだろう?という謎があると、その答えが知りたくなり、人は最後までつい見てしまう。謎は必ずしも大きな事件、トリックである必要はない。「なぜ女嫌いなのか」「なぜ必ず定時に帰るのか」という日常の小さなことも謎になる。
⑨時間的制約を盛り込む
目的達成まで時間に余裕がありすぎると、いつ終わるかわからずダレる。「8時に会社に着かないといけない」「公募の締め切りは1週間後」「3日以内に地球滅亡」など制約があると、「本当に大丈夫なの?」とハラハラドキドキ感が高まる。
⑩見せ場を作る
1時間から2時間、ずっと集中して観てもらうのは難しい。途中で退屈しないよう、ケンカ、ラブシーン、いじめ、事故、自然災害など、思わず見てしまうシーンやエピソードを作る。連ドラや長編なら10分~15分に1度見せ場が欲しい。
柏田道夫
小説家、脚本家。1995年、歴史群像大賞、オール讀物推理小説新人賞受賞。映画の脚本に『武士の家計簿』『武士の献立』など、小説に『猫でござる』など、シナリオ教本に『シナリオの書き方』など著書多数。
※本記事は2019年9月号に掲載した記事を再掲載したものです。