第42回「小説でもどうぞ」落選供養作品


編集部選!
第42回落選供養作品
第42回落選供養作品
Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第42回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。
そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!
今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。
【編集部より】
今回はタオルケットさんの作品を選ばせていただきました!
二分の一成人式で両親に渡す手紙を書くことになった主人公。
父親から、もうすぐ兄弟ができると言われたことを踏まえて手紙を書きます。
手紙を渡す当日、自宅には警察が現れて……。
ビターな(ダークな?)ラストは、ぜひ読んで確認してみてください!
惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。
また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。
課 題
手紙
タオルケット
「二分の一成分式で渡す、お父さんお母さんへの手紙を書きましょう。式の日まで、お父さんお母さんには秘密にしてくださいね。さあ、皆さん便箋を一人二枚取りに来てください」
便箋をもらった私はお母さんへの手紙を早々に書き終えることができた。私の名前はお母さんがつけてくれたと聞いた。「鈴音」という名前はなんだか優しい響きがして気に入っていた。
『名前を一生けんめいに考えてくれてありがとう。毎日おいしいご飯を作ってくれてありがとう。おかあさんのじゃがいもコロッケが大好きだよ。私を生んでくれてありがとう。これからはもっとお母さんが家でゆっくりできるようにお手伝いがんばるね。』
お母さんに伝えたいことはすらすらと書くことができた。次はお父さんである。お父さんは、お母さんより一緒にいる時間が短いからか、すぐには手紙を書けなかった。私はまず、お父さんとのエピソードを思い浮かべてみた。お父さんは物知りだ。ニュースを見て、
「これはこうだからいけないんだ。うん、もっと弱者のことを考えて政策を考えないと」
とか言っていた。そして、お父さんはときどきお菓子を買ってきてくれる。お母さんはあんまりお菓子を買ってくれなかったから、お父さんは、「秘密だぞ」といってこっそり渡してくれた。こんなことも言っていた。
「お前に兄弟ができるんだぞ」
と。お母さんは教えてくれなかったが、私に心配をかけないようにしてくれているのだろう。でも、お姉ちゃんになるのだから、もっとしっかりしないといけない。そう思って、お母さんへの手紙には『手伝いをがんばる』と書いたのだ。そして、お父さんへの手紙も完成した。
『お父さんへ。おかしをいつも買ってきてくれてありがとう。お母さんにはないしょの二人のヒミツだね。いつもおそくまでお仕事おつれさま。わたし達のためにがんばってくれてありがとう。お母さんが赤ちゃんを生んだら、お世話がんばるね。』
二分の一成人式の日。お父さんは仕事で来られないらしい。式を終えた私たちは教室に戻り、各々書いた手紙を机の上に置いて両親が教室に入ってくるのを待っていた。もうすぐこの手紙を渡すんだと思うと、私の胸はどきどきした。そして教室にお母さんが入ってきた。
「お母さん、いつもありがとう。はいどうぞ」
お母さんはゆっくりと手紙の封を開けて、手紙を読み始めた。しばらくしてお母さんは、
「こちらこそありがとうね。鈴音。十歳まで健康に生きてくれてそれだけで嬉しいよ。これからのよろしくね」
「よろしくおねがいします」
お母さんの嬉しそうな顔が見れて、私は嬉しかった。
私とお母さんは笑顔で家に帰った。
家で私は、お父さんが帰ってきたらどんな風に手紙を渡そうか考えていた。お母さんは台所で料理を作っている。そのとき、玄関のチャイムが鳴った。はーいと返事をしながら、お母さんが玄関を開けた。
「ごめんください。南署のものです」
玄関には二人のお巡りさんが立っており、お母さんと話していた。
「ええ、ええ、はい。私の夫で間違いありません。すぐに支度をします」
そう返事をしたお母さんは、私にジャンパーを着るように急かした。私とお母さんは、そのお巡りさんに連れられパトカーに乗せられた。警察署の一室に連れられて、私たちはお巡りさんの説明を聞いていた。
「香川順二さんは、あなたの旦那さんですね」
「はい」
「旦那さんは、今日お昼ごろ、パチンコ店で女性に暴力を振るおうとしたところ、周りの従業員に取り押さえられました。幸いにも、相手にけがはなかったようです」 お巡りさんが何を説明しているのかはほとんど分からなかったが、母が何度も謝っていたから、きっと悪いことをしたのだろうと思った。お巡りさんの話が終わったあと、しばらくして私たちは家に帰された。
「お母さん、お父さんはいつ帰ってくるの」
「そんなの、お母さんに分かるはずないじゃない」
お母さんは怒った様子で吐き捨てた。そして今度は、
「ごめんね、鈴音。お母さんが、お母さんが、この人と結婚したから」
と泣き始めた。ティッシュをほとんど一箱使い果たした頃、お母さんは独り言のようにつぶやき始めた。
「鈴音にはお父さんがいた方がいいわよね。私一人では大学に行かせられるか分からないし。私が我慢すればいいのよね。私が」
私はそんなお母さんのことが心配で声をかけた。
「お父さん悪いことをしたの? でも、いつも優しいよ。お父さんね、お母さんには秘密にしていたけど、ときどきお菓子を買ってきてくれたんだよ。私が喜ぶから。ね、優しいでしょ」
「それはね、パチンコの景品」
小さくつぶやくお母さんの言葉の意味を理解せずに、私は続けた。
「あとね、お母さん、赤ちゃん生まれるんでしょ」
その言葉を聞いて、落ち着きを取り戻していたお母さんの目が急に怖くなった。
「それ、誰が言ってたの」
「お父さんが。兄弟ができるって」
「私は妊娠なんかしていないのよ。お父さんはだれを妊娠させたのでしょうね」
お母さんは震えていた。怒っていて、私はこれ以上話しかけることはできなかった。でも、子どもながらに、もうお父さんとは会えないのだと悟った。私はお父さんへの手紙を破り捨てた。
(了)